奈良といえば大仏・素麺・鹿…。修学旅行以来、行ったことない…。京都観光のついでに寄る…そんな声が聞こえてきそうですが、それって、本当にもったいない! じつは奈良県は美味しい食材の宝庫。近年は、豊かな味覚を楽しめる料理店が増え、各地に食と宿泊を堪能できるオーベルジュが次々と誕生しています。
里山で深呼吸して心身を休める
奈良県の北東部に位置する山添村。ここに“ちょっと不自由なホテル”と称するオーベルジュ「ume,yamazoe 」があります。テレビやたくさんのアメニティ、ルームサービスなど過剰なものはありません、だから人によってはちょっと不自由かもしれません。
ラウンジや食事処がある母屋
築100年超の木造で旧波多野村の村長さんのお家をリノベーションした宿は、冬はすきま風が入り、夏はいろんな虫が顔を出します。でも、高台にある宿からは集落を包み込むような大きな朝焼け、満天の星が望め、採れたての野菜などの豊かな里山の恵みがいただけます。
部屋からは雲海を照らす朝焼けが
客室は3室。古い柱や梁を活かした心地よい空間は田舎のおばあちゃん家のようでもあり、洒落たゲストハウスのようでもあり。洗練された家具や部屋を彩る調度品、スリッパさえもセンス抜群で、部屋作りの参考にもなりそう。ふたりでまったり、家族でほんわか、友人とのんびりに対応できます。
客室「めぶき」は半露天風呂付き
ぜひ体験してほしいのが、本格的なアウトドアフィンランド式サウナです。薪ストーブに大量の石を使ったもので、やわらかい蒸気に包みこまれます。自分の好きなタイミングで石に水をかけてロウリュ。薄暗いサウナのなかでは薪がはぜたり鳥の声など自然の音だけ。たっぷり汗をかき水風呂にドボン。そしてすぐさまサウナ屋上のデッキチェアへ。サウナにそれほど関心がなかった私ですが、このサウナは特別。熱すぎて息苦しいなどは一切なく、ただただ気持ちいい。
「フィンランドではサウナで出産や手術を行なったりと、もともと、とても神聖な場所で自然に近いところ。自分に向き合い自然に溶け込む場という位置づけでサウナをつくりました」と、オーナーの梅守志歩さん。体験して納得でした。
アウトドアフィンランド式サウナは2時間無料。追加利用する宿泊客も多いとか
夕食はコの字型のカウンターで。〇〇さんの里芋、〇〇さんの原木椎茸と、地域の野菜作り名人たちの食材が運ばれてきます。蓮根饅頭は帆立と海老の真薯で、やさしい味わいの出汁。鱈の醬油麹漬けには、大和の伝統野菜の片平あかねと新生姜のチップを添えて。目の前で揚げる滋味深い野菜の天ぷら、そして梅守さんのご実家の寿司店「うめもり」仕込みの手鞠寿司と続きます。
朝食はこれぞ和食の朝ごはん。近隣の方がつくった漬け物など、里山の味がたっぷり。養生しました。
朝食(右)と購入できるとれたて野菜(左)
牧場で癒しの“ちくちく”
山添村、神野山にある「めえめえ牧場」。真っ白いコリデールと、顔と脚が黒いサフォークが元気に走り回っています。鹿せんべいならぬ羊せんべいがあり、自由にあげることができます。羊せんべいに集まる様子は壮観で、もこもこの体で突進してきます(笑)。毎年2月ごろにはかわいい子羊にも出会えるそうです。
牧場内の羊毛館では、手軽に羊のマスコットづくり体験(500円)ができます。所要は30分ほどで、茶色の毛糸を巻いた針金で作った骨格に、白い羊毛を巻き付けて胴体や頭を作ります。そしてフェルティングニードルでちくちくと突いて、形を整えます。フェルティングニードルを真っ直ぐ挿して真っ直ぐ抜く、これを繰り返すと羊毛の繊維が絡まってフェルト化、だんだん羊らしい形になるのです。
このちくちくが癖になりますよ。ご指導いただいたのは北村明美さん。手紡ぎや手織りの商品を置くショップも出されています。「手つむぎ工房 ひつじのゆめ」
可愛い羊のできあがり
前編とあわせ、素敵なオーベルジュ2軒をご紹介しました。この土地でしか出会えぬ味覚を求めて、奈良を訪ねてみてはいかがでしょう。美味しい食事や風景、素敵な人との出会いがいちばんの旅のご馳走だとわかるはずです。
協力:奈良県 食と農の振興部、読売旅行 奈良営業所
取材・文/関屋淳子