トコトコ東北 by 川崎久子

列車で行く Vol.23 青森・五所川原市金木町 小説を片手に太宰治のふるさとへ行こう!


Vol.21 青森・ストーブ列車 」編で書いた津軽鉄道のストーブ列車。

レトロな列車で向かったのは、ファンならずとも一度は訪れておきたい太宰治誕生の地・金木町です。
同じ列車に乗り合わせていた人の半数以上がこの駅で降りるほど、沿線の一大観光スポット。
太宰ゆかりの地は駅から徒歩圏内にあるので、ぶらぶら歩いてみましょう。

太宰が暮らし、執筆した家「太宰治疎開の家・津島家新座敷」


金木駅の駅前は、大きな商業施設もなく落ち着いた雰囲気。同じ列車に乗り合わせた人達も目指す場所は
ほぼ同じなようなので、人の流れに乗って街を歩きます。まず訪れたのが駅から歩いて4分ほどのところにある
「太宰治疎開の家・旧津島家新座敷」。太宰が戦時中に妻子を連れて故郷に疎開した際に暮らした家で、
元々は大正11年に太宰の兄夫婦のために建てられた、津島家の離れでした。
疎開の家の前には通りに面して受付兼ショップの建物があり、新座敷はその裏に立っています。
かつて津島家の母屋と新座敷を結んでいた渡り廊下があった場所から中へ入ります。
新座敷は平屋建てで、和洋折中の造り。入り口から入ってすぐのところに十畳と六畳の続き間があり、
小さい方の和室を太宰の書斎にしていたそう。この書斎と廊下を挟んだところに洋間があり、庭に面したサンルームも。
その奥に寝室と家族のための居間があります。洋間のキャビネットの扉にハート形の装飾が施されていたり、和室に
下がるランプであったり、随所に新婚の兄夫婦のために建てられた家にふさわしい、かわいらしい装飾が施されています。
 
(写真左)太宰治の書斎だった部屋。障子戸の向こうが洋間 (写真右)洋間の造り付けキャビネット。デザインがかわいい

太宰は昭和
207月末から翌年11月まで故郷に疎開し、この間「親友交歓」や「トカトントン」など、
この家で
23の小説を執筆したそう。書斎の座卓には原稿用紙とペンが置かれ、まるでさっきまで太宰が執筆に
勤しんでいたようなシーンが。小説「故郷」で病床の母親を見舞うシーンに登場する和室や、「親友交歓」で訪ねてきた
同級生に酒を飲まさるのもこの新座敷の十畳間が舞台になっています。
この疎開の家では、館内ガイドのサービスがあります。これ、かな〜り詳しい話を聞くことができるので、おすすめです!

 

なんてゴージャス!太宰治の生家「斜陽館」
つづいて訪れたのが、太宰治の生家「斜陽館」(ちなみに、新座敷は曳家されているため、
現在は母屋からやや離れたところに立っています)。

太宰が生まれる前、明治40年に太宰の父、津島源右衛門によって建てられたという斜陽館は、重厚感たっぷりな佇まい。
どっしりとした入母屋造の玄関を入ると、広々とした土間があります。聞くところによると、
往時の津島家は青森県下で5本の指に入るほど裕福な家だったそう。当時は金融業を営んでおり、
店舗も兼ねていたことから玄関入って左手のスペースは事務所として利用されていました。
1階に11室、2階に8室、蔵や庭園も合わせて約680坪もあり、まさに大豪邸!青森ヒバをふんだんに使用し、
和洋折中の贅を尽くした館内。一畳ほどもありそうな絢爛豪華な仏壇にも圧倒されます。
 
ぴかぴかにん磨き込まれた廊下。階段にも大正ロマンを感じる装飾が


2階の廊下から庭園を望む。訪れたのは3月なので、まだ雪囲いが施されていました

この邸宅は津島家の手を離れたあと、昭和25年から平成8年までおよそ半世紀にわたり旅館として営業。
その後、旧金木町が買い取り、旅館開業時に改造した部分を復元修復し、平成10年に太宰の記念館として
再オープンしました。館内では復元作業を記録したビデオを上映しているほか、ガイドツアーも行っています。

 

桜の名所・芦野公園の最寄り駅にある喫茶店へ
太宰が幼少の頃、子守のタケとともによく訪れたという雲祥寺前を通り、静かな住宅街を歩いて桜の名所である
芦野公園へ向かいます。途中、自転車に乗った中学生の3人組が「こんにちはー」とすれ違いざまに挨拶。
そう言えば、わたしも子どもの頃は知らない人にも挨拶していたなーと懐かしく思い出しました。

斜陽館からゆっくり歩いて20分ほど、約80ヘクタールもある芦野公園は、湖を中心に自動動物園やキャンプ場が
あります。太宰が幼少期に遊んだ場所でもあり、ゆかりの地として文学碑や銅像も立っています。
園内には1500本もの桜が植えられており、例年4月下旬から5月上旬の見頃の時期に「金木桜まつり」が開催され、
30万人もの花見客が訪れます。

最寄り駅は芦野公園駅で、この駅の隣に残された旧駅舎は昔の佇まいもそのままに喫茶店として営業しています。
その名も「駅舎」。白壁に赤い屋根が映えるかわいらしい外観で、店内には昔の看板やカウンターがそのまま
残されています。
喫茶店ではありますが、ここでも切符を購入可能。しかも、店内からそのままプラットホームへ
出ることができます。太宰の本を読みながらのんびり電車を待つのもいいかもしれません。
 

桜の時期の芦野公園駅(写真提供:青森県観光連盟)

(文・写真 川崎 久子)

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