京都の友人の学生時代の同級生のご実家が老舗の装束店と聞いて、俄然興味を持ったのが今年2月。
出張のタイミングに前乗りして訪問、お話を伺うことができました。京都市役所に程近い姉小路通りには、魅力的な老舗店が立ち並んでいます。
慶応3年創業、150年以上の歴史を持つ「三上装束店」は、この場所に移転してからは7年だそうで、真っ白で洗練されたデザインの新しいビルのショウウィンドウには、待つ春を思わせる色の装束がディスプレイされていて、その小路でも一際目立っていました。
一階はお客様との商談スペースと事務所、二階三階は作業場と倉庫の新しいビル
「装束」と聞いて私たちが思い浮かべるのは、皇族や神社の巫女さんなどの神職者の衣装。私たちの日常の生活にはあまり接点のない装束を実際に手にすることもあまりないでしょう。私自身も触れたことのない装束ですが、以前足を運んでいた宮内庁の雅楽演奏会で、その煌びやかな装束の色や紋様、そして飾りや靴、被り物の形にも目を奪われ、興味を持った記憶がありました。
今回お話を伺ったのは、現在三上装束店の代表を務める三上聖子さん。四代目を担ってきたご主人亡き後、この老舗店を切り盛りされています。
京装束や京神具は平安時代に始まったもの。昔は京都御所の周りに宮家お抱えの装束店が集まっていたそう。装束店は身に纏う装束だけでなく、神殿のお飾り、提灯やお守り、烏帽子や冠、そしておみくじまで「神社にまつわる全てのもの」を取り扱っています。三上装束店でもかつては店と同じ場所に職人さんがいて、そこで手作りしていたそうですが、日常的な注文が入らない現在は、外部の職人さんに発注することがほとんど。しかしながら、その技術を持つ職人も年々減っているのが現状だそうです。
冠や祝詞袋も扱う装束店
そんななか、聖子さんは元々手仕事が好きだったこともあり、お嫁に来た当初から職人と共に装束や神具作りに携わってこられたことから、今でも店の二階で実際に手を動かすこともあるそうです。装束の製法において呉服と決定的に異なるのは、生地に「平打ち」と呼ばれるナイフのような道具で切り目をつけて、そこに紐を通していく独特な職人技術。
平打ちで切り目をつけて紐を通した生地
他にも、糊で始末する「ひねり」という技術や、立体的に仕上げる木型や厚紙を用いたり...と、まるで工作と裁縫が合わさったような、これまで見たことのない製法を用いています。
そして更に私が一番注目したのは、装束のそれぞれの生地の色と重ね方、そしてさまざまな紋様。位や季節によって装束の襲色目の配色も異なり、三上さんが見せてくださった「かさねの色目配彩考」は、平安衣装にみる四季折々の配彩美を故実書から検証してまとめられた、言わば「かさね」の参考書だとか。中を開けば「山吹匂」「萌」に「葵」など、季節ごとの名称と色見本が並び、「松重(まつがさね)」「菖蒲単襲(あやめのひとえがさね)」など色の重ね方についても記載があって、その字面の美しさにうっとりとしました。
「かさねの色目配彩考」さまざまな色が溢れている
すっかり興味津々になっていると、奥から聖子さんが次々とアイテムを持ってきてくださって、目の前が華やかな色と紋様でいっぱいに。その煌びやかながら上品で繊細な日本の色使いのポテンシャルが誇らしく感じるひと時でした。
「私は主人の後の4,5代目よ(笑)」と話す三上聖子さんはエレガントな京美人
三上装束店
〒604-8092 京都府京都市中京区姉小路通寺町西入ル姉大東町547-2
TEL:075-221-4041
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