今年こそは海外へ行きたいという方も多いのではないでしょうか。長かったパンデミックも落ち着き、長期旅行、できればヨーロッパへ。新緑が輝くグリーンシーズンのヨーロッパは清々しい空気にあふれます。そこでおすすめなのがスイスです。雄大な自然と豊かな文化、治安の良さ、そして正確で発達した鉄道網。日本からは、成田とチューリヒを結ぶ直行便が週5日運行し、チューリヒを拠点にバーゼルやベルン、インターラーケン、ジュネーヴなどへスムーズに鉄道で移動することができます。まさにヨーロッパ初心者にうってつけ。
そして、拠点となるチューリヒには、ぜひ+1泊して、スイス最大の都市を満喫してみてはいかがでしょう。乗り換えだけではもったいない!魅力ある街なのです。
到着日はベジタリアンフードで胃腸を休めて
成田空港を朝出発し、スイスインターナショナルエアラインズの直行便で14時間25分、チューリヒ国際空港には夜に到着です。空港からは連結する国鉄で最短10分、チューリヒ中央駅へ(近い!)。駅にはヨーロッパ最大級の駅構内ショッピングセンター、冬はクリスマスマーケットの会場になる広場、旅行者の味方の観光案内所などがあり、賑やかです。
奥がチューリヒ中央駅©Zürich Tourism
駅からまっすぐ伸びる道は、メインストリートのバーンホフ通り。路面電車も走る通り沿いには銀行や老舗デパート、レストランやカフェなどが立ち並びます。まずは、ホテルで旅装を解き、ひと落ち着き。長時間の移動でちょっとお疲れモード。さて、夕食はどうしよう……。
がっつりお肉やチーズたっぷりも今日は無理だなあ、と思ったときにぜひ行っていただきたいのが、ベジタリアン・レストラン「Haus Hiltl(ハウス・ヒルトル)」です。開業はなんと1898年、ギネス認定の世界最古のベジタリアン・レストランなのです。
スタイリッシュな外観
チューリヒ中心部に位置するハウス・ヒルトル(ヒルトル本店)はまだベジタリアンという概念もない頃に生まれたという、驚きのレストラン。ビュッフェスタイルで、皿に盛った重量で料金が決まる、量り売り形式です。ビュッフェコーナーには、野菜とは思えぬ完成度の高い料理が並びます。味付けはオーソドックスなものからエスニックやインド風、中華風など幅広く、どれもこれもお皿に取りたくなります。またサラダからメイン、デザートと揃い、お腹の具合と相談しながら食べられるのもいいところ。
これ、すべてベジタリアンフード
さらに嬉しいのが朝から通し営業で、平日と日曜は22時、週末は23時まで。ひとりでも入りやすく、日本にも支店を出してほしいお店です(笑)
コンパクトで美しい街を歩く
プラス1日の朝は、ベジタリアンフードのおかげで体調もばっちり。ではチューリヒ中心部の街歩きを始めましょう。
バーンホフ通りからリンデンホフの丘を目指します。旧市街を一望できるチューリヒの絶景ポイントで、ローマ時代の城塞跡でもあります。街を流れるリマト川や、旧市街、チューリヒ工科大学、市庁舎、2本の塔があるグロスミュンスター(大聖堂)などが見晴らせます。スイス最大の都市で世界の巨大な金融センターのひとつなのに、中世の面影を残す街並みや、街を取り囲む美しい山々。こんな街に住んでみたくなる、そんな景色が広がります。
坂を下り旧市街へ。石畳の道の両側にはお洒落な店が並び、歩いているだけでわくわくします。橋のたもとにある大きな時計盤がある聖ペーター教会はチューリヒ最古の教会です。
旧市街と聖ピーター教会 ©Zürich Tourism
そろそろランチタイム。チューリヒ名物を味わいましょう。マルク・シャガールのステンドグラスがあることで知られるフラウミュンスター(聖母聖堂)前の広場にある老舗レストラン「Zunfthaus zur Waag(ツンフトハウス・ツア・ヴァーグ)」。建物は14世紀に建てられた歴史ある織物業のギルドハウス(商工業者の組合の会館)です。
夜はこんな雰囲気。ツンフトハウス・ツア・ヴァーグ
メニューのひとつ、レシュティを添えたチューリヒ風の仔牛のクリーム煮「Züricher Geschnetzeltes」(ツーリッヒャー・ゲシュネッツェルテス)にトライしてください。コクのあるクリームでやわらかく煮込まれた仔牛は赤ワインにぴったり。付け合わせのレシュティは、細切りポテトをパンケーキ風に焼いたもので、スイスの国民食的な存在。お店の雰囲気も抜群です。
レシュティを添えたチューリヒ風の仔牛のクリーム煮
歴史を語る名画に出合い、スパでリフレッシュ
次はチューリヒ美術館「Kunsthaus Zürich」へ向かいましょう。1787年以来蒐集が続く、スイス最大規模の展示面積を有する美術館です。世紀末芸術の巨匠で、スイスが誇る画家、フェルディナント・ホドラーの巨大な壁画をはじめとする多くの作品、マネ、モネ、セザンヌらの印象派、ムンクやココシュカ、ピカソ、シャガールなど各時代を代表する巨匠の作品が揃います。
ホドラーの作品は必見!
収蔵品が増える中2021年には新館が誕生。のちにスイスを拠点としたドイツ人起業家、エミール・ゲオルク・ビュールレのコレクション室では、現在、「過去のための未来」展という企画展を開催しています(展示を変えながら今夏ころまで)。入り口にはオーギュスト・ルノワールの作品「可愛いイレーヌ」。そしてこの作品を囲む青い幕。なぜ? じつはこれが企画展を象徴するものなのです。
「過去のための未来」展入り口とルノワールの「可愛いイレーヌ」
ルノワールの少女の肖像画のなかでもひときわ美しいといわれるこの作品、パリのユダヤ人銀行家が発注した娘・イレーヌの肖像画で、1880年の制作。作品はのちに第二次世界大戦下で、ナチス・ドイツに奪われます。戦後、奇跡的にこの作品はイレーヌ本人に返却されますが、競売でビュールレが落札。ビュールレのコレクションになったわけです。じつはビュールレは、世界中に武器を売り捌いた武器商人として巨万の富を築き、その財を美術品収集に注ぎこんだのです。
名画がずらり
ビュールレのコレクションは素晴らしい作品ばかりです。しかし戦争悪により集められた作品、本来であれば正しい所有者が持つべき作品、という美術館からのメッセージが本企画展なのです。美術品として鑑賞する眼だけではなく、作品が辿った背景も知る必要があるのかも、と気づかされました。
展示の最後には、美術館に対する意見を書くスペースもあり、新たな企画展への参考にしているとか。挑戦し続ける美術館なのです。
ディスク形の紙に書かれた意見や要望など
さて、歩き疲れたらカフェでひと息。スイスといえばチョコレート。チョコレートを使ったスイーツやホットチョコレートも味わってみてください。そしてさらにリフレッシュできるのが、スパです。
スパの内観。かつてはビール醸造所
旧市街の南西、かつてビール醸造所があったヒュルリマン地区。ここに100年前のビールの貯蔵庫を改装した「Hürlimannbad &Spa Zürich(ヒュルリマンバード&スパ チューリヒ)」があります。煉瓦造りの外観や、ビールの樽や瓶を装飾に活かした内装など、随所にその面影を残しています。
左:ビール工場の面影ある外観 右:軽食も
じつはチューリヒは湧水が豊富で、街を歩けばあちこちに水飲み場があり喉を潤すことができます。こちらの施設も湧水を使い、肌触りがいいと評判。古代ローマの入浴文化を現代にアレンジしたスパ、さらに屋上にはインフィニティプールが!
新旧がほどよく織り交ざる街を堪能し、チューリヒの街を一望するインフィニティプールでリフレッシュしたら、次の街へ出かけましょう。
おすすめホテル&エクスカーション
◎バーンホフ通りもすぐ! 「Hotel Seidenhof(ホテル ザイデンホフ)」
創業は1902年、街の中心部にあり、どこに行くにも便利なブティックホテルです。温かみのある客室、フレンドリーな接客、ビュッフェスタイルの朝食は出来たての卵料理も。快適さと利便性で選ぶならここ!
◎スパも半額!産業遺産に泊る 「B2 Hotel」
紹介したスパ、ヒュルリマンバード&スパと結ばれているホテルで、モダンでスタイリッシュ。ビール醸造所の歴史を随所に感じることができ、ラウンジには大量の書籍とビール瓶の照明がなんともお洒落です。スパ利用の宿泊プランのほか、宿泊者は半額でスパを利用できます。
◎迫力満点! ヨーロッパの名瀑、ラインの滝(Rheinfall)
もう1泊プラスして、ヨーロッパ最大の水量を誇る滝を見に行きませんか? スイスアルプスを源にドイツに流れていくライン川に、幅150m、落差23mのラインの滝があります。
チューリヒから北へ電車で約50分、滝の南側にあるシュロス・ラウフェン・アム・ラインファル駅へ。駅からも滝が見えるのですが、1100年以上前に建てられたラウフェン城を巡りながら、滝に近づいていくことができます。横幅一杯にしぶきをあげて打ちつける滝が間近に迫ります。雪解けシーズンの春から初夏にかけては水量も増し、大迫力! 中央部にある岩場に船で近づくこともできます。
チューリヒで+1泊、いかがでしたでしょうか。チューリヒって、魅力ある街だよねと、誰かに話したくなること、間違いありませんよ。
協力
ユングフラウ鉄道グループ
取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)