「旅恋どっとこむ」に特別参加させていただきますライターの田喜知です。先日、台湾の宜蘭(イーラン)県に行ってきました。はじめて訪れた宜蘭県には、マイナスイオンたっぷりの森林地帯をはじめ、イルカ&クジラウォッチングを楽しめる海岸エリア、独特の伝統グルメなど数多くの興味深い点がありました。最終回となる今回は、日本人との関わりも深い「羅東(ルオドン)」の町を中心に紹介します。
首都・台北から北東へ50kmあまり、台湾北東部に位置する羅東は、宜蘭県随一の商工業都市。町中にはオフィスや商店が建ち並び、活気に満ちていますが、かつては密林に覆われた不毛地帯だったそう。一帯には野ザルの大群が駆け回り、町の名も原住民の言葉でサルを意味する「ラアドゥ」に端を発するといいます。
一方、町のすぐ南には台湾島の脊梁・中央(ヂョンヤン)山脈が迫り、そこには原生林が生い茂る3000m級の山々が連なっています。1900年代初頭、この中央山脈にある太平山(タイピンシャン)で森林開発が始まると、作業の拠点となった羅東にはさまざまな産業が興り、町は飛躍的に発展したといいます。今や県内きっての大都市となり、人口密度は東京を上回るほど。また、近年はレクリエーションスポットや宿泊施設も充実し、観光エリアとしても脚光を浴びています。
●太平山林業ゆかりの地で昔日の羅東を体感
「羅東林業文化園区」
羅東の南に、340kmにわたって険嶺を連ねる中央山脈。その北端に位置する太平山は、日本統治時代、阿里山(アーリーシャン)や八仙山(バーシエンシャン)と並んで開発された台湾三大林場のひとつです。この林場周辺は、台湾独特の気候風土からなる雲霧地帯。タイワンベニヒノキやクスノキ、スギといった建材向きの樹木の生育に適し、樹齢数100年から1000年ほどの巨木が育つ人跡未踏の森林だったといいます。
1915(大正4)年、日本政府は恵まれた太平山の森林資源を活用しようと開発をスタート。このとき、木材の集散地となったのが羅東でした。町には営林署や製材場をはじめとした各種工場、木材を運搬する羅東森林鉄道の終着駅「竹林(ヂューリン)」駅などが設けられ、瞬く間に産業の町に変わっていったといいます。やがて、林場も台湾最大規模まで拡大し、ピーク時には年間8〜9万㎥の木材を生産するほどでしたが、1979(昭和54)年に台風災害で森林鉄道の一部が不通となると、その3年後には事業も撤退。およそ60年におよぶ太平山林業の歴史は幕を閉じることとなりました。しかし、この間に興った商工業が羅東の発展の礎となり、今日に結びついているといいます。
ヒノキの大木は直径4〜5m。伐採はふたりひと組となり鋸を引き合ったが、
1本切り倒すのに1〜2週間を要したという(撮影:葉英晋)
<見どころの中心はレトロな日本建築や林業歴史館>
「羅東林業文化園区(ルオドンリンイエウェンフアチゥ)」は、羅東森林鉄道の竹林駅周辺を整備した森林公園。園内には太平山林業時代の木造建築が点在しており、林業に湧いた昔日の町並みを偲ばせます。おもな見どころは、往時の職員宿舎を再利用した歴史館「森産館(センチャングアン)」やクリエイター工房、木材の運搬に使ったSL、復元駅舎など。このほか、貯木池を活用したビオトープや木工のDIY教室といった林業を楽しく学べる施設も充実し、ノスタルジックな風情と自然が調和するスポットとなっています。
森産館では太平山林業の歴史を紹介しており、作業に使用した道具なども展示。
太平山では樹齢が長い木が育ち、四方無印(=柾目)など上質な木材が手に入った
羅東森林鉄道は全長36.48km。太平山の麓にある土場駅から竹林駅までを2時間50分で結び、
一度に2500ktの木材を運んだ。竹林駅の復元駅舎をはじめ、施設の見学や入園は無料
●台湾ベスト10に輝いた人気夜市! 宜蘭中のご当地グルメも勢揃い
「羅東観光夜市」
「羅東観光夜市(ルオドングアングアンイエシー)」は、羅東で最も有名な繁華街。老若男女を問わず、大勢の人々が集まっており、繁栄する町の雰囲気を実感することができます。夜市は、飲食系の露店を中心に、雑貨やゲームなどの夜店が集まる屋台街。台湾全土にはおよそ300もあるといい、わずか数10〜数100元(1元=約3.8円)で食事やショッピングを楽しめるのが魅力です。そのため、地元の人々が夕食がてら遊びに出かける定番スポットとなっています。
とりわけ羅東観光夜市は、宜蘭県発祥のオリジナルグルメが充実していると評判。各屋台には、小吃(シアオチー)と呼ばれる小皿料理からスイーツまで、県産の食材を使った品々がバラエティ豊かに揃います。ゆえに、この夜市は50万人の国民が投票に参加した「特色夜市選抜」で、全国ベスト10に選ばれたほどの人気ぶり。いわば、台湾ローカルたちが太鼓判を押す美食スポットなのです。
メインとなる2本の通りは、それぞれ長さ150mほど。夜市としては中規模ながら、
数多くのご当地メニューが揃うことで名高い。営業時間は店によるが、18〜24時頃が目安
<必食は宜蘭名物「三星葱」のメニュー>
羅東観光夜市で外せないのが、ネギグルメです。宜蘭県は、「三星葱(サンシンツォン)」という青ネギの特産地。柔らかで甘みが強いこのネギは、台湾では銘柄ネギとして知られ、この夜市一の名物メニュー「三星葱餅(サンシンツォンビン)」にもふんだんに使われています。三星葱餅は、新鮮なネギと豚ひき肉で作った餡を小麦粉の薄皮で包んだあげまんじゅう。熱々の揚げたては皮がカリッと香ばしく、ネギの風味が豊か、旨みが凝縮した豚肉も味わい深く、台湾の人々が行列してまで食べる必食のひと品です。
メニュー名と同じ店名を掲げる三星葱餅の店。葱餅(35元)の具はボリュームがあるが、
ネギがたっぷり入っているので意外にペロリと食べられる
ほかにも、この夜市はネギグルメのオンパレード。例えば、たっぷりの刻みネギが入った宜蘭版パンケーキ「葱油餅(ツォンヨウビン)」やパイ風の「葱抓餅(ツォンヂュアビン)」といった伝統小吃があり、豚肉のネギ巻きを串焼きにした「葱肉串(ツォンロウチュアン)」も有名です。目移りすること必至ですが、どれもおやつ感覚で食べられる軽食なのでぜひいろいろ食べ歩いてみてください。
葱肉串は、醤油ダレの香ばしい風味が食をそそる。
ネギの餡が詰まったおやき「葱餡餅(ツォンシエンビン)」は、モッチリした皮も美味!
<小吃からスイーツまで宜蘭オリジナルが大集合>
宜蘭発祥の屋台グルメは実にバリエーション豊か。ネギメニュー以外にも、豚肉の紅麹漬けなどをパクチーや油揚げで包んだ「一串心(イーチュアンシン)」、日本の天ぷらをもとに誕生したという豚肉のフリッター「卜肉(ポバ)」などのひと口グルメがあるほか、デザート類もおすすめです。例えば、ピーナッツ飴のフレーク、アイス、パクチーを包んだクレープ「花生糖+叭噗(フアションタン+バプー)」、小豆を大粒のタピオカでコートした「包心粉圓(バオシンフェンユエン)」とメニューは尽きず、この夜市を歩けば、前菜からデザートまで宜蘭名物のフルコースを味わえてしまいます。
花生糖+叭噗(35元)は、宜蘭名産のピーナッツを使ったスイーツ。一串心(5串30元)は、
ビールのおつまみに最適。包心粉圓は豆腐プリン(豆花)などにトッピングして味わう
海に面した宜蘭では新鮮なシーフードが揃い、選んだ魚介をその場で焼いてくれる炭火焼や
海鮮たっぷりの小吃もぜひ味わいたい。創業数10年となる各種小吃の老舗も多数
●水鳥保護区に建つ眺望自慢の一軒宿
「蘭陽渓口海景民宿」
宜蘭県は国内のおよそ2割、軒数にして1100以上もの民宿が集まる民宿王国。民宿と言えば、親しみやすいスタッフやアットホームなもてなしを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか? 台湾でもそれは同じこと。ただ、その趣はかなり異なっており、セレブ感漂うプール付きのビラから清朝時代の調度品を配した古典調のもの、さらにはお城を模したペンションまであり、宿により千差万別です。特に近年は「テーマ民宿」がブームで、童話の世界や原住民風の家を再現した民宿など、オーナーの趣味や得意ジャンルをコンセプトにしたスタイルも少なくありません。また、昔懐かしい農村の生活や伝統工芸品作りを体験できる宿もあり、それらは郷土の自然や文化に触れられる絶好の場となっています。
<客室は「亀山島の朝日」を望める海側を>
数ある民宿のなかでも、「蘭陽渓口海景民宿(ランヤンシーコウハイジンミンスー)」は海をテーマにした一軒宿。文字通り、宜蘭県を潤す蘭陽(ランヤン)渓の河口に建ち、目前には延々と続く太平洋の水平線を眺めることができます。また、宿があるエリアは蘭陽渓口水鳥保護区内。蘭陽渓の流れが入り組んだ湿原に水鳥が優雅に舞う姿を望めるほか、海と対峙する中央山脈や雪山(シュエシャン)山脈の山並みも楽しめるなど、周囲は自然豊かな宜蘭県らしい景観に囲まれています。
羅東の隣町・五結(ウージエ)にあり、羅東の中心部からはタクシーで15分ほど。
2名用の客室でルームチャージ2400元〜(朝食付き)。
朝食には、自家栽培の野菜などヘルシー食材がたっぷり
この贅沢な眺望を堪能できるよう、全8室の客室はすべてバルコニー付き。各室ともデザインが異なり、それぞれ「海洋之星」や「晨曦(=朝日)」など海辺の景色をモチーフにしたインテリアになっています。また、客室には海側、山側がありますが、特に蘭陽八景のひとつ「亀山島(グイシャンダオ)の朝日」(Vol.2&3参照)を望めるシーサイドビューのタイプは、宿の最大の自慢です。
朝靄に煙る亀山島。暁光にまばらに染まる湿原が、
早朝のしじまに浮かぶ亀山島を一層幻想的に見せる。
宿泊者には、亀山島観光クルーズの割引特典もある
<周辺観光はサイクリングで>
せっかくこの宿に泊まるなら、バードウォッチングを楽しむのもいいでしょう。蘭陽渓がもたらす湿原は水鳥たちの恰好の餌場となっており、最盛期となる10〜4月頃には、シギやカモなど230種以上の渡り鳥を観察できるといいます。そして、宿では自転車の無料レンタルサービスも(台数限定)。川伝いには全長約10kmの蘭陽渓サイクリングロードが走っており、野鳥の姿や亀山島を横目に走り抜ければ気分爽快です。
サイクリングではタンチョウなど希少な鳥を見かけることもあるといい、
水鳥保護区ならでは出合いも期待できる
また、宿から4km足らずの場所にある「台湾伝統芸術センター」は、サイクリングがてら向かうのにおすすめの観光名所。ここは台湾の伝統文化が一堂に介するテーマパークで、宜蘭で誕生したオペラ「歌仔戲(ゴーズーシー)」や人形劇の「布袋戯(ブーダイシーまたはポテヒ)」など、台湾のさまざまな古典芸能を鑑賞することができます。一方、レンガ造りのレトロな町並みを再現したショッピング街では、チャイナテイストの雑貨や宜蘭名物のお菓子が手に入るほか、伝統工芸品の制作風景を見学することも可能。さらに、小吃屋台などのグルメスポットも充実し、台湾の昔懐かしい世界にどっぷり浸ることができます。
宿と同じ五結にある面積24haの大型レジャーランド。園内を練り歩く伝統技能のパレードは、
妙技や華やかな衣装の連続で見応え十分。精緻な作りの布袋戯の人形も見る価値あり
アクセサリーや生活雑貨などレトロモダンなみやげ品も。
小吃や駄菓子の店ほか、伝統料理のレストランもある
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<最後に......>
日本人の旅先として、年々、人気が高まっている台湾。この年末年始の海外渡航先としてもハワイやグアムを凌いでトップを飾るなど、ますますその勢いは増しています。そんななか、台湾観光の穴場エリアとして提案したいのが宜蘭県です。頭城レジャーファーム、亀山島、名物グルメ、そして最終回となる今回は羅東と、昨秋から5回にわたり紹介してきたように、ここは豊かな自然と独特の郷土グルメを堪能できるエリア。首都・台北からはバスで1時間あまりと容易にアクセスできる一方、大都市とは異なる魅力にあふれているのです。間もなく迎える春先は、台湾のベストシーズン。この春は、宜蘭でちょっとディープな台湾を体験してみませんか?
●Information
<台北から羅東へのアクセス>
・バス
台北バスターミナルから葛瑪蘭汽車客運の1917番直通・羅東駅行きで約70分、終点下車。135元、1時間に1〜6本
・電車
台鉄台北駅から普悠瑪号か自強号の花蓮行きまたは台東行きなどで約1時間14分〜2時間1分、羅東駅下車。238元、10分〜1時間10分に1本
<羅東観光夜市(宜蘭県羅東鎮観光夜市発展協会)>
<羅東林業文化園区>
http://culturalpark.forest.gov.tw/rodong_guide.aspx
<蘭陽渓口海景民宿>
<国立伝統芸術センター(國立傳統藝術中心)>
<宜蘭県政府「宜蘭軽旅行」>
http://event.suntravel.com.tw/201505_yilan
<チャイナ
エアライン>
http://www.china-airlines.com/jp
(取材・執筆/田喜知 久美、写真協力/葉英晋)