熊澤酒造は茅ヶ崎の内陸部に醸造所を構える湘南唯一の酒蔵。明治5年に創業し150年の歴史を誇り、「天青」を始めとする日本酒のラインナップは地元のみならず多くの方々から愛されています。
それでも長い歴史の中で、四半世紀ほど前に廃業の危機があったといいます。そのピンチを救ったのは、海外にいた現在の6代目が帰国し、酒蔵を継いで新たな展開を始めたことでした。
現在の熊澤酒造は日本酒だけでなく、ビールや蒸留酒造りにレストランやカフェ、アンティーク雑貨のショップも経営し、酒蔵は地域住民が集まる場所に。地元が近い私もかつてレストラン利用したことがあり、また友人がこの酒蔵で働いているご縁から、今回は蔵の中を見学させていただけることになりました。
蒸米を冷却機にかけるスタッフ(左:友人の佐藤ケイジさん)
かつては、冬の間だけ地方からやってくる出稼ぎの蔵人たちによって造られていた日本酒は、2000年を機に「熊澤酒造らしい日本酒造り」を目指して地元で社員を募集し、集まった若手と共にたった5人でゼロからの再出発。
それから時間をかけて、昔からの酒蔵の建物の外壁と梁を残し、中の造りは自分たちで一新。蒸米、冷却、製麹から仕込み、発酵に搾り、そしてボトリングまで全ての工程に無駄のない動線を作ったことで、少人数での酒造りが実現しました。
粕小屋は酒粕を長期熟成する場所。内壁についた菌はまるでアートのよう
私は以前、敷地内に防空壕の貯蔵庫があることを知り、今回の取材では是非ともその中を拝見したいと思っていましたが、それが叶っていよいよ敷地内奥の小屋へ。
トタンの外壁に木製の扉、その横には「粕小屋」の小さな看板。その入口だけでもうワクワクが止まりませんでした。中に入ると煉瓦が無造作に積まれており、作業の途中である様子が伺えました。
その奥にはずっと伸びる煉瓦造りのトンネル。裸電球だけでは奥の様子がよく見えず、足を進めると、内壁にふわふわと菌のようなものが張り巡らされていました。ここが第二次世界大戦の頃に作られた防空壕の跡地。この中は陽が一切入らず、15~25度の一定温度に保たれるため、長期保管するお燗用のお酒の貯蔵には理想的な環境だったそうです。
更に奥に進むと、山廃造りの純米酒が入ったケースが積まれていました。独特な雰囲気を放つ秘密基地のようなこの空間からの「ニホンノカタチ」。
心地のいい敷地内は全て移築した古民家をリノベしたものだそう
なんとなく海外のワイナリーを彷彿とさせる緑の多い敷地内のカフェには、平日の昼間にもかかわらず、続々とお客様が入っていきました。そして地元の若い農家さんが野菜を売りに来ているブースにも多くの人だかり。地域住民の日常生活に利用される場所として人気が高いことを知りました。
現在は近くの田んぼでの米作りから酒造り、そして販売までをスタッフ全員が担当する熊澤酒造、地元の人たちと直接コミュニケーションをして築き上げてきた信頼関係こそがその人気の秘密。心地のいい空間はまるで一大アミューズメントパークのようでした。
ご案内くださった五十嵐さんは現在の社長就任の翌年に新卒で入社、
新しい熊澤酒造を支えるメンバーの一人
熊澤酒造
神奈川県茅ヶ崎市香川7-10-7 0467-52-6118(本部)