フランス、シャンパーニュ地方のランス美術館の風景画コレクションの中から、選りすぐった約80点の作品を見られる展覧会「風景画のはじまり コローから印象派へ」が西新宿のSOMPO美術館で開催中です。
ランス美術館は風景画を多く所蔵する美術館として知られます。
大規模拡張のためのリニューアル工事の休館期間を使って、この企画展が実現
(※すべての写真はプレス内覧会にて撮影)
今でこそ「風景画」というジャンルはよく知られるようになりましたが、一定の地位を確立するまでは、歴史画や肖像画に比べると格が低いものとされていました。この状況に変化があったのが19世紀。18世紀末から19世紀初期にはフランスの風景画家たちは自然の中に人物を溶け込ませた風景画を描くようになりました。
そして、戸外へ出て各地の風景を訪ねて絵画制作を行った先駆者のひとりが、今回の展覧会の第1章で紹介されているジャン=バティスト・カミーユ・コロー(1796~1875)です。
ランス美術館は27点ものコローの油彩作品を所蔵しており、今回はなんと16点!もコロー作品が出展されています。一堂に会して見られるたいへん貴重な機会なのです。
会場風景より、4点すべてジャン=バティスト・カミーユ・コロー。一番左は《小川、ボーヴェ近郊》(1860-70年)
図録によると、フランス各地を旅してまわったコローは「現場で光をとらえ、アトリエで再び手を加える」という戸外制作の方法を取りました。風になびく木々、複雑な色合いを見せる空、土くれにまみれた道、そして時折描かれる素朴な人々。塗り重ねた絵具の跡に、旅の記憶を元に正確な観察眼をもって自然をとらえようと苦心しながら、喜びながらもコローが描いたことが伝わってきます。
第2章では、パリ南東にあるバルビゾン村で出会った「バルビゾン派」と呼ばれる風景画家たち、テオドール・ルソー、シャルル=フランソワ・ドービニー、アンリ=ジョゼフ・アルピニー、シャルル・ジャックなどが取り上げられています。
左はアンリ=ジョゼフ・アルピニー《ヨンヌの思い出、サン=プリウェからブレノーへの道》(1885)
右はコンスタン・トロワイヨン《ノルマンディー・牛と羊の群れの帰り道》(1856)
第4章ではウジェーヌ・ブーダンを大きく紹介。木々の作品が多かったコローと異なり、ブーダンは水や海岸を描いた作品が多く出品されています。これに合わせた淡い水色の壁が、より作品の輝きを引き立てます。
左はウジェーヌ・ブーダン《トルーヴィルの浜辺》・右は《上げ潮(サン=ヴァレリの入り江)》
最後の第5章では、よく知られるモネやルノワール、カミーユ・ピサロ、シスレーなど印象派の画家の作品が並びます。雲、大気、空、水、川、海、岩、木、光を追い求めるように自然を描き続けた画家たち。今日では歴史画や肖像画より多くの人々に親しまれるようになった風景画ですが、当時保守派の批判にさらされようと描き続けた偉大な画家たちの作品をゆっくり眺めてみてください。
会場風景より、手前はピエール=オーギュスト・ルノワール《風景》(1890年頃)
昨年から今年にかけ、東京をはじめ日本国内で海外の美術館展や西洋画の展覧会が多く開催される予定でした。例えば、ミュージアムグッズも完成していたのに一度も開かれずに中止となったボストン美術館展、会期途中で終了した「ブタペスト ヨーロッパとハンガリーの美術400年展」「テート美術館所蔵 コンスタブル展」など他にも多数。コロナ禍で海外からの作品輸送はもちろん、クーリエ(作品を貸し出す館の人間のこと。修復師や学芸員など)の来日が困難になったことで、展覧会が中止となったり変更になってしまいました。海外の油彩画の企画展を見る機会がぐっと減ってしまった現在、今回のランス美術館コレクション展をはじめ、一級品の西洋画をこの目で見られる機会があること自体、個人的にとてもうれしく思います。
ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ
会期:開催中~2021年9月12日(日)
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(8月9日は開館)
観覧料:一般 1500円/大学生 1100円/高校生以下無料(日時指定予約優先)
https://www.sompo-museum.org/