5年前の真冬。
プロジェクトに参画していたために、私は福島県の会津若松市を頻繁に訪れていました。
さまざまな観光スポットや街並み、山に湖、そして郷土料理や日本酒に触れているうちに日本でも有数の酒どころ会津の酒蔵を少しずつご案内いただくようになりました。
会津のお酒といえば、飛露喜、末廣、写楽、宮泉....とすぐに思いつく有名なものばかり。そして大小さまざまな酒蔵をご案内いただいた中でも、この時訪ねた鶴乃江酒造にグッときたのでした。
鶴乃江酒造は創業以来200年以上の歴史を誇る老舗の酒蔵。当主の林家は、会津藩御用達頭取を務めた永宝屋一族。「会津中将」と聞けばピンとくる人も多いかもしれません。
林家直系7代目の長女である女性杜氏、ゆりさんの名前がついた「ゆり」という日本酒の名前も最近では広く知られています。
小さな木造の酒蔵の中。薄暗い作業場の中は道具に溢れていて、昔からそのままの様子が醸されて、ゾクゾクするような雰囲気が立ち込めていました。
1階の蒸強(蒸す場所)には蒸米の香りと白い湯気が上りたち、寒い冬でも汗をかくほどの熱気。大きな蒸し釜の前に従業員が並んで、蒸し上がった麹米をザルに上げて順次運び出していきます。
釜の前でひたすらメモを取るゆりさんは、従業員たちと冗談まじりに話しながら終始笑顔。そしてザルを担いで行くその先には、今時珍しい手動式の滑車。
2階の枯らし場で待ち構えていた従業員の手により紐で引っ張り上げられたザルはひっくり返されて、麹米はあっという間に床に広げられていきます。真っ白な湯気が立つ空間には何台もの扇風機。ここで一気に冷却するのです。
この光景こそが老舗酒蔵の「ニホンノカタチ」。
この後、全工程を手作業で行い、全量を「ふね」と呼ばれる樽で絞る鶴乃江酒造の酒造り。一気にたくさんの量は作れなくても、一本一本丁寧に丁寧に造られていました。
日本酒に対する気持ちが一気に変わった体験でした。
蒸米は担いで運ばれる