「パレスチナ問題」として知られるイスラエルとパレスチナの紛争ですが、この5月から6月にかけて対立が激化していました。ニュースでご覧になった方も多いと思います。ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」とイスラエル軍の間で暴力の連鎖が続き、その後停戦合意したにもかかわらず、再び空爆などが行われ、緊張が高まっています。問題解決の糸口を見つけるのは容易ではなく、まだまだ時間がかかりそうです。
エルサレム旧市街(Photo by Photo by Sander Crombach on Unsplash)
世界遺産の登録という側面においても、この問題の複雑さを如実に表している物件があります。1981年に登録された「エルサレムの旧市街とその城壁群」です。実はこの世界遺産は実在しない国、エルサレムが遺産保有国となっています。もちろん存在しない国ですから、隣国のヨルダンが代理申請しました。通常、世界遺産に登録されるには、遺産を保有する国自身が申請しなければならないことなどが定められていますが、唯一の例外となっているのがこの遺産なのです。
「嘆きの壁」はユダヤ教徒の祈りの場 Photo by Sander Crombach on Unsplash
ユネスコでは、世界遺産誕生前からエルサレム旧市街の保護・保全について問題視していました。第三次中東戦争でイスラエル軍が東エルサレムを占領した翌年、1968 年のユネスコ総会で、イスラエルに対してエルサレム旧市街の文化財の保護を求める決議を出しましたが、その後、イスラエルは充分に旧市街の管理を行っていませんでした。そのため、1975年に世界遺産条約が発効すると、1980年には「エルサレムの旧市街とその城壁群」が申請され、1981年の世界遺産委員会臨時会合で世界遺産に登録されたのです。そして翌年には危機遺産リストにも記載されました。危機遺産となると世界遺産基金の活用や、各国政府や民間機関などから財政的・技術的援助が受けられます。こうしてエルサレム旧市街はイスラエルやパレスチナだけでなく、人類共通の遺産となり、その保護・保全は国際協調のもと解決されるべき課題となったのです。
金色の輝きを放つ「岩のドーム」(Photo by Stacey Franco on Unsplash)
エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教と3つの宗教の聖地です。ユダヤ教徒が祈りを捧げる「嘆きの壁」、イエス・キリストが処刑されたゴルゴダの丘に建つ「聖墳墓教会」、そしてイスラム教の開祖ムハンマドが神の啓示を受けて昇天したとされる「岩のドーム」などがあり、それぞれに重要な意味をもつ場所となっています。
各国の思惑が交差し、一筋縄ではいかないパレスチナ問題。それでも人を救うべき宗教だからこそ、それぞれが異なる文化を理解し、お互いに赦し合える日が来ることを願わずにはいられません。