桜えびの町、由比と蒲原(前編)では、桜えびの春漁と秋漁についてレポートいたしましたが、後編では東海道五十三次の宿場町でもあった情緒あふれる由比とそのお隣蒲原の街歩きをご紹介いたします。
まずは由比。JR由比駅前、由比漁港からもほど近いすし店銀太。駿河湾の恵みは桜えびだけにとどまらず様々な魚が由比漁港に水揚げされ、銀太では、店主の原敬さんが由比漁港で仕入れる地の魚にこだわった寿司が頂けます。おすすめは「由比漁港特産 地魚にぎり(2000円)」、取材の日は「かます・平目・花鯛・太刀魚・桜えび・かんぱち・倉沢の鯵・ほうぼう」の8品。塩とレモンでいただくかますや、もみじおろしとポン酢でいただく太刀魚など、それぞれのネタにあった仕込みと風味で供され、原さんの握りはあっという間にぺろりと頂けてしまいます。中でも倉沢の鯵は、由比の西、倉沢地区の沖合でとれるもので、本来鯵は回遊魚とされていますが、回遊をせず倉沢沖に棲みつき、桜えびや桜えびを追いかけるハダカイワシなどの豊富なエサをとって丸々と太った脂ののった鯵になるそうです。という訳で、倉沢の鯵の握りも追加で注文、噛むほどに鯵の旨みが口中に広がります。
くぐらずに素通りできない「銀太」の暖簾と
ねたに仕事をほどこす由比の魚を知り尽くした原敬さん
ねたに仕事をほどこす由比の魚を知り尽くした原敬さん
目にも楽しい由比漁港特産 地魚にぎり(2000円)
また由比駅から蒲原方面に歩き、松風堂謹製の桜えびサブレーをつまみながらさらにすこし進んでいくと見えてくるのが由比本陣公園です。日本橋から十六番目の由比宿本陣の跡地で、江戸風情ただよう公園でひと休みすることや、公園内に併設されている東海道広重美術館に立ち寄り、約1400点を数える浮世絵を眺めながら、江戸の風情に浸ることができるのも、由比ならではの楽しみです。
駿河銘菓 桜えびサブレー
続いて蒲原へ。由比エリアから歩いてもいいですが、東海道本線・由比駅から一駅乗って蒲原駅で下車し、蒲原歩きを始めるのもおすすめです。
まずは国登録有形文化財にもなっている旧五十嵐歯科医院へ。その佇まいから自然と目に入ってくる建物は、大正時代に当時の当主五十嵐準氏が歯科医院を開業する折に、町家から洋風建築に改築されたそうで、その後の増築などを経て、現在の様相になりました。町家の風情を残す1階の庭に臨む和室はついごろんとしたくなる心地よさ。また2階に上がり廊下に面した窓に目をやると、現在では作るのがむずかしいとされるフロートガラス(水に浮かべて作られる)がはられており、そのゆらいでいるような手仕事感を味わえ、ガラスから臨む景色も眼福の一つです。見逃してはならないのは欄間、富士山と松原の景色がモチーフのその姿は、一枚の絵画のよう。どこを切り取ってもそれぞれの景色がある通称旧五十嵐邸、当時優雅な時間が流れていたことが想像されます。いて蒲原へ。由比エリアから歩いてもよいですが、東海道本線・由比駅から一駅乗って蒲原駅で下車し、蒲原歩きを始めるのもおすすめです。
和と洋がおりなす佇まいと、古めかしささへも見どころの扉のフォント
木々と石灯籠などがおりなす庭園も眼福の一枚
景色の細部まで表現された欄間がつくり出す景色は必見
また旧五十嵐邸から国道1号線方面に南下した蒲原地区に店を構えるだし屋西尾商店もぜひとも立ち寄りたいお店です。創業110年の西尾商店は、その長年の目利きと技術で、鰹や鯖、鰯などの削りぶしの製造をされているお店です。中でも鰯の削りぶしを最初にはじめたお店といわれており、骨と皮を除いたカタクチイワシとウルメイワシの削りぶしの味わいは、普段食べている力強い鰯の風味とは異なり、上品な旨みが凝縮されており、そのままでいくらでも食べられてしまいそうなご馳走で、豆腐料理や漬物に合わせることもでき、とても美味しく重宝する一品です。
各節ごとに厚さなどを調整し作られる削りぶしの数々
身は削りぶしに、皮や骨は飼料として出荷、ごみがでない商売なんですと
教えてくださった西尾透雄さん
教えてくださった西尾透雄さん
さらに、駿河湾に臨み、背後には山が控えている由比・蒲原エリアは、山側にすこし登ってみるとすばらしい景色を望むことができます。山側に足をのばして訪れたいのが、やすらぎ食処・菜の花亭。坂を登ってきた足を休めるように靴を脱いで、気持ちのいい景色を眺めながらいただく蕎麦は休憩にも最適。店内で手打ちされた蕎麦はすこし太めで温もりを感じ、食べごたえがあります。
茶やみかんなど静岡ならではの景観を眺めながらいただく手打ちの蕎麦は格別
また温暖な気候を活かしみかん類の栽培も盛んで、山側へ足をのばすと晩秋から冬にかけてはだいだい色に実ってきた、みかんやポンカンなどの景色が目に飛び込んできます。海と山に根ざした由比・蒲原ならではの半漁半農スタイルで片瀬農園を営んでいる片
瀬正宏さんは、春と秋の桜えび漁で漁師をしつつ、1ヘクタールほどの農園で青島みかん、ポンカン、早生みかん、はるみ、たまみ、清見、甘夏、デコポンなどのみかん類を栽培し出荷されています。斜面に面して広がる片瀬さんの農園は南に目を向けると駿河湾、「今夜の桜えび漁は出漁できるかな」といったことを考えながら日々の農園作業をしているそうです。
瀬正宏さんは、春と秋の桜えび漁で漁師をしつつ、1ヘクタールほどの農園で青島みかん、ポンカン、早生みかん、はるみ、たまみ、清見、甘夏、デコポンなどのみかん類を栽培し出荷されています。斜面に面して広がる片瀬さんの農園は南に目を向けると駿河湾、「今夜の桜えび漁は出漁できるかな」といったことを考えながら日々の農園作業をしているそうです。
斜面に広がる果樹園を上がったり下がったり、一年を通して果樹や土の状況を
パトロールされるという片瀬さん、間引いた小さい果実(摘果)を
搾りはちみつを加えて飲んだりするのも楽しみなのだそうです
パトロールされるという片瀬さん、間引いた小さい果実(摘果)を
搾りはちみつを加えて飲んだりするのも楽しみなのだそうです
この他、秋田屋魚店のイルカスマシと呼ばれる蒲原ならではの珍味(イルカの背びれや尻尾の部分を使った加工品)や、由比の酒蔵英君酒造の日本酒を旅のしめくくりの手土産として買って帰るのもわくわくします。海と山がとても近い距離で隣接している駿河湾の由比・蒲原、江戸の情緒を感じつつ、日本でここにしかない桜えびを堪能し、山や海、お好み次第で歩きながら眼福と口福をともに味わえる絶好のスポットです。
まるでリボンのような姿の通称蒲原ガムとも呼ばれるイルカスマシと、
小さいころからイルカスマシを食べて育ったという秋田屋魚店の利勇ニさん
杉玉の風格も美しい英君酒造
海と山、一度にそれぞれの景色と美味なるものを味わうことができる駿河湾
<由比・蒲原へのアクセス>
・JR東海道新幹線三島駅または静岡駅より、東海道本線に乗り換え由比駅または蒲原駅へ
・JR東海道新幹線新富士駅からタクシーで由比駅または蒲原駅へ
Google map
<主な取材ご協力先>
・銀太
静岡市清水区由比今宿165/054-375-3004
・松風堂
静岡市清水区由比305/054-375-2337
静岡市清水区由比305/054-375-2337
・旧五十嵐邸
静岡市清水区蒲原三丁目23-3/054-385-2023
静岡市清水区蒲原4-15-37/054-388-2341
・菜の花亭
静岡市清水区蒲原 清水区蒲原3747-1/054-385-0939
・片瀬農園 片瀬正宏さん
・秋田屋鮮魚店
静岡市清水区蒲原小金342-2
・英君酒造
静岡市清水区由比入山2152/054-375-2181
・由比と蒲原の皆様
(文:奥田ここ)