2020年3月現在、1121件の世界遺産がありますが、イタリアと並び、55件と登録数が一番多いのが中国です。そのなかでも特に有名な世界遺産はというと「万里の長城」ではないでしょうか。
1987年に世界文化遺産に登録された「万里の長城」(写真:Pixabay)
学生時代の曖昧な記憶から、万里の長城は、紀元前221年に初めて中国を統一した秦の始皇帝によって建造されたものとばかり思っていました。あらためて確認してみると、秦以前の春秋・戦国時代に各地ですでに城壁は建てられており、秦の時代にそれらを繋げ、拡大改修して、現在の長城の原型を造り上げたのでした。
匈奴などの北方民族の侵入を防ぐために造られた長城は、秦以降も各時代の王朝の防衛戦略に応じて維持・建設されてきました。また全く長城を利用しない王朝もありました。現在残されている城壁の多くは、1368年建国の明によって築かれたものです。モンゴル民族の元を北に追い、中国を統一した明にとって、国境の防備は重要でした。そのため長城の増改築にも注力したのです。そして、明の次の王朝、清は長城を整備することはありませんでした。というのも、清を建てたのは、北方民族の女真族(満州民族)であり、彼ら自身が北から長城を越えて華北に入り、北京を占領したからです。
石や土で造られていた城壁は、明代に入ると焼成レンガが使われ、より堅固に(写真:Pixabay)
清時代に荒廃した長城も、中華人民共和国が成立後、再評価され、現在は保護・保全に努められています。2012年の中国国家文物局の発表によると、万里の長城の総延長は2万1000km超にも及ぶそうです。ただし、全長が世界遺産というわけではありません。保存状態のよい「八達嶺(はったつれい)長城」、「山海関(さんかいかん)」、「嘉峪関(かよくかん)」の3つのエリアが登録されており、その合計はわずか21.5kmにしか過ぎません。
世界遺産に登録された八達嶺は、万里の長城の中でもよく知られた場所で、北京市街からも車で約1時間と近く、多くの観光客で賑わいます。北京を訪れた際には、長城に立ち、中国の悠久の歴史を感じてみてはいかがでしょうか。
世界最大級の建造物で、山の稜線に沿って延びる姿は「龍の背」に例えられることも(写真:Pixabay)