元々人を惹きつける魅力のある観光地が世界遺産に登録されることもあれば、世界遺産に登録されたことで注目を浴び、多くの人々が訪れるようになることもありますが、どちらにしても世界遺産と観光は切っても切れません。
ただ、なかには訪れることができない世界遺産もあります。例えば、日本なら「沖ノ島」。2017年、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の8つある構成資産の一つとして登録されました。日本と朝鮮半島の間に位置する島は、4世紀後半~9世紀末の約500年間にわたり、朝鮮半島や中国大陸へ渡る航海上の重要な道しるべの役割を果たしてきました。そして島では航海の安全と交流の成就を祈るため、銅鏡や鉄剣、勾玉などが神へ捧げられ、祭祀が行われていたのです。これらの奉献品は約8万点にも上り、すべてが国宝に指定されています。
また島全体が信仰の対象となっており、女人禁制が守られています。かつては年に1度、現地大祭の際に、選ばれた200名ほどの男性が禊を経て、上陸を許されていましたが、2018年以降は、それも認められなくなり、一般の人々は立ち入ることができなくなりました。行けないとなると余計に見てみたくなるものですが、大島にある宗像大社沖津宮遥拝所が最も沖ノ島に近づける場所となっています。
沖ノ島に最も近い沖津宮遙拝所(Photo by 写真AC)
同じように女人禁制の世界遺産で思い出すのが、ギリシャの「アトス山」です。ギリシャ正教の聖地の一つで、点在する20の修道院に1,000人を超える修道士が厳しい修道生活を送っています。ギリシャ領にありながらも自治権が認められ、陸路が封鎖されているので、船でしか上陸できません。現在も女人規制で、男性でも許可書がないと入山できない決まりとなっています。入山許可書のない一般の旅行者がこの聖地へ近づくには、観光クルーズに参加して、船上から修道院を眺めるしかありません。特に女性は、岸から50m以内に入ることも禁じられています。
アトス山の修道院のひとつ、シモノペトラ修道院(Photo by iStock)
ジェンダーフリーが叫ばれている現代にあって、このような伝統は非難の対象となることがあります。ただ、自然崇拝や宗教に根差した伝統によって守られ、受け継がれてきた文化というものは簡単に否定することもできません。世界遺産登録においてもそれぞれの宗教観は尊重されているのです。