今度の”美食旅”はどこへ行く? いま気になる「デスティネーション レストラン」へ

日本の地方にフォーカスしたレストランセレクション「The Japan Times Destination Restaurants」(以下「デスティネーション レストラン」)をご存じでしょうか。

主催は英字新聞「The Japan Times」を手がけるジャパンタイムズ。”日本人が選ぶ、世界の人々のための、日本のレストランリスト”として2021年に発足しました。ユニークなのは、日本国内のあらゆるレストランのうち”東京23区と政令指定都市を除く”レストランが対象になっていること。その理由は次の3点です。
①「日本の風土の実像は都市よりも地方にある」と考えること。
②「地方で埋もれがちな才能の発掘を目指す」こと。
③「既存のセレクションとの差別化を図る」こと。
以上の視点からあえて地方のレストランに限定しています。詳しくは公式サイトをどうぞ。 

20245月、第4回となる「デスティネーション レストラン2024」の発表授賞式が開催されました。このリストは格付けやランキングをしないのも特徴のひとつとしていますが、毎年特に印象深いレストランが「The Destination Restaurants of the year」として選出されます。

「デスティネーション レストラン2024」受賞店のみなさん (c)The Japan Times Destination Restaurants

2024年の「デスティネーション レストラン オブ ザ イヤー」は食肉料理人集団「エレゾ エスプリ」(北海道)が受賞。以下「ヴェンティノーヴェ」(群馬)、「カエンネ」(長野)、「馳走西健一」(静岡)、「新多久」(新潟)、「海老亭別館」(富山)、「一本杉 川嶋」(石川)、「私房菜 きた川」(三重)、「エノワ」(大分)、「モヴェズ エルブ」(沖縄)がラインナップされています。

「エレゾ エスプリ」の佐々木章太さん。「エレゾ エスプリ」はレストランと宿泊施設、ファームを備えたオーベルジュ(c)The Japan Times Destination Restaurants

 

冒頭で、このリストのコンセプトを”日本人が選ぶ、世界の人々のための、日本のレストランリスト”と紹介しました。だけど内心”世界の人々”だけに独占させるのはもったいないと私は思う。なぜなら一般的にレストランの格付けやランキングでは、選考者は匿名だったり投票による多数決の要素があったりするわけです。とりわけ一般ユーザーの投票を集計するような場合、ユーザー側の知識や経験値の幅が広く、結果がふんわりマイルドになりがちです。
ひるがえって「デスティネーション レストラン」の選考者ときたらこの顔ぶれ。そう、すご~く濃い。

 「デスティネーション レストラン」選考者の3名。左から辻先生、本田さん、浜田さん(c)The Japan Times Destination Restaurants

辻調理師専門学校校長として数多のシェフを育ててきた辻芳樹さん、世界中を食べ歩くかたわら寿司職人養成スクールを卒業し、現在は「鮨本田」としてポップアップイベントなどを開催している本田直之さん、”世界一の美食家”として世界にその名を知られ、先ごろ著書『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)を出版した浜田岳文さんの3名が実名・顔出しで選考しているのです。

「その土地の文化風習の深い知識と、ストーリーを表現するための高い技術の両方を備えた真に訪れる価値のあるレストランを選び抜いています。選考者は3名と奇数ですが意見が分かれても多数決をすることはなく、全員が完全に納得するまで議論を重ねます」(浜田さん)

「デスティネーション レストラン 2024」に選ばれた料理人によるパーティーフード (c)The Japan Times Destination Restaurants

つまり日本きってのクレイジー(←いい意味です)なフーディーズが出し惜しみなく情熱を注ぎ込んだキレキレのリストともいえるわけで、いつも私の「世界のファインダイニング」を読んでくれている皆さまの好みには、どストライクなんじゃないかと思います。ということで今年(2024年)40軒にまで拡大した「デスティネーション レストラン」のリストから、私が行ったなかで独断と偏見によるおすすめの10軒をご紹介しますね。(順不同)

「villa aida」(和歌山/The Destination Restaurants of the year 2022)

2月末ごろのまだ育ちかけのやわらかな葉を集めた温かいサラダは究極のひと皿。春のフレッシュな豆、大胆に焼き上げた夏野菜、寒い季節のスープ…と季節ごとに恋しくなるメニューがあって、四季折々なんなら予約さえ取れれば毎月訪れたい。

*関連記事はこちら

 

「L’evo」(富山/The Destination Restaurants of the year 2021)

こういった秘境レストランの場合、アクセスの新鮮さもあって1回目がもっとも印象に残ると思うのですが、L’evoは回を重ねるたびに予想を超えてきて次がまったく読めない(からまた行きたくなる)。私的”世界一の朝食”も最高なのでぜひ宿泊を。

「里山十帖」(新潟/The Destination Restaurants 2022)

土地の伝統を受け継ぎつつ食べ手を思ってつくられる身体に優しい料理と泉質のよい温泉を備えた日本が誇るホリスティックリトリート。料理長・桑木野恵子さんは「ベスト女性ベジタブルシェフ賞」を受賞しています。

「Restaurant UOZEN」(新潟/The Destination Restaurants 2021)

オーナーシェフ・井上和洋さんは漁にも出れば狩猟もする。シグネチャーのボタン海老をはじめシーフードもジビエもしっかりと野趣を感じさせながら洗練されたひと皿に仕上げるのは井上さんにしか創造できない世界観です。

「御料理ふじ居」(富山/The Destination Restaurants 2023)

富山湾の海の幸が息もつかさぬ勢いで次々に登場。料理の完成度はもちろん、これほど楽しい割烹はほんとうに稀有な存在で、ご馳走をたらふく食べた~と心もお腹も満たされます。お店のある東岩瀬エリアは引き続き注目したい。

「片折」(石川/The Destination Restaurants 2021)

献立にテーマを設定し始めたそうで、私が訪れた時のテーマは「七夕と夏祭り」。季節の風物詩と料理をリンクしてストーリー仕立てにしながらも正統な日本料理の文脈から外れない。日本人でも日本文化の美しさに感動します。

「オトワ レストラン」(栃木/The Destination Restaurants 2023)

「100年をかけて地元に食文化を育みランドマークとなるファインダイニングを根付かせる」という長い構想でつくられた「デスティネーション レストラン」の先駆け。東京からアクセスがよく、フットワークの軽いみなさまならサクッと日帰りもよいかも。

*関連記事はこちら 

 

「ドンブラボー」(東京/The Destination Restaurants 2022)

東京…といっても調布市なのでセレクションの対象に。ここに行くために初めて「国領駅」を利用したという人も多いはず(私もそう)。姉妹店の「クレイジーピザ」が神楽坂にも出店して便利になったけれどやっぱり本店は別格です。

「Terroir 愛と胃袋」(山梨/The Destination Restaurants 2023)

八ヶ岳ってこんなに食材に恵まれていたんだ…と改めて認識させてくれるプレゼンテーション。寺子屋だった古民家をリノベーションした1日1組だけの宿「旅と裸足」に泊まり、ついでに近くのワイナリーにも立ち寄るなど”旅”を楽しみたい。

「AKAI」(広島/The Destination Restaurants 2022)

古民家をリノベーションした一軒家レストラン。宮島行きのフェリー乗り場から徒歩10分と観光ルートにも組み込めるけれど、観光のついでよりはここを目指して行きたい。いろいろ削ぎ落としたシンプルでミニマルな料理は食べ手を選びそうです。

もう1軒おまけでシェア。
「the RESTAURANT」(群馬)

藤本壮介さんのアートな建築で旅好きの話題をさらった「白井屋ホテル」のダイニング「the RESTAURANT」が開業から3年を経て大化けしてた。ホテルのある前橋市は幸い(?)政令指定都市ではないので、2025年にはリスト入りするのではないかと期待しています。

関連記事はこちら

 

2024年の授賞式には過去にリスト入りしたシェフたちも集結

旅行や出張のルートに組み込みたいレストランから、そこで食べるためにしっかりプランニングしなければいけない超予約困難店まで、地方の魅力が凝縮している「デスティネーション レストラン」。国内旅派のトラベラーにはマストアイテムではないでしょうか。「デスティネーション レストラン」のアワードの場を通して繋がりが生まれている地方のシェフ
たち。「デスティネーション レストラン」は10年間(100軒まで)継続するそうで、この先どんな地方のシェフたちと出会えるか楽しみですね。
地方で素敵なお店を見つけたらまたこちらでご報告します。みなさんからの情報もお待ちしています。
みなさんの旅が、これからもおいしく幸せでありますように。

取材・文/Shifumy(江藤詩文)

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ