マイスターと世界遺産の知の旅へ by 山本厚子

第2回 こんな不思議な宮殿も!王族や貴族に愛された避暑地、ポルトガル・シントラ

8月末、『ポルトガル、夏の終わり』という映画を鑑賞しました。イザベル・ユペール演じる、死期を悟った女優が家族や友人をポルトガルのシントラに集め、最期のバカンスを過ごそうとしたところから物語は始まります。

 

映画の舞台となった街・シントラは、首都リスボンの郊外にあり、「シントラの文化的景観」として世界遺産に登録されています。ムーア人(北西アフリカのイスラム教徒のこと)が支配していた地を、レコンキスタ(国土回復運動)を経て、12世紀にポルトガル初代国王アフォンソ1世が奪還。以降、王室の夏の離宮が置かれるなど、王族や貴族の別荘が建てられ、避暑地として栄えてきました。深い緑に覆われた周囲の山々とこれらの建造物が調和した美しい景観が広がります。

観光の起点となるのは、シントラ・ヴィラと呼ばれる地区

 

世界遺産に登録されている「シントラ宮殿」は、14世紀、イスラム教徒が残した建物をジョアン1世が増改築した夏の離宮です。その後も手が加えられ、ムデハル、ゴシック、マヌエル、ルネサンスなど多彩な建築様式が見られます。

 

19世紀後半までポルトガル王家が住んでいたシントラ宮殿

 

ポルトガルらしいアズレージョ(装飾タイル)で彩られた「紋章の間」

 

日本人の感覚からすると本当に自然に調和しているのかしら?と思わなくもないのが、「ペーナ宮殿」です。マリア2世の王配フェルナンド2世が、廃墟となっていた修道院を改築しました。赤や黄色の外観は、どこかテーマパークのようにも感じます。ドイツから建築家を呼び寄せ、イスラム、ゴシック、ルネサンス、マヌエルなど各様式を取り入れたユニークな建物です。

 

奇抜な外観のペーナ宮殿ですが、内部は豪華な調度品が飾られています

他にも、7~8世紀にムーア人によって建設された「ムーアの城跡」や王族の別邸を改装した「レガレイラ宮殿」も世界遺産に登録されています。

数々の見どころがあるシントラですが、映画にはこれらの観光スポットは出てきませんでした。それでも朝霧が立ち込める、静けさをたたえた山や森など、シントラの美しい自然が神秘的に描かれています。映画を観れば、シントラへ旅したくなるのではないでしょうか。機会があれば、ぜひ出かけてみてください。シントラから足を延ばせば、ユーラシア大陸最西端のロカ岬もすぐそこです。

 

「ここに地果て、海始まる」とポルトガルの詩人が詠んだロカ岬

 

 

 

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