前回に引き続き、シテ方観世流の演能団体「銕仙会(てっせんかい)」に所属される能楽師で、友人でもある鵜澤光さんにフォーカス、能の世界についてお話を伺いました。
まずは前回のおさらいから。
能楽は「シテ方」と「ワキ方」「狂言方」、そして「囃子方」で成り立つ完全分業の演劇で、光さんはシテ方。話を伺えばシテ方は役を演じるだけではなくて、舞台の後座で装束の乱れをなおしたり、小道具を渡したり、江戸時代以降はそれぞれの装束、面や鬘(かずら)の管理から、大道具小道具の組み立てまで役割が広範囲に渡ります。
「能は役者だけでできる」とも言われるほど。そんなシテ方が扱う能舞台に関わるいわゆる「アイテム」の装束について前編でご紹介しましたが、今回は扇や能面について触れてみましょう。
2.「扇」
現在「鎌倉殿の13人」で再び注目を集める源平合戦。能では源平の演目も多くありますが、壇ノ浦で最後をむかえた平家側が使う扇には「波に夕陽」が描かれています。逆に勝ち武将の演目では「松に日の出」が描かれたもの。
能で使われる扇は「中啓」と呼ばれ、一般のお扇子と形が違います。
舞台上で扇を用いて舞う姿はやっぱり華やかですし、所作で展開を理解しやすくなるような気がしますね。
右は中啓、左は鎮扇(しずめおうぎ)
扇の種類もさまざま
3.「能面」
能において一番注目を浴びやすいアイテムではないでしょうか?「般若」や「翁」など面は見る角度や光の具合で全く表情が変わるし、演者からすればいつどの舞台の時に用いたかで思い入れも変わるそうで、どんどんと表情が変化していくとか。興味深い!魂が宿るのでしょうか。
面はあくまで人の顔につけてこそ生きるもの。ということで今回は空(くう)に持っていただいて、その表情が生きる角度や光を探りました。いかがでしょうか?
それぞれの表情を生み出す面数々
面箱はお母様の久さんがドイツから持ち帰ったもの
これらのアイテムを用いての一挙手一投足で物語を紡いでいく能の世界。全てに意味があるその奥深さには改めて感銘を受けました。そして表現される緩急と余白はとても哲学的。
動画や写真でダイレクトな表現が優位とされる今の時代にこそ、能のような「余白に考えさせられる」世界には魅力を感じるのですが、光さん曰く、戦国時代の能は今よりもっとスピード感があって、曲調も短調というよりは長調で「ポップな舞台」だったらしいとか(笑)
また舞台上では、本人達にしかわからない暗号サインが出されてアドリブもふんだん、もっとフレキシブルだったと言われています。
ちょっと儀式的で「ハードルが高いのかな?」と思われがちな能の世界。
それでもあくまでエンターテインメントだったということを考えれば、多くの日本人が自国の伝統芸能として、もっと気軽に楽しめるものであってほしいと改めて思いました。
ところで。能舞台の床下がどうなっているかご存知ですか?
実は音が響くように、甕(かめ)が仕込まれているのです。甕の空洞に共鳴して舞台の音響効果が上がるのだとか。これにはびっくりでしょう?
禁断の舞台下!音響効果のために仕込まれた甕(かめ)
「銕仙会能楽研修所」
〒107-0062 東京都港区南青山4-21-29
03-3401-2285(平日10~17時)
http://www.tessen.org