日本には現在、18件の世界遺産があり、文化遺産が14件、自然遺産が4件となっています。
その中でも異色なのが「原爆ドーム」として知られている「広島平和記念碑」ではないでしょうか。
ご存じの通り、1945年8月6日、広島市に人類初の原子爆弾が投下され、奇跡的に焼け残ったのが原爆ドームです。
世界遺産は、例えば人間が作り上げた素晴らしい傑作や、また建築技術や科学技術を伝える遺産、またあるいは美しい自然景観など10の登録基準が設けられ、誰の目で見ても素晴らしいと感じる建造物や遺跡、景観、自然などが評価され、登録されています。
しかし、単純に考えると原爆ドームはそれらに当てはまらないような気がします。
もとの建物は、1914年にチェコの建築家、ヤン・レツルによって設計された「広島県物産陳列館」に始まります。
後に「広島県立商品陳列所」、そして「広島県産業奨励館」と改称されます。
確かにチェコの建築家によって設計された建物には、ネオ・バロック様式(楕円形のドームや曲線を描く外壁などに見られる)やゼツェッション様式(19世紀末〜20世紀初頭のウィーンで誕生した芸術運動で、幾何学模様の装飾などの特徴がある)が取り入れられ、木造家屋が立ち並ぶ当時の広島においてこの壮麗な洋風建築は、たいへん目立ったものだったことでしょう。
しかし、これらの建築様式の価値だけでは世界遺産としての基準を満たすものではありません。
この建物が世界遺産になりえたのは、核兵器による惨禍を伝え、恒久平和を目指す活動の記念碑として世界中でほかに例を見ない建造物であるからなのです。
2015年の今年は、戦後70年という節目の年。
今も原爆ドームは、私たちに戦争という過ちを繰り返さないように強いメッセージを送ってくれています。
この建物を保存し、受け継いでいくことが、平和への思いへもつながります。
現在、原爆ドームを後世に残していくため「健全度調査」が実施されており、2015年3月末まで足場が設置されています。
原爆ドームは内部に立ち入ることができず、外側からの見学となりますので、訪問するなら4月以降がおすすめです。
世界遺産の中には、原爆ドームのように人類の過ちを記憶にとどめ、2度と同じ過ちを繰り返さないという教訓とするためのものがあります。
例えば、ナチス・ドイツによる人種差別で多くのユダヤ人が命を落としたアウシュヴィッツの強制収容所(ポーランド)や、アフリカの奴隷貿易の拠点としての歴史をもつゴレ島(セネガル)、アメリカの核実験場となったビキニ環礁核実験場(マーシャル諸島)などが登録されています。
世界遺産条約で定義されているものではありませんが、これらは「負の遺産」と呼ばれています。
有名な観光スポットとなっている世界遺産もたくさんありますが、これらの負の世界遺産も人類の戒めとして心に留めておきたいものです。
■日本・1995年登録・文化遺産
■広島平和記念碑(原爆ドーム)
Hiroshima Peace Memorial (Genbaku Dome)
(文・山本 厚子)