日本随一の米どころ、新潟県魚沼市で1泊2日の旅を満喫してきました。前編では、旅の1日目としてバラエティーに富んだお米グルメと奇才彫刻家による圧巻の作品に出合えるスポットを紹介。後編は旅の2日目、さらなるお米グルメとともに奥只見周辺の美しい風景についてレポートします。
絶景が広がる魚沼の秘境・奥只見&枝折峠
魚沼市は米の一大産地である一方、国内有数の豪雪地帯でもあります。特に福島県と接する奥只見では毎冬5mを超える積雪があり、魚沼市中心部とを結ぶ唯一の道路「奥只見シルバーライン」を雪解けまでの間、数カ月にわたって閉鎖してしまうほどです。
奥只見は江戸時代に銀山採掘で栄えた地。昭和36年(1961年)には日本最大級の貯水量6億㎥を誇る巨大ダムが建設され、それに伴って造られた奥只見湖は越後三山をはじめとする名峰を背景にした美しい湖として知られています。
また、奥只見のすぐ西にある枝折(しおり)峠は滝雲見物で人気のスポットです。
2日目は大自然が織りなす絶景鑑賞からスタート
「枝折峠の滝雲」
枝折峠にある越後駒ケ岳の登山口付近は、滝雲の絶好のビュースポット。「滝雲」は地元の人々が「魚沼の誇り」として愛する風景で、早朝に奥只見湖周辺で発生した雲が雲海となり、山を越えて谷間へ流れ落ちていく現象をいいます。発生するタイミングは前日との気温差が大きい晴天の日の早朝で、9月下旬から10月下旬頃に最も発生しやすいといわれています。ただし、実際に出合うには「運」も必要なのだそうです。
滝雲の観察シーズンは6月中上旬から11月上旬
登山口の駐車場から山道を15分ほど登れば、滝雲全体を見渡せるベストポイント。10月下旬のこの日、滝雲の動きが一番活発になるという日の出前後の時間を狙い、祈る気持ちで向うと……。
日の出時刻の約30分前、午前5時40分頃
見えました! まだ夜明け前にもかかわらず、すでに滝雲が眼下の谷間を覆い始めています。次第に手前へ迫ってきて、一面が雲の絨毯に。山肌をゆっくりと流れ落ちる様子はまさに滝のようです。そして龍が這う姿にも似て、まるで雲海が生きているかのようにも見えます。
序盤のほんの一瞬、動画でどうぞ(やや早送り)
日の出後、滝雲が朝日に染まる光景も幻想的。陽が昇るにつれ、藍色から茜色へ、そして黄金色へ、刻々と表情を変化させていきます。次第に周囲の景色も色を取り戻し、紅葉に彩られた山々と滝雲との競演も楽しめて朝からとても得した気分になりました♪
朝日に照らされ、神々しく輝く滝雲
錦秋に染まる山々に抱かれ紅葉クルーズ「奥只見湖遊覧船」
滝雲見物の後、ホテルへ戻って朝食を済ませて奥只見へ。
滝雲の発生源である奥只見は、周囲を2000m級の山々に囲まれた自然の宝庫。秋には一帯が暖色に染まり、県内で指折りの人気紅葉スポットとして賑わいます。
左/奥只見発電所開閉所 右/奥只見ダムの貯水量は富山県の黒部ダムの約3倍
奥只見観光の中心は奥只見湖の遊覧船です。今回はダム近くにある奥只見乗船場を発着する「奥只見周遊コース」に乗り、紅葉を眺めながら約30分かけて湖上の見どころをクルーズ。乗船した「新はっさき丸」は定員50名と小型で、湖畔近くを航行できることが魅力です。デッキから望む景色は迫力満点でした!
上/北欧のフィヨルドを彷彿とさせる景観 左/奥只見駐車場とダム広場を約4分で結ぶスロープカー 右/新はっさき丸
奥只見の紅葉シーズンは例年10月中旬から11月上旬頃。今年は10月下旬でも少々フライング気味でしたが、色づき始めていたところはとても華やかでした。ブナ、カエデ、マンサクなどの黄色や朱色、ナナカマドや漆の赤と、まるで木々がそれぞれの色を主張しているかのようにカラフル。さらにキタゴヨウ(マツの一種)の緑が差し色になった雪国特有の紅葉で、モザイク画のような彩りが印象的でした。
上/水鏡に映える紅葉も見どころ 左下/奥只見湖の守り神「十二山神社」。右奥には越後三山のひとつ荒沢岳の姿も 右下/岩が剝き出しになって羊に見える(?)「羊岩」
米糀グルメも楽しめる世界最大級の米糀工場「魚沼醸造」
「魚沼醸造」は魚沼市に拠点を置く米糀製品のメーカー。地元の清らかな水とお米を生かし、この地に伝わる伝統製法にのっとった米糀造りをしています。敷地内には世界最大級の米糀工場のほか、発酵食品や魚沼について見て・感じて・学べる多彩なコーナーもあります。
なかでも工場見学のガイドツアー(原則予約制)が好評で、世界一とされる巨大な蒸米機や世界屈指の生産量を誇る円盤型製麹(せいきく)装置など貴重な機器も見学できます。
米糀造りの要、円盤型製麹装置では2日で20トンもの米糀を製造
「UONUMA KOJI SALON」は、糀や発酵食品をテーマにしたラウンジ。ライブラリーやクイズコーナーに加え、工場直送の米糀甘酒を使ったメニューを提供するカフェもあります。
開放感たっぷりのラウンジ
栄養満点な甘酒は「飲む点滴」と呼ばれ、疲労回復や免疫力アップ、美肌作りなど様々な効果が期待できるそう。そこで、このカフェで一番人気の「糀甘酒ソフトクリーム」を味わってみると、米糀ならではの濃厚なコクがあり、キャラメルに似たリッチな風味で美味し~♪
「糀甘酒ソフトクリーム」470円は世界ジェラート大使・柴野大造氏による監修
ショップコーナーには塩糀などの調味料や甘酒、有名パティシエとのコラボスイーツなど多彩な米糀製品が並びます。なかでも「魚沼産コシヒカリ使用 カワチ糀甘酒」(写真右下)はおすすめで、発酵過程で生まれるクエン酸の作用でほんのりと甘酸っぱく、フルーティー。飲みやすくて、自宅用にも購入したほどお気に入りです。
魚沼産コシヒカリを原料にした商品ラインアップも
魚沼最後のランチは魚沼市産コシヒカリの食べ放題「レストラン朱鷺」
2日間の旅もいよいよ終盤。最後の食事は、やっぱり魚沼市産コシヒカリを味わいたいものです。そんな私にぴったりだったのが、魚沼市が実施している「まんぷく魚沼定食」というプラン。何と、これは魚沼市産コシヒカリの新米ごはんをおかわり自由で食べられるというご機嫌な企画なのです。対象店は市内の飲食店や道の駅、ホテルなど19軒。各店とも、それぞれの持ち味を生かした献立で魚沼市産コシヒカリを楽しませてくれます。
「まんぷく魚沼定食」の提供は12月末まで
いただいたのは、「レストラン朱鷺(とき)」の「魚沼ごっつぉ定食」。「ごっつぉ」は新潟弁で「ごちそう」を表すというだけに期待が膨らみます。
その内容は、地場産のもち豚を主役にした鍋、魚沼産コシヒカリの米粉フレークを衣にしたフライの盛り合わせなどご当地感あふれる品々。さらに身欠きニシンを甘味噌で煮絡めた「ニシン味噌」、ズイキ(里芋の茎)の酢の物などごはんのお供にぴったりな郷土料理も並び、滋味豊かな味覚が満載です。そして、何よりごはんのポテンシャルが高い! 艶々の新米ごはんはもっちりとして噛むほどに味わい深く、それだけでも十分にごちそう。ラストを飾るに相応しいランチでした♪
「魚沼ごっつぉ定食」 2178円。過去にはごはんを7杯食べた人も!
1981年に開業した和洋食レストラン。もち豚料理や米粉を使ったグルテンフリーメニューが好評
ローカル色あふれる魚沼土産が充実「まちの駅 魚沼」
旅先では、地元ならではのお土産探しも楽しみですよね。ここには地元グルメから地酒、民芸品まで、魚沼市や新潟県の特産品がバリエーション豊かに揃う物産館があります。
魚沼市の旧庁舎を活用し、2024年5月にオープン
館内でひと際目を引くのが「魚沼地場産野菜」のコーナーで、農家から直接仕入れた新鮮な季節野菜が色とりどりに並び、価格も手頃。この日はバレーボール大の立派なカリフラワーも見つけましたよ。
また、この施設がある堀之内地区は全国的に名高いユリの産地。八重咲きのゴージャスな品種や「プロポーズ」というロマンチックな名前のものなど、日により10~30品種のユリの切り花を販売しているそうです。
野菜も花も地方発送可能なので買いすぎても安心
そして、さすが米どころ、お米コーナーには数種類の魚沼産米が揃い、購入後その場で精米してくれるサービスまであります。
市民のソウルフード、豚の生モツ製品の品揃えも豊富
ショッピング後は併設のカフェへ。「米粉のシフォンケーキ」や「甘酒のテリーヌ」などのスイーツを味わえ、ひと息つきながら旅を振り返るのに最適でした。
魚沼市の雄大な自然が織りなす絶景とそこで育まれたお米文化を巡る旅、いかがでしたでしょうか? スノーアクティビティのイメージが強い魚沼市ですが、実はたくさんの魅力的なモノ、コトにあふれています。ぜひ足を運んでいただければ幸いです。
取材協力:魚沼市役所観光課
取材・文 田喜知 久美