東京から約1時間20分、電車でもバスでもマイカーでもアクセスのよい、千葉県香取市。利根川の支流・小野川沿いに築100年を超える商家が立ち並び、“生きている町並み”と称される佐原があります。江戸時代後期、小野川周辺は利根川舟運の中継地として昼夜を問わず賑わい、「お江戸見たけりゃ佐原へござれ 佐原本町江戸まさり」と謳われました。小野川沿いは伝統的建造物群保存地区に指定されています。
東京から近いこともあり日帰りでも楽しめますが、それではもったいない! じつは宿泊してこそ、見えてくる歴史の深みや情緒があるのです。
フロント・レストランがある佐原商家町ホテル NIPPONIAのKAGURA棟
「佐原商家町ホテル NIPPONIA」は、佐原の町をひとつのホテルと見立て、4つの宿泊棟とフロント・レストラン棟が点在する宿泊施設。元料亭や蔵、古民家などをリノベーションした客室は、それぞれ趣が異なり、心地よい空間となっています。
まずはフロント・レストランがあるKAGURA棟に荷物を預け、町歩きに出かけましょう。フロントでは宿泊者特典の「VMG PASSPORT」を入手してくださいね。なんと、町中の食事処やカフェ、ショップで特別なおもてなし(ワンドリンクプレゼントなど)が受けられるという、ゲスト限定のパスポート! 宿泊翌日まで有効です。
小野川沿いをのんびり散策
古い町並みの中心は、忠敬橋周辺。幕末から明治30年代にかけての商家が並びます。黒塗りの土蔵造りが多く、重厚感たっぷり。蕎麦屋や荒物店、乾物店など昔からの家業を引き継ぎ今も営業を続けているところが多く、さらに洋風建築など現役感がすごい。人の息遣いを感じられる町並みなのです。
現役の荒物屋さんと元銀行の建物
鰻や特産品のさつま芋を使った甘味、水郷名物のすずめ焼き(川魚の串焼き)、さらにお茶や味噌・醤油、日本酒などお土産品も多々。歩き疲れたら商家を和モダンに改装したカフェやこだわりの珈琲店などでひと休み。どこも立ち寄りたくなる個性派揃いなのです。
ランチは鰻!
町歩きは舟からも楽しめます。「小江戸さわら舟めぐり」では、小野川をのんびり30分周遊します。歩きでは気づかない発見や船頭さんのトークも楽しんでみてください。そしてこの船の発着場があるのが伊能忠敬の旧家。実測で全国を歩き地図を作ったことで知られていますね。伊能家は米の売買や酒づくりなどを営む商家で、忠敬は隠居後の55歳から10回に分けて全国測量を行い、歩いた距離は地球一周分といいます。近くには伊能忠敬記念館もあります。
伊能忠敬旧宅
そして旧家の前にあるのが、じゃあじゃあ橋こと樋橋。もともとは小野川の東岸から対岸の水田に水を送るための大樋で、現在も観光用に30分ごとに水がじゃあじゃあ流れますので、必見です。
橋から水がじゃあじゃあ!
町に溶け込む心豊かな滞在
チェックインを済ませたら、客室へ。今回私が宿泊したのは小野川沿いにあるGOKO棟。和紙とお香の商いをしていたという商家(母屋では今も営業)で、4室が備わります。
GOKO棟の入り口は表通りの母屋の脇から(左)。奥の建物に宿泊(右)
メゾネットの隠れ家風の佇まいで、大きな梁や土壁が蔵であった時を刻んでいます。部屋に入るとそこは静寂のなか、お気に入りの音楽を流しながら読みかけの本のページをめくります。こんな緩やかなひとときがほしかったなあ、としみじみ。檜風呂もあるのでゆっくり湯浴みも楽しめます(すべての客室が檜風呂付きではありません)。
夕食はレストランのあるKAGURA棟へ、ぶらぶら歩きます。町はすっかり日常の静けさに戻り、夕餉の支度のいい匂いも。こんな表情が見られるのも泊っているからこそなのです。
お楽しみのディナーは、地元食材を盛り込んだフレンチ。ワインなどと合わせるスタンダードなペアリングやノンアルコールなどもありますが、ここは佐原の地酒のペアリング(別料金)をチョイス。期待が膨らみます。
蔵の雰囲気を残した落ち着いたレストラン
アミューズは地元のモッツァレラチーズと焼きナスのペーストに地元の醤油のジュレ。このKAGURA棟の前にある馬場本店酒造の純米吟醸と合わせます。ほどよい甘さと酸がチーズのコクとよく合います。オードブルは、火入れ加減が絶妙な銚子の戻り鰹、チーズとジャガイモのソースがベストマッチです。
スープは千葉県産のさつま芋・紅あずまのポタージュ、とってもやさしい味わいです。次のペアリングは、はやりこのKAGURA棟の近くにある東薫酒造の純米吟醸無濾過生原酒。これがフレンチにぴったりで、びっくり。日本酒の可能性を感じます。魚料理は黒オリーブとタイムでマリネした鯛の天火焼きです。
肉料理は千葉県が誇るかずさ和牛のロースト。肉料理には馬場本店酒造の純米酒。肉の旨みを受け止める厚みがあります。
そしてデザートは千葉県産の水郷梨と甘酒を使ったクリームで、これには馬場酒造の最上白味醂のペアリング。味醂の美味しさにうっとりし、なめらかな風味が全体をふわりと包みます。酒や味醂、醤油・味噌という醸造・発酵文化のある佐原らしい味付け、そして肉、魚、野菜の豊富な千葉の恵み。土地の力を堪能しました。今回は9月~11月の秋メニューでした。メニューは3か月ごとに変更し、四季折々の料理が楽しめます。
ぐっすり眠った朝、小野川沿いを歩くと、学校へ向かう小学生や、早朝から町のスケッチをする人の姿も。大きく深呼吸して町の気配を吸い込みました。ああ、気持ちいい。
朝食は、茨城の越田商店の手で捌く、“ものすごい鯖”の塩焼きや粕汁などで、パワーチャージ。今日は香取神宮へ行こうと思っていますが、伊能忠敬のように歩いてみよう!と思うほど、たらふく美味しくいただきました(実際はレンタサイクルで20分ほど)。
切り干し大根やひじき煮、きんぴらなどご飯が進む品も
佐原はほかにもユネスコ無形文化遺産に登録された、春と秋の大祭で引き回される山車を展示する水郷佐原山車会館、6月に約150万本の花しょうぶが咲く、水郷佐原あやめパークなどもあり、まだまだ見どころ豊富。豊かな水で栄えた歴史ある佐原を存分に楽しみ尽す宿泊、ぜひおすすめです。
香取神宮の総門(左)と拝殿(右)。初詣にぜひ
取材・文/関屋淳子