「旅恋どっとこむ」に特別参加させていただきますライターの田喜知です。先日、台湾の宜蘭(イーラン)県に行ってきました。はじめて訪れた宜蘭県には、マイナスイオンたっぷりの森林地帯をはじめ、イルカ&クジラウォッチングを楽しめる海岸エリア、独特の伝統グルメなど数多くの興味深い点がありました。今回は、原住民料理や風土を生かした特産品など、オリジナリティ豊かなご当地グルメを紹介します。
山野の幸から魚介、さらには銘水まで、バラエティ豊かな名物グルメが揃う宜蘭県。恵まれた食材の源は、山、平野、沿岸と、地域により趣を変化せる風土にあります。例えば、県の西・南部は、中央(ヂョンヤン)山脈や雪山(シュエシャン)山脈が連なる山岳地帯。このエリアでは多い年には東京の3倍もの降雨があるといい、豊潤な水資源は多様な動植物の命を育み、それらを糧とする山岳民族の生活も潤してきました。
一方、山麓から県東部の太平洋岸にかけては、蘭陽(ランヤン)渓の流れを中心に、美しい田園風景が広がる蘭陽平原。山々の伏流水を湛えた肥沃な大地は米や野菜の名産地となり、亀山島(グイシャンダオ)火山の地熱の作用を受けた地下水が温泉や冷泉となって湧き出しています。そして沿岸部は、約100kmにわたる海岸線が三日月形の弧を描くエリア。その沖合は台湾3大漁場のひとつとして名を馳せ、海辺には海産物を水揚げする漁港が点在しています。
蘭陽平原から望む太平洋。美しい曲線を描く海岸線が、遙か彼方へ続く
●宜蘭グルメのいち押しは山岳民族「タイヤル族」の料理
「田媽媽泰雅風味館」
宜蘭県ならではのグルメを満喫するなら、県南西端にある町「大同(ダートン)」を訪れるといいでしょう。ここは、原住民のタイヤル(泰雅)族が人口の8割を占める山間の里。町内の玉蘭集落にあるレストラン「田媽媽泰雅風味館(ティエンマーマタイヤーフォンウェイグアン)」では、タイヤル料理を味わえます。メニューに並ぶのは、山野草をふんだんに使い、低油、低塩、低糖で調理したヘルシーな品々。ほかのエリアでは滅多に口にできないレアな食材にも出合え、この地らしい趣に富んだ食事を堪能できます。
店内のテーブルクロスには、タイヤル族伝統の織物を使用
店がある玉蘭(ユィラン)集落は、「玉蘭茶」が特産。周辺には茶畑が広がり、
外壁にタイヤル族や茶農家の生活様式を描いた民家も見られる
【column】
〜台湾の原住民〜
原住民とは、古来より台湾に住んでいた民族。かつては数十の民族が存在していたものの、17世紀頃に中国大陸から大勢の漢民族が移入すると、狩猟生活をやめて都市型の生活スタイルを送る人が増え、日常会話にも中国語を用いるようになるなど漢民族化が進んでいったといいます。その結果、独自の言語や文化が薄れたり、完全に消滅したりした民族もおり、現在、台湾に残る原住民は国が公認するだけで16民族。人口にして約54万人と、台湾の総人口のわずか2.3%にすぎません(2014年12月現在)。なかでもタイヤル族は、今も伝統文化を継承する貴重な民族。おもに台湾の北部から北東部にかけて居住しており、日本でタレントとして活躍したビビアン・スーさんもこのタイヤル族の出身者です。
※
日本では原住民を先住民といいあらわしますが、中国語でいう先住民は「かつて存在した民族(今は存在しない)」というニュアンスが強い言葉。そのため、ここでは中国語の考え方を尊重し、「もともと住んでいた民族」を意味する「原住民」、タイヤル民族ではなく、「タイヤル族」という言葉を使用しています。
<タイヤル流の山里の珍味が満載>
タイヤル族は、もともと狩猟や焼き畑を生業とした山岳民族。主菜にはイノシシ肉をはじめ、川魚や川エビの料理をよく食べますが、彼らの料理の特色がよりあらわれているのは野菜類です。代表的なものは、葉蘭のように大きな葉をもつ「山蘇(シャンスー)」やワラビの仲間である「過猫(グオマオ)」といったシダ類、ナタマメに似た「樹豆(シュードウ)」など。このほか、龍の髭のようなツルをもつ青菜の「龍鬚菜(ロンシゥツァイ)」やシャキっとした歯触りの「檳榔(ビンラン、和名:ビンロウ)」の花も定番です。野菜は基本的に軽く炒めて提供されますが、シンプルな調理法ゆえに甘みや苦み、歯触りといった素材の持ち味が存分に生きており、味わい豊かな品々となっています。
そして最も特徴的なのが、タイヤル語で「打那(タナ)」と呼ばれるハーブと「馬告(マカウ)」というスパイスを多用すること。打那は中国語名を「刺蔥(ツーツォン)」、和名を「カラスザンショウ」といい、ネギのような高い香味をもつ葉を料理に用います。一方、「馬告」は中国語で「山胡椒(シャンフージアオ)」などと呼ばれる香辛料で、黒く熟した実には粒コショウのような辛みがあります。
手前の皿は馬告、奥は打那を使った茹で鶏用のタレ。打那には茎や枝に無数の棘があるため鳥が寄りつかず、別名を「鳥不踏(ニアオブーター)」という
<代表メニューを盛り込んだセットがお得>
この店では単品注文も可能ですが、タイヤル料理の象徴的なメニューを盛り込んだセットやコースが断然お得。そこで、ここでは少人数でも注文できるセットを紹介しましょう。内容は以下の品々に、デザート、おかわり自由のご飯(紫米または白米)や刺蔥茶が付き250元(約900円)。日により、青菜の種類やスープが別のものに変更になることもあります。なお、コースは品数に応じて2000〜4000元(約7500〜1万5000円、10人前)の5種類を用意。メニュー構成は、セットに魚や川エビの料理などが加わる内容です。
「馬告涼拌生菜(マカウリャンバンションツアイ)」
プチトマトやキュウリ、レタスといった生野菜の下に、ワラビの一種の過猫を敷いたサラダ。オイスターソースなどにすり潰した馬告を加えた甘辛いドレッシングをかけて味わう
「打那鶏(タナジー)」
「炒馬告高麗菜(チャオマカウガオリーツァイ)」
写真手前の打那鶏は、酒でやわらかく炊き上げた鶏肉に、細かく刻んだ打那やトウガラシが入ったタレを絡めて食べる料理。ほんのり酒が香る鶏肉は旨みがたっぷりで、打那の香りが立つスパイシーなタレと好相性。黄色い添え物は、青パパイヤのスライスをパッションフルーツの果汁で和えた箸休め。甘酸っぱく、鶏肉のタレの辛みを和らげてくれる。写真奥の炒馬告高麗菜は、ピリッと馬告の刺激が効いたキャベツ炒め
「炒山豬肉刈包(チャオシャンヂューロウイーバオ)」
タイヤル料理の代表メニュー。打那を練り込んだ中華パンに、イノシシ肉の炒め物を挟んで食す原住民風バーガー。イノシシ肉はジビエ特有の臭みはなく、ほどよくのった脂がジューシー。具はこの薄切り肉に、台湾バジルやタマネギなどを加えて炒めたもの。ショウガ焼きのような味わいで、白飯にも合いそう!
「炸喜那拚地瓜(ヂャーヒナ(シーナー)ピンディーグア)」
「喜那(ヒナ)」とサツマイモのフライ盛り合わせ。喜那は原住民が常食する山草のひとつで、薄く柔らかな葉を天ぷらにすると、青ジソのような軽い歯触り。台湾では昭和草(ヂャオホーツァオ)または飛機草(フェイジーツァオ)ともいわれるが、これは日本の元号「昭和」が元になった名。日本統治時代の第二次世界大戦中、日本軍が食用にするために台湾上空から飛行機でこの種を撒いたことに由来する。ほろ苦い風味で、甘みが強い台湾のサツマイモと名コンビ
「南瓜排骨湯(ナングアパイグータン)」
「紫米飯(ズーミーファン)」
南瓜排骨湯は、カボチャとスペアリブのスープ。骨からしみ出たエキスが味のベースで、余分な味付けはせず、あっさり仕立てに。大きめにカットしたカボチャは、ほっこりと柔らかで甘みが豊富。紫米飯は、白米よりややモチッとした食感
「肉桂清蒸鱸魚(ロウグイチンヂョンルーユィ)」
コースで提供される魚料理。丸ごと1匹のスズキを、ネギなどの香味野菜やシナモンとともに蒸し上げたもの。ふっくらとした口あたりの白身は、淡白な味わいながら脂がのり美味
●世界から称賛を浴びるシングルモルト・ウイスキー
「カバラン・ウイスキー」
NHK朝の連続テレビ小説『マッサン』の影響で、昨年から日本でもブームに火が付いたウイスキー。スコッチを筆頭に、アイリッシュ、アメリカン、カナディアン、ジャパニーズが世界5大ウイスキーとして有名ですが、これに新風を吹き込む醸造メーカーが台湾にあるのをご存知でしょうか? 今年3月、朝ドラのモデルとなったニッカウヰスキー社の「竹鶴17年ピュアモルト」が、ロンドンで開催された「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」のブレンデッド・ウイスキー部門で世界最優秀賞を獲得し、話題を集めたことは記憶に新しいことでしょう。一方で、このときシングルモルト・ウイスキー部門で世界最優秀賞やアジア最優秀賞の栄冠を手にしたのが、台湾にあるカバラン・ウイスキー社の製品なのです。
おもな銘柄は12種類。2015年にWWAで最優秀賞を受賞したのは、青いラベルの
「ソリスト ビーニョワイン樽 シングルカスクストレングス」3000元(約1万1000円)。
フルーティーな香りと、マンゴーやチョコレートを思わせる甘い風味が特徴
【column】
〜シングルモルト・ウイスキーとは〜
シングルモルト・ウイスキーとは、原料に単一蒸留所の大麦麦芽(モルト)のみを使用したウイスキーのことで、風味に蒸留所ごとの個性が強くあらわれるのが特徴です。なかでも、ひとつの樽で熟成したウイスキーを原酒のままボトリングしたものをシングルカスクストレングスといいます。これ対して、シングルモルト・ウイスキーに、トウモロコシやライ麦などで作った複数の蒸留所のウイスキーを混ぜ合わせたものがブレンデッド・ウイスキー。味や香りの均整に優れ、まろやかな口あたりになるといわれています。
<業界に革命を起こした雪山山脈由来の銘酒>
カバラン・ウイスキーは、雪山山脈の麓にある員山(ユエンシャン)という町に本社を構える醸造メーカー。企業母体は大手コーヒーショップ「MR. BROWN COFFEE」の展開なども行う飲料メーカーですが、雪山山脈由来の天然水を得やすい地の利を生かし、台湾の民間企業では初となるウイスキー醸造も手がけるようになったのです。2005年に蒸留所を設立し、製品化をはじめたのは2008年。歴史こそ浅いものの、創業以来、シングルモルト・ウイスキーにこだわった数々の銘酒を生み出しています。
銘水の里に建つ同社の社名は、かつて宜蘭県で隆盛を極めたクバラン(噶瑪蘭)族にちなんだもの。
蘭陽渓流域で漁を主体に生活したクバラン族は、水を愛した民族といわれる
製法においては、業界で著名なウイスキーコンサルタント、ジム・スワン氏直伝のスコッチウイスキーの伝統製法をベースに、独自のオートメーション技術を駆使した温度管理法を採用しています。このオリジナル製法から生まれた同社初の商品は、「カバラン クラシック」。胡蝶蘭のような清々しい香りやマンゴーを彷彿とさせる甘くまろやかな風味、そして深みのある独特のコクが持ち味です。
また、この銘柄は、誕生からわずか2年後の2010年に、イギリス『タイムズ』紙主催のテイスティング大会で年間最優秀賞に輝いたもの。「良質のウイスキーは寒冷地でしか生まれない」という常識を覆し、亜熱帯の台湾の銘柄が勝者となったことに、当時、業界が震撼したといいます。さらに翌年、世界で最も権威があるとされるスピリッツコンクール「インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)」で蒸留所が最優秀アジア太平洋蒸留酒メーカーに選ばれると、カバラン・ウイスキー社は世界から一躍脚光を浴びるようになったのです。その後、同社では続々と新銘柄を世に送り出し、現在までにおよそ120もの賞を獲得。今や、ヨーロッパやカナダなど、世界30ヵ国に商品を輸出する国際的ウイスキーメーカーとなっています。
ポットスチルを使ったスコッチウイスキーの伝統技術を採用し、
年間平均900万本(1本700ml)を製造。熟成には、世界各国から取り寄せた木樽を使用
<蒸留所は製造工程の見学や試飲もできる観光工場>
この蒸留所は一般公開もされており、館内ではウイスキーの歴史や種類、製法などを学べるほか、発酵から熟成までの製造工程を見学できます。パネル解説は中国語と英語の併記ですが、樽や熟成期間の違いをサンプルで比較できるなど、外国人でも視覚的に楽しめるよう工夫されています。また、別棟では30分ごとにウイスキーの試飲サービスを行っており、9銘柄の香りの違いを体験できるコーナーやギフトショップも併設。試飲場所の2階には、カフェ「MR. BROWN COFFEE(伯朗珈琲館)」もあります。
中国語または英語の無料ガイドツアーもあり、企業紹介のビデオ鑑賞、
生産ラインの見学、試飲を所要1時間程度で行える。基本的に予約制
試飲や香り体験は無料。ギフトショップでは、手頃な価格のミニチュアボトルなども販売。
写真の「カバラン
クラシック」のセットは2800元(約1万500円)
●まだまだある! 自然の恵みを生かした名物フード
「宜蘭県のご当地グルメ」
多岐にわたる自然が魅力の宜蘭県。それだけに県内では、新鮮な魚介の料理や温泉を活用した食材、特産品で作るみやげものまで、バリエーション豊かなローカルグルメを楽しめます。ここでは、宜蘭を訪れたら必ず押さえておきたい厳選グルメを紹介しましょう。
<台湾屈指の漁場で獲れるシーフード>
宜蘭近海は、黒潮の通り道。暖かい海流にのって多彩な魚介が集まってくるため、沖合は台湾3大漁業のひとつとなっています。沿岸には大渓(ダーシー)漁港や梗枋(ゴンファン)漁港をはじめとした数々の漁港が点在し、その周辺には海鮮料理店が軒を連ねていますが、水揚げしたばかりの魚介を使った品々はどれも格別の味わい。また、町中のレストランでイセエビやアワビといった豪華なシーフード料理に舌鼓を打つのもおすすめですが、カキやホタテを目の前で焼いてくれる夜市の炭火焼屋台で、ローカル色満点の食事を楽しむのもいいでしょう。ぜひ、昼に夜にと食べ歩いてみてください。
グリルやボイル、炒め物ほか、目移りするほど種類豊富な海の幸。亀山島観光(Vol.2、Vol.3参照)の
起点となる烏石(ウーシー)港は、海鮮料理店や海産物の直売所が集まる観光漁港
<ミネラル豊富な名湯で育てた温泉野菜>
山々の伏流水の恩恵を受ける蘭陽平原は、農産物の名産地。特に県北部にある温泉地、礁渓(ジアオシー)では、温泉水を活用した野菜や米の栽培が盛んです。ここでは灌漑用水として温泉を引き、冬場でも畑の温度を25〜28度程度に保っています。さらに、礁渓の弱アルカリ性の炭酸泉は土壌の酸性化も防ぐため、野菜がおいしく、早く育つそう。温泉街の青果店やスーパーの店頭では、温泉トマトや温泉米などを目にできることでしょう。
蘭陽平原は、蘭陽渓の沖積平野。雪山山脈の湧水が集まる
銘水どころとして名高く、扇状に開けた大地には水田や野菜畑が広がる
<農業王国・宜蘭が誇るブランド食材>
台湾では、農業大国として知られる宜蘭県。とりわけ、蘭陽平原の最西端に開ける三星(サンシン)は、「三星葱(サンシンツォン)」というブランドネギの一大産地として有名です。三星葱は甘みの強いやわらかな肉質をもち、このネギを使ったさまざまな料理も県の名物となっています。例えば、具にたっぷりの刻みネギと豚ひき肉が入った揚げまんじゅう「葱餅(ツォンビン)」は、地元で人気の定番おやつ。このほか、テレビ東京の深夜ドラマ『孤独のグルメSeason5』で、宜蘭県に出張した主人公・井之頭五郎がサクッ、サクッと小気味いい音を立てて食べていたパイも三星葱を使った「葱餡餅(ツォンシエンビン)」というメニューです。
また、三星は、温泉地の礁渓やカバラン・ウイスキーがある員山と並ぶキンカンの大産地。国内生産量の約90%のキンカンが宜蘭県で生産されており、「蜜餞(ミージエン)」と呼ばれる甘露煮やキンカン酒、キンカン茶ほか、さまざまにアレンジされ楽しまれています。
葱餅を売る店の前には長蛇の列。蘭陽博物館(Vol.3参照)のミュージアムショップでは、
ネギをモチーフにした鉛筆セットも発見! キンカンの甘露煮はお茶請けに最適
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<最後に......>
日本各地に郷土料理があるように、台湾にもさまざまな地元グルメがあります。なかでも変化に富んだ気候風土をもつ宜蘭県は、山海の幸に恵まれ、極めて多彩な料理を味わえる場所。産地ならではの新鮮な食材のほか、一般的な台湾料理とはひと味もふた味も違ったメニューなどバラエティに富んだ名物グルメを満喫でき、まさに「美食の里」といえるでしょう。旅の大きな要素となるご当地グルメ。宜蘭ならきっとあなたの舌を満足させ、旅を楽しく盛り上げてくれることでしょう。
次回は、宜蘭県最大の都市、羅東へ。名物夜市や絶景を望める民宿など、町のおすすめスポットを紹介します。
<田媽媽泰雅風味館>
宜蘭縣大同鄕松羅村玉蘭2號
TEL:(03)9801903
<カバラン・ウイスキー(金車噶瑪蘭威士忌酒廠)>
<宜蘭県政府「宜蘭軽旅行」>
http://event.suntravel.com.tw/201505_yilan
<チャイナ
エアライン>
http://www.china-airlines.com/jp
(取材・執筆/田喜知 久美)