ニホンノカタチ 旅恋ver. by yOU(河崎夕子)

第17回 創業250年!役者の足を支えてきた足袋屋「大野屋總本店」(東京・新富町)

古い古い木造2階建ての店舗は江戸風情残る新富町でも一際目を引き、店に入ってその奥の暖簾を潜ればそこからが製造工場。2階にはずらりと並ぶミシンと裁断機、積み上げられた反物や木型、複数のミシンの音が鳴り響き、それを動かすモーターでガタガタと揺れる木造の床…。数年前に訪れた時に、まるでタイムスリップしたような空間にすっかり魅了された私は、大学の先輩でもある(ことが後で判明した)7代目の当主、福島茂雄さんに今回この機会に是非お話を伺いたいとお願いしたところ、再訪が叶ったというわけです。

一際目を引く古い木造建物

創業は江戸中期。250年続く大野屋總本店の足袋は「新富形」と呼ばれ、底が狭く、つま先を丸く仕上げることで足を綺麗に見せるといいます。かつてこの町にあった新富座、そして近くの歌舞伎座や新橋演舞場と一大芝居小屋エリアに位置することもあって、江戸の後期からは役者を始めとする伝統芸能に関わる人達に愛され、長きにわたってお付き合いしてきているのだそうです。

工場の中の様子

日が暮れる頃、今回も2階に上がらせていただくとまだ縫製中のミシンの音が鳴り響いていました。裁断機で型紙にそって裁断された外甲、内甲、底の3枚の布は、向かい合って数台並ぶミシンで縫い合わされ、専用ミシンでコハゼがつけられます。
縫い合わされたものは返し棒で表に返され、その後木型に入れて木槌で叩くと、縫い目が柔らかくなり、履いた時にゴロゴロとした違和感がなくなるのだそうです。
こうして足袋は昔ながらの手法で一つ一つ丁寧に作られていきます。大きくて無骨な裁断機やシンガーの足踏みミシン、1894年製のコハゼ専用のミシンの機能美に心踊り、そして足の形の数だけずらりと並ぶ木型も、私にとってはまるでおしゃれなオブジェのように見えました。

ずらりと並んだ木型

1階に降りて、福島さんが奥から出してきてくださったのは、沢山の型紙。ちらりと目をやれば誰もが知る歌舞伎役者の名前がずらり。名前の下にはいつどのくらいの数を作ったかが記されていました。
代々変わらないそんなアナログなスタイルも日本の伝統芸能を支える一端として、嬉々とする光景でした。もちろん役者だけでなく、舞踊家や、能楽師、狂言師、雅楽師....と伝統芸能に携わるさまざまな人たちの足袋も誂えています。それぞれの用途に応じて、生地や染め、形、そしてコハゼの色や数が異なるというのもまた興味深いお話でした。

アナログで管理される多くの型紙には有名役者さんの名前も

7代目として後を継ぐことが漠然としていた学生時代、日本の大学を出た後はアメリカのニューハンプシャーの大学院に留学していた福島さん。その後帰国して大手商社勤務を経てからお店を継いで25年ほど。今はほとんどの時間をこの新富町の中で過ごしているとのことでした。
日本人の足を支えてきた足袋がこれからも廃れぬよう守り続けていただきたいもの。私も大野屋總本店で自分の新富形を誂えて、着物で歌舞伎鑑賞....といきたいところです。

7代目当主の福島茂雄さんと店にかかる暖簾

大野屋總本店
〒104-0041 東京都中央区新富2-2-1
TEL : 03-3551-0896
時間 :9:00〜17:00
休業 : 土日・祝日
アクセス : 新富町駅より徒歩3分
http://www.oonoyasohonten.jp/

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