北海道南部に位置する函館市。この町に私はこれまで仕事で3回、プライベートで4回ほど訪れています。プライベートでそれだけ訪れるようになったのは、今から10年ほど前に発刊した書籍「酒場のおんな」で共著した相棒の着物美人、如月まみさんの故郷で、この本にも函館の酒場を掲載しようと相成り、彼女の故郷を一緒に訪ねたのがきっかけでした。食べ物の美味しい冬の季節に訪ねることが多く、寒い北海道では地元の人たちは歩き回ることもなく、基本的に車移動だとか。これまでも車でお連れいただくことが多く、なんとなく地図を見ずに旅をしていたので、地理感を持たぬままでいました。
ところが昨年、思いがけず一人で余暇を楽しむ時間を持つこととなり、初めて公共交通機関と徒歩で函館をぐるりと移動してみたところ、その位置関係やサイズ感をようやく手にした気がしました。函館山の中腹をのらりくらりと立ち寄りながら、2時間歩いてその魅力を実感! やはり旅の醍醐味は歩くこと。
この時、函館山の最西部には美しい夕日を眺められるスポットがあると知って、路面電車の函館市電で終点「函館どつく前」下車、函館山の伸びる坂道の中でも一番西に位置する魚見坂をゆっくりと登り、10分ほど行ったところにある「ティーショップ夕日」へ。
ここから眺める美しいサンセットは格別。
静かな水面は鏡の様で、私の大好きな瀬戸内のそれとはまた違って外海につながる雄大さを感じながら。ぼんやりと日が落ちていくのを眺めていました。この時の函館山の丘陵散歩はそこからスタートしました。
美しい夕日を眺められるティーショップ「夕日」は人気スポット
夕日が対岸の峰の向こうに落ちた後、マジックアワーに美しいグラデーションを作る空の下、私は丘陵の道を町側に回り込んでいくことにしました。高龍寺から東に折れると、市街に真っ直ぐに伸びるのは何本もの坂道。千歳坂、幸坂、姿見坂、常盤坂...とそれぞれ名前のついた坂を見下ろしながら丘陵を進み、観光スポットで有名な元町公園まで歩くと一気に視界が広がります。
最近ではおしゃれなカフェや雑貨屋が立ち並ぶ観光スポットになっているこのエリア。一番知名度が高い坂道は海に抜ける八幡坂。度々メディアにも登場しています。
今回の「ニホンノカタチ」はこの八幡坂から。
洋館造りのホテルが並ぶこの坂道はフォトジェニックで、カメラを構える人々も多く、微笑ましい写真教室のグループを横目に通り過ぎると、右手のハリストス教会の鐘の音に誘われて中をぐるりと一周。その頃にはどっぷりと日が暮れて点在する建物はそれぞれライトアップされる時間になりました。
ハリストス教会の鐘を見上げて
空の色が少しずつトーンダウンしていく中で、ゴールと決めていた「二十間坂」へ。この坂を下ることにしました。そしてその時初めて知ったのがこの夜が満月だったこと。歩きながら街灯がゆらめく中をどっしりと構えて見下ろす満月を一瞥しながら、異国情緒たっぷりのこのエリアの散歩を終えたのでした。
美しい満月の夜でした