今やメディアでも多く取り上げられ、ミシュランの「ビブグルマン2023」や「東京最高レストラン」に選出された東京渋谷の「かつお食堂」。削りたてのかつお節がわっさりと乗ったご飯と味噌汁、そして付け合わせがセットになった定食「かつお食堂ごはん」を提供して早5年。丁寧に削られた香り高い削り節とご飯を頬張ると、ふんわり優しいかつお節の香りに朝から背筋が伸びてなんとも幸せな気分になります。
この店を切り盛りする店主のかつおちゃんこと永松真依さんと私は、実は食堂が開店する前からのご縁。9年前、出会った頃の彼女は華やかなファッションに濃いめの化粧をしていて、いわゆる若くて可愛いお嬢さんだったのですが、会えば必ず「かつお節」の話をする...という変わった女の子。お酒の席でゆっくり話が聞けないからと一度ランチをする約束になったところ、「かつお節」の話をなんと4時間も聞く羽目になったのでした(笑)
要するに、彼女が夜遊びに興じて見るに見かねたご両親が、鹿児島の御祖父母の元へ彼女を送りこんだ。自ずと夜遊びもできない田舎の規則正しい生活を強いられ、その中で日々おばあちゃんが鰹節を削る姿の美しさにハッとしてから、出汁の旨味やかつお節のポテンシャルに感銘を受け、「この素晴らしさを全国に伝えたい!」と若干前のめり気味に、削り機とかつお節を手に旅を始めたとか。持ち前の明るさと人懐こさでさまざまな出会いを通じて、更に日本の食の出汁文化の素晴らしさを知ることになり、ますますかつお節にのめり込んでいったかつおちゃん。
こちらが「かつお食堂」名物かつお節ごはん
興味はかつお節からかつおそのものにも派生して、全国の漁師さんを訪ね、宮古島では漁船に同乗させてもらって一本釣りを経験、その後はかつお節ができるまでの工程を知るために、長期間に渡って職人さんと共に骨抜きからカビ付けまでを経験したというから驚きです。
かつお節が完成すると、今度は鰹節を削る道具に目が行って、鋼で有名な新潟の燕三条や兵庫の三木を訪ね、削り機一つが出来上がるのに4人の職人の手が絡んでいることを知り...とまあどんどんと深みにハマって行ったわけです。
かつお節を語るのにそこまでしないと気が済まなかった...と振り返って話をしてくれました。
そして満を持しての「かつお食堂」の開店、それが2017年11月のことでした。
間借りしてようやく開店した「かつお食堂」(2018年11月撮影)
そんな彼女が子供の頃からふと疑問に思っていたのが、毎日の食事前の「いただきます」と「ごちそうさま」。
「これらの言葉はどこに向かってするものだろう?」ということ。「命に感謝」と言われても、東京育ちの彼女にはあまりにも漠然としていてピンと来なかったとか。
ところがかつお節に出会って漁師さんと接するようになって、ある日漁の船上で水揚げされたばかりのかつおをその場で即絞めして食した時に、それこそが命をいただいたと実感、本当に「ありがたい」ことだと腑に落ちたと言います。
それまでの彼女は「かつお節好きの女の子」として、自分を知ってもらうことが最優先でしたが、それをきっかけに一転、この「ありがたさ」を伝えていきたいと考えるように。削ること、出汁を取ること、日本の食文化のポテンシャルを知ってもらうこと...ここにフォーカスをしてからは、関係文献を読み漁り学びに学びました。実際に彼女の自宅には驚くほど真面目で難しそうな分厚い書籍がズラリと並んでいました。
部屋の中にはかつおグッズや古い文献の書籍などが所狭しと並ぶ
夜にバーを営む店を借りて始めたかつお食堂はあっという間に話題になり、1年もしないうちに行列ができるようになりました。彼女の真摯な向き合い方とかつお節への愛は、どんどんと知られるようになって、ついにメディアに登場するようになり一躍有名人に。
そんな彼女が現在に至るまでのプロセスと、これからのことも語ってくれました。
続きは来月の後編をお楽しみに。
2023年2月17日に主婦と生活社から発売になったばかりの書籍「鰹節を手削りする 美味しい暮らし: 日本の味いただきます /永松真依」。
書籍全般の撮影で私も関わらせていただいています。是非全国書店やAmazonでチェックしてお手に取ってみて下さい。