台湾/台南〜嘉義・東石「食い倒れツアー」 Vol.2

<台湾南部大地震に際して>

平成2826日、台湾南部で大地震が発生しました。今回の震災で尊い命をなくされました方々に謹んで哀悼の意を表します。また、ご遺族、被災された方々、そして今もなおご家族やお知り合いの安否が不明の方々には心よりお見舞い申し上げます。本記事は、昨年、訪台した際の内容をまとめたものです。現地で出会った方々や美しい町並みを思うと、心配が募ります。被災地が1日も早く復興し、被害に遭われた方々ができる限り早く心の平穏を取り戻されますことをお祈り申し上げます。応援の気持ちを込めまして、魅力あふれる台南の様子をレポートします。


 

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美食の王国・台湾。この台湾の南西部にある町・台南(タイナン)&嘉義(ジアイー)を訪れ、3日間朝から晩まで食べまくる「食い倒れツアー」なるものに参加してきました。台湾グルメの発祥地をはじめ、牡蠣料理の名店やマンゴーの里まで、あらゆる場所であらゆるメニューを味わい尽くす至福の旅。そんな満腹度120%の旅のなかで食べた品々を、4回にわたって紹介します。

 

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台南は、台湾でも「食の発信地」として名高い町。Vol.1では、台湾人のソウルフード「小吃」が福建省出身の移民の食事に由来すること、それが清朝植民地時代に台湾開拓の拠点となった台南から広まったことをお伝えしました。今回はその続編として、日本統治時代から現代までに誕生した台南グルメやそのルーツ、おすすめのお店をクローズアップします。

 


●日本の料亭料理の流れを汲む「酒家菜」

 



中国・福建料理に端を発する台南小吃(シアオツー)。一方で、台湾料理が日本料理ともゆかりが深いことをご存知ですか? しかも、影響を与えているのは、日本食文化の最高峰・高級料亭なのです。


 


20160220tainan2-2.JPG清朝植民地時代、島都として栄えた台南。その後、19世紀末に首府は台北に移されたものの、台南は国内第2の都市としてなおも近代化の道を歩んでいきました。この頃、清朝に次いで台湾を治めていたのが日本です。そのため台南では日本企業などの進出が相次ぎ、次第にさまざまな文化も浸透していったそう。そんななか、高級料亭で接待を行ったり、祝宴を開いたりする習慣も伝わり、料亭は「酒家(ジウジア)」という名で広まっていったのです。そこではフカヒレやカニ、スッポンなど高価な食材をふんだんに使った「酒家菜(ジウジアツァイ)」という料理が供され、富裕層を中心に楽しまれたといいます。


 

 

 

日本の料亭料理の要素を取り入れた酒家菜は、台湾料理の原型でもある

 


 


 

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その背景から、酒家菜は清朝時代に広まった福建料理をもとに、日本料理の調理法や献立などを取り入れた内容。味つけに醤油を使うことが多く、醤油に砂糖を加えて煮込む調理法はこの時代に台湾に伝わったといわれています。また、これが時代を経て簡素化されていったものが、現代の台湾料理です。台湾料理はしばしば日本人の口に合いやすいといわれますが、誕生の経緯を考えれば当然なのですね。


 



阿美飯店(後述)で味わえる「乾炒鱔魚(ガンチャオシャンユィ)」(350元〜、1元=約3.4円)は、台南名産のタウナギの炒め物。ウナギ好きの日本人が考案したといわれる


 


 



台湾料理の原型「酒家菜」を味わえる店


<阿美飯店 アーメイファンディエン>


 



贅を尽くした珍味佳肴が並ぶ酒家菜。その反面、下ごしらえや調理にひじょうな手間を要したため、残念ながら今では作れる人がほとんどいなくなってしまったそう。台南に店を構える「阿美飯店」は、その貴重な酒家菜を堪能できるレストランです。店の開業は1965年。初代店主は実際に酒家で働いていた料理人で、開業前の10年間は「辧桌(バンドー)」という屋外宴会を取り仕切る料理人「總舗師(ゾンポーサイ)」としても活躍していたそう。店は現在、息子である2代目が切り盛りしていますが、父直伝の調理法を継承し、往時の味を忠実に再現しています。



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酒家菜を今に再現する店。宴席料理のコースは5000元〜。
休日や一部メニュー(百年台菜、文末にある店のHP参照)は要予約


 


 



数ある酒家菜のなかでも、この店の名物は「砂鍋鴨(シャーグオヤー)」(740元)というスープ。砂鍋とは日本でいう土鍋のことで、このメニューは豚骨スープに丸ごと1羽の鴨や白菜などを加えて3時間以上煮込んだものです。さらに、扁魚(ピエンユィ/カレイの仲間)の干物や豆腐、ウズラの卵、キノコほか、台湾各地から選りすぐった食材も加え、全部で10種類ほどの具が入ります。そのため肉のエキスや野菜の旨みがギュギュッと凝縮しており、特別な味つけはしていないのにコク深くゴージャスな味わい。栄養満点でお腹にもしっかりたまり、食べると元気が湧いてくるようです。


 


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砂鍋鴨には丸鴨や約1.5kgの白菜が入るため、5人以上での注文がベター。
台南では、今でも旧正月に家族でこの鍋を囲む習慣がある


 


砂鍋鴨以外にも、台湾料理の源流となった福建料理には、「百湯百味」という言葉があるほど湯(=スープ)のバリエーションが豊富。宴席の際にもスープが重視され、ひとつのコースのなかにあっさり系やこってり系など数種類のスープが入っているのが一般的です。


特に祝宴の際によく食べられるのが、「鶏仔猪肚鼈(ジーズーヂュードゥービエ)」(900元)という漢方スープです。具材として、「納福(=招福)」を意味する豚の胃袋、「銭財(=禄)」のような黄金色の肉をもつ鶏肉、「長寿」の象徴であるスッポンの3つが入るため、別名を「福禄寿大菜」といい、吉祥料理として知られています。


 


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鶏仔猪肚鼈はすっきりした口あたりで、コラーゲンもたっぷり。
クコの実やナツメなどの漢方も入っており、体がポカポカに


 


さて、砂鍋鴨のように調理にかける時間の長さもさることながら、酒家菜では下ごしらえの繊細さにも驚かされます。例えば、「桂花干貝(グイフアガンベイ)」という炒め物は、食材となる干貝柱とタケノコを一つひとつ糸状に裂いてあり、また、エビと豚ひき肉を煮込んだスープ「肉米蝦(ロウミーシア)」は、主材以外の野菜をすべて米粒大にカットしてあるのです。ひと言に野菜といっても、シイタケ、タケノコ、ニンジン、ダイコン、グリーンピースとさまざまなものが入りますが、当時はミキサーなどない時代、いくらプロの料理人とはいえ、中華包丁1本で細かく切り刻むのは大変な作業だったことでしょう。

 


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「肉米蝦」は黒酢が効いたさっぱり味。仕上げに溶き卵を加え、味をまろやかに。
「桂花干貝」は軽く噛むだけでジワッと貝柱の旨みがあふれだす。各350元〜


 


 


このように緻密な下処理を施したのも、酒家菜が宴会用の料理だったから。宴席に欠かせないお酒を飲みながらでも食べやすいよう、口あたりが柔らかで、あまり噛まなくても済む料理が工夫されたのです。そのためメニューには練り物も多く、なかには「一品海参(イーピンハイシェン)」のような詰め物料理もあります。この料理は、何とナマコを丸ごと使い、中に白身魚のすり身や豚肉、ダイコンやニンジンなどで作った野菜ペーストを詰めたもの。黒々としたナマコがドテッと横たわる姿を見ると、食べるのに少々勇気が必要ですが、ナマコのコリコリした歯触りとペーストのふわっと軽い口あたりはなかなか相性がいいのです。魚や野菜のほんのりした甘みも舌馴染みがよく、意外にも1本ペロリと食べられてしまいます。


 


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「一品海参」(900元、要予約)。カニやエビのさつま揚げ、
台湾ソーセージといった練り物3品を盛り合わせにした「三色拼盤」(350元〜)


 


 



ほかにも、メニューには高級食材を使ったご馳走が並びます。マストは、宴席料理の定番中の定番、子持ちのワタリガニを使ったおこわ「紅蟳米糕(ホンシュンミーガオ)」です。具に豚肉やシイタケ、タロイモ、干しエビといった旨み素材がたっぷり入り、そのエキスが染み込んだもち米は噛むほどに味わい深く、モッチリした食感も美味! また、肉厚で濃厚な風味のカラスミ「烏魚子(ウーユィズー)」も、お酒のあてには欠かせないひと品です。


 


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港町・台南らしい2品。「紅蟳米糕」(850元〜)はカニ味噌もたっぷり。
名産の「烏魚子」(1200元)は、近海で獲れた天然物のボラの卵巣を使用


 


 

●今、台南では古典に現代感覚をプラスした「文創」がブーム

 



台南小吃、酒家菜と、次々と新たな食を発信してきた台南ですが、近年もまた、地元の味覚に現代のテイストをかけ合わせた料理で脚光を浴びています。ここからは、そんな台南のニューグルメを紹介します。


 



植民地時代、政治や経済の中心地として栄えた台南。現在も町中には、往時のレンガ造りの建物や木造の古民家が数多く点在し、古都としての魅力を誇っています。一方、ここ数年は、それらのレトロな建築物を再利用した飲食店やギャラリーが増え、新旧が入り混じる独特な町並みが注目を集めています。実は今、台湾では、こうした古典的なものを芸術などのクリエイティブな産業でよみがえらせる動きが活発。この発想は「文創(ウェンチュアン)」(=文化創意)と呼ばれ、行政も後押しをはじめるほど盛んになっているのです。


 


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文創レストランの庭にて。台湾では豚は富裕や子孫繁栄のシンボル。
昔からの縁起物も、アーティストの手にかかるとこんなポップなオブジェに


 


 



文創をキーワードに台南食材を現代風にアレンジ


<台南市長官邸 タイナンシーヂャングアンディー>


 



伝統とモダンを融合させた文創。台南のレストラン界でもこの文創を料理に反映させることがトレンドとなっており、その流れを牽引しているのが2015年にオープンした創作料理のレストラン「台南市長官邸(タイナンシーヂャングアンディー)」です。


 


店があるのは、歴代の台南市長の官邸があった場所。官邸は日本統治時代後期に建築以降、1974年には建てかえも行いましたが、ここ数十年は廃墟同然だったそう。そこで同店がこれを譲り受けてリノベートし、現代風のハイセンスな洋館に生まれ変わらせたのです。店内にはモノトーンを基調にしたスタイリッシュな空間が広がり、優雅な雰囲気。また、レストランを囲む庭には樹齢100年以上となる古木やコンテンポラリーなアートが配され、自然と芸術の調和を楽しめる安らぎのスペースとなっています。


 


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店内は洗練されたデザイン。プレート類は、英国王室御用達の陶磁器メーカー
「ロイヤル・アルバート」のミランダ・カーシリーズなどを使用


 


この店で調理を総括するのは、フランスやシンガポールなど国内外のレストランで研鑽を積んだ黄國維(フアン・グオウェイ)シェフ。地元食材の魅力をより多くの人に知ってほしいと、食材には台南産のものを積極的に取り入れています。また、品質を見極めるため、シェフ自ら食材市場や生産農家のもとへ頻繁に赴き、新鮮さはもちろん、健康や安全性にも配慮した季節の素材を選りすぐっています。

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最先端の調理スタイルを巧みに扱う黄國維シェフ。
料理には旬材を豊富に使い、季節ごとにメニューを入れ替える


 


 


そして、これらの郷土が育んだ食材には、エスプーマ(泡)技術や真空調理といったヨーロッパの最新調理技術を駆使。滋味に富んだ旬材に今風のアレンジを施すことで、素材の個性を引き立たせ、見た目にも麗しい珠玉の品々へと昇華させています。皿の上には豊かな味わいとともに、香りや食感の楽しさ、盛りつけの美しさといった料理のあらゆる醍醐味が表現されており、台南の恵まれた風土を五感で楽しませてくれます。


 


ジャンルとしてはフレンチやイタリアンをベースにした創作料理を提供しており、メニューにはピザやパスタといったアラカルトのほか、プリフィクススタイルのコース(ランチ、ディナーとも700元前後〜、時期による)が用意されています。また、ワインはフランス産やイタリア産を中心に、カリフォルニアやチリなどのニューワールドまで約30種を揃えており、グラスワインなら320元です。


 


20160220tainan2-18.JPGランチコースから。前菜はタケノコとイカ、イチヂクとホタテなど山海の幸を
フュージョンさせた料理も多い。台湾のタケノコは甘みが豊富で、旬の春夏は特におすすめ


 


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メインには、低温調理で柔らく仕上げた地元のシーフードなどが並ぶ。
写真の肉料理は、牛ヒレのステーキ、ひな鳥のグリル


 


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デザートは、黄麗芳(フアン・リーファン)氏が担当。台湾では女性パティシエはまだ珍しいが、
フランスの有名料理雑誌で紹介された経験を持つ実力派


敷地内にはベーカリーもあり、おすすめはパンの世界大会で優勝したレシピで作る「酒醸桂圓麺包(ジウニアングイユエンミエンバオ)」(1350元)など「燻製龍眼(シュンヂーロンイエン)」を使った品々です。龍眼はライチに似た果物で、別名を桂圓(グイユエン)といいます。これを台南に古くから伝わる製法で1週間かけてドライフルーツにしたものが燻製龍眼。燻製後、米酒や黒糖に漬け込んであるため黒っぽくてスモーキーな香りですが、甘みが濃縮されており、プルーンのような食感です。この店ではパンやフランス菓子として提供していますが、これも昔ながらの食材を取り入れた一種の文創といえるでしょう。

 


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燻製龍眼の商品は、燻製龍眼酒醸桂圓麺包や龍眼酥(ロンイエンスー)という
クッキーのような焼き菓子などが揃う。パッケージが華やかでおみやげに最適


 


 



清朝統治時代に広まった台南小吃をはじめ、日本統治時代の料亭料理にゆかりをもつ酒家菜、そして台南食材を現代テイストで味わう文創料理まで、時代の変化に柔軟に対応しながら新たな食文化を発信し続けてきた台南。一方、この町の魅力は食だけに尽きず、深い歴史が醸す趣や人情味あふれる人々にもあります。そのため近年では台南に憧れて移住を決める「新移民」と呼ばれる人が急増していますが、ライフスタイルに対して好奇心旺盛な彼らのこと、もしかすると食の世界にもさらなる風を吹き込んでくれるかもしれません。そんな期待も膨らむ台南グルメ、今後もまだまだ目が離せないようです。


 


次回は、嘉義郊外の町・東石(ドンシー)のスポットを巡り、牡蠣三昧!


 


 


 Information


<台北から台南へのアクセス>


高鉄「台北」駅から台湾高速鉄道(台湾新幹線)で約1時間45分〜2時間、高鉄「台南」駅へ。市中心部へはタクシーなどで約30


 


<阿美飯店>


http://amei.com.tw


 


<台南市長官邸/Pasadena(帕莎蒂娜国際餐庁)>


http://www.pasadena.com.tw/tmh


 


 

(取材・文/田喜知 久美、取材協力/GOURMET TAIWAN台湾美食、経済部商業司、財団法人中衛発展中心

 

 

 

 

 


 


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