「アイガー」「メンヒ」「ユングフラウ」。スイス中央部に君臨するベルナーオーバーラント三山は、スイスを代表する雄大な景観が人気のエリアです。スイスというとグリーンシーズンに注目が集まりますが、じつは冬こそ、その真価がわかるのです。白銀に輝くユングフラウ地方をご紹介します。
左からアイガー、メンヒ、ユングフラウの三山 ©jungfrau.ch
ヨーロッパ最高地点の鉄道駅を目指す
標高3454mに位置する駅、想像できますか? なんとその高さは富士山の9合目以上! 山麓のインターラーケンから通じる登山鉄道は、世界中の鉄ちゃん憧れの鉄道です。全線開通は1912年。イギリスでの産業革命を受けて交通網の拡大が旅行の拡大につながり、スイスでは鉄道を使った観光登山がブームに。誰もが気軽に山の魅力を満喫できるようになったのです。貴重な大自然は「スイスアルプス ユングフラウ-アレッチ」として世界遺産に登録されています。
アイガーグレッチャー駅からユングフラウ鉄道でヨーロッパ最高地点駅へ
そして2020年に登場したのがアイガー・エクスプレスというロープウェイ。起点となるグリンデルワルト・ターミナルはとてもお洒落な佇まい。カフェやショップのほかスキー用品のレンタルもできちゃいます。
グリンデルワルト・ターミナルは買い物も充実
ここから鉄道駅のアイガーグレッチャー駅までの全長6483m、標高差1385mをわずか15分の空中散歩! 強風に耐えるために3本のロープでゴンドラを支えていて、とても安定した乗り心地です。そしてロープウェイから鉄道に乗り換えれば合計45分ほどで、ヨーロッパ最高地点のユングフラウヨッホ駅に到着してしまいます。
26人乗りのゴンドラが45基
すぐ目の前に山々が迫る
ゴンドラはアイガーの北壁を見ながらのとても快適なひととき。なんとVIPゴンドラもあり、専用のラウンジやゴンドラ内でのシャンパンサービスなどが用意され至れり尽くせり!
VIP専用のラウンジではドリンクや軽食も用意
VIPゴンドラで優雅な空中散歩
鉄道に乗り換えていよいよ、ユングフラウヨッホ駅へ。駅に直結する施設「トップ・オブ・ヨーロッパ」には展望施設はもちろん、レストランやショップなどが充実しています。まずはスフィンクス展望台でアルプスのパノラマを楽しみましょう。展望台の標高は3571m、巨大なクリスマスツリーが出迎えてくれます。取材時は青空が望めず一面真っ白な世界でしたが、スケール感はしっかり感じられました。
巨大なクリスマスツリーが人気
幻想的な夜のスフィンクス展望台 ©jungfau.ch
こちらの展望台で愛らしい鳥と出合いました。キバシガラスという、黄色い嘴のカラス。この日の気温はマイナス12℃というなか、餌を求めて近づいてくる人懐っこい鳥でした。
高所で暮らすキバシガラス
レストランでは郷土料理のラクレットを
アレッチ氷河の中をくり抜いて造られたアイス・パレスを歩きます。氷河の中の宮殿!不思議な気分です。随所に様々な氷像が置かれ、さらに1日2組限定で利用できるアイス・バーがあります。今回は特別に体験、シャンパンや地ビールのほか、樽で寝かせたワインもありました。どれもこれもよく冷えています(笑)
歩いているのは氷河の中!
アイスバーでもさらに飲む笑
また、おすすめなのがユングフラウ鉄道乗車記念証明書(現地で入手可)にスタンプを押すこと。旅の記念になりますよ。さらに日本の赤い郵便ポストを発見、ここから葉書を出すのも素敵ですね。このポストは1993年に富士山五合目の郵便局と姉妹提携を結んだことから置かれたもの。日本とスイスの友好の証です。
訪問日をスタンプ
なんだか懐かしくなる赤いポスト
鉄道開通100周年を記念してつくられた「アルパイン・センセーション」では、ユングフラウ鉄道の歴史を物語る展示品が置かれ、往時の苦労が垣間見えます。1912年といえば、日本では明治から大正に変わった年で、東京近郊に電車が建設された頃です。3000m級の山へ向かう登山鉄道の完成は、なんとすごいことかがわかります。
往時の写真も
世界中からの観光客が集まるユングフラウヨッホ。じつは夏は写真撮影もどこもかしこも順番待ちという状態。でも冬はそれほどの混雑もなく、ゆったりと楽しめるのも得した気分になります。
断崖絶壁のフィルストで絶景ウォーク
今回の旅の拠点はグリンデルワルトです。伝統的な木造建築の家やホテルが立ち並ぶ、長閑な雰囲気の村。日本人観光客も多く、アウトドア用品のモンベルのスイス1号店があります。ホテルもアットホームな民宿タイプからプールのあるリゾートホテルまで揃います。今回はデザイン性に優れる「ベルグヴェルト グリンデルワルト アルパイン デザイン リゾート」に宿泊。伝統とモダンが融合し、薪火焼きのお肉がメインの料理も美味でした。
グリンデルワルトはスイスらしい素朴な村
ベルグヴェルト グリンデルワルト アルパイン デザイン リゾート
グリンデルワルト観光の目玉のひとつが、展望台、フィルストです。夏はハイキング、冬はスキーやスノーボーダーで賑わい、アトラクションも充実しています。山頂へはグリンデルワルトの民家やチーズ小屋などを眼下にしながら、ロープウェイで登ります。
ロープウェイ駅。地元での有名犬・デイジーちゃんと
展望台のあるフィルスト山頂の標高は2184m。アイガーやシュレックホルンなどが見晴らせます。なんといっても切り立った断崖に設置された遊歩道「フィルスト・クリフウォーク」が圧巻! スリル満点の空中散歩が楽しめます。スキーをしなくてもこの絶景ウォークが待っているとは!
晴天時はこんな絶景が ©jungfrau.ch
下を見ないで歩こう
さらにイヌワシのように空を飛ぶアトラクション「フィルスト・グライダー」や、ジップライン「フィルスト・フライヤー」があり、ファミリーにも人気です。白銀の中での爽快で特別な体験をぜひ!
フィルスト・フライヤー ©jungfrau.ch
スイスといえば、グリーンシーズンの爽やかなお花畑のイメージがつきものですが、ウインターシーズンでスキーをしなくてもこんなに楽しいことが待っている!のです。自然観光を一年中、誰でも身近に楽しめるようにという方向性は日本もまねしたいと、つくづく感じます。自然観光の魅せ方のお手本が、スイス。そんな印象を持ちながら帰路につきました。冬こそ、スイス!ぜひ訪ねてみてください。
こんな水墨画のような世界が待っている!
取材協力:
取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河﨑夕子)