子供の頃からどういうわけだか、魅了されて止まない「道具」の機能美。
今も取材などで職人さんのいる「コウバ」に行けば、そこにずらりと並んでいる、使い方の想像もつかない専門的な道具の数々に思わず萌えて、シャッターを切ることも多いのです。
そもそも考えてみたら、写真を始めたきっかけも写すことへの興味ではなく、「つまみ」や「レバー」や「ダイヤル」のついたカメラ本体のフォルムに惹かれて触り出したのが最初でした。
今回のニホンノカタチはそんな道具たち。
さて、これは何に使うものかお分かりでしょうか?
何をさばいているでしょう?
正解は鰹節づくりの工程で使う道具でした。
静岡県西伊豆町の田子地区に130年続く鰹節屋さん「カネサ鰹節商店」で、鰹をさばく時に使われている刃物の数々。実際に訪れた際、その工程を少しだけ見せていただきました。
鰹節といえば、鹿児島県や高知県、和歌山県を思い浮かべますが、この田子地区は昭和初期には船を40隻も保有する鰹漁の盛んな漁師町でした。ところが年々船は減り、平成12年にはついにゼロ。当初40軒あった鰹節業者も3軒にまで減ってしまいました。
この田子地区の本枯節は「伊豆節」と呼ばれ、中でも「手火山式焙乾製法」を用いたカネサ商店の鰹節は、日本でも有数の由緒ある高級品。
鰹を「さばいて」「煮込んで」「焙乾して」からの「カビ付け」と、これらの工程を踏んで美味しい鰹節が完成するのです。
中でも「焙乾」という工程は、薪を燃やして130度の煙で燻して1〜2時間ほどじわじわと乾燥させること。殺菌効果があり、雑菌の侵入や腐敗を防ぐこの工程を10回〜15回ほど繰り返します。
「手火山式」と言われる由縁は、熟練した職人の手で火の温度を確認することから。そして乾燥させている間は職人がずっと見張ってなくてはならず、とにかく手間がかかるのです。
また、1300年ほど前から税金の代わりに上納品として重宝された「塩カツオ」を、今も昔の製法のままで作っているカネサ商店。今でも縁起のいい食べ物として正月に神棚にお供えする風習が残っています。
上納品として始まった塩鰹
この伝統を大切に継承する5代目の芹沢さんは、この食文化を多くの人々に知ってもらいたいと、忙しい時期をのぞいては見学者を受け入れて、丁寧にかつ熱く鰹節や塩鰹の歴史や工程について話してくださいます。
「いいものは残していきたいけど、こだわりが強いものはなかなか継承しにくい。でも。できる限りルールに忠実なプロセスを踏んで、先代の作ってきたものに近づけたら」と語る芹沢さんの目はまっすぐで、日本の食文化継承の担い手としての責任のようなものを感じました。
「カネサ鰹節商店」5代目の芹沢さん
カネサ鰹節商店
住所:静岡県賀茂郡西伊豆町田子600-1 TEL:0558-53-0016
http://homepage2.nifty.com/kanesa16/
西伊豆町観光協会 http://www.nishiizu-kankou.com/