2人の巨匠画家にとっての楽園とは?「モネとマティス」展、ポーラ美術館で開催中(神奈川県・箱根)

箱根の6つの美術館に何度も入館自由になるミュージアムパスの紹介記事で少しふれましたが、箱根・仙石原にあるポーラ美術館で「モネとマティス もうひとつの楽園」展が開催中です。

副題にもなっている「もうひとつの楽園」とは?

クロード・モネアンリ・マティス、フランスの2人の画家が活躍した19世紀から20世紀は急激な近代化が進み、戦争が続いた時でした。戦争を知らない私には想像すらできませんが、「世の中がこの先どうなっていくのか見えない」という混沌とした不安定な空気が漂っていたのではないでしょうか。そのような時代に2人の画家は、“ここではないどこかへ”という思いでパリを離れ、モネはパリから約70kmの小さな村・ジヴェルニーに、マティスは南仏ニースに居を構え、終生過ごしました。それぞれの居場所に光を見つけ、自身の描きたい空間を現実の世界に創りあげた上で作品を制作しました。

ジヴェルニーに庭園を造り、そこへ日本風の太鼓橋をかけて睡蓮の浮かぶ池も整備したモネ。セーヌ川を強引に引き込んで池を造成した大工事は、当初は周辺住民の反対運動もあったとか(!)。今回の展覧会ではフランスのオランジュリー美術館の「睡蓮の間」のように設えた楕円の展示室にいくつもの《睡蓮》が展示されています。

クロード・モネ《睡蓮の池》1899年
油彩/カンヴァス 88.6×91.9cm ポーラ美術館蔵

それにしてもモネは200点以上とされる睡蓮を最晩年まで何故こんなに描き続けてきたのでしょう・・・。作風はモネとまったく異なりますが、イタリアの画家ジョルジョ・モランディ(1890年~1964年)が同じような壺や瓶をひたすら描いたように、フランスの画家ポール・セザンヌ(1839年~1906年)がサント=ヴィクトワール山を何作も描いたように・・・。描きたいという純粋な気持ち以上に、彼らは何かにとりつかれていたようにさえ、私のような常人には感じてしまいます。

今回展に展示されている、晩年白内障を患ったモネが衰えた視力で描いたとされる《日本の橋》。作品名を確認しなければ睡蓮の連作とはわからない抽象画のように見えます。ですが、水面は緑、赤、紫、黄色など豊かな色彩で彩られており、晩年になっても新たな手法を取り入れ続けたモネの情熱に圧倒されます。

 

一方で南仏の明るい陽光に魅了されたマティスは、海岸沿いのホテルで描きながら日々を過ごした後、1921年以降にニースのアパルトマンにアトリエを構えました。19世紀にオリエンタリズムが隆盛を迎える中、マティスはヨーロッパ、中東、アフリカ、アジアなどの大量のテキスタイル(織物・染物・編物・布地など)を集め、タペストリー、カーテン、カーペット、調度品にいたるまで自邸を装いました。

そして、それらのモティーフに着想を得、さまざまな文化が入り混じった色彩豊かな作品を作り続けました。絵のモデルにも自ら作り上げた衣装を着せることもあったそうです。

アンリ・マティス《立つオダリスクと火鉢》1929年
油彩/カンヴァス ピエール・アンド・タナ・マティス財団コレクション
The Pierre and Tana Matisse Foundation Collection

今回の展覧会で私自身が感動したのが、画面の赤が強く印象に残る油彩画《リュート》と、これを下絵に制作された2点のタペストリー《リュートを持つ女性》の3点を揃って見られたことです(内1点はマティスに贈られ、その後マティス美術館で保管)。ポーラ美術館所蔵の油彩画は今まで何回か見る機会がありマティスの中でも好きな作品でしたが、その世界観がそのままにウールのタペストリー(壁掛けなど室内装飾用の織物)となって目の前に現れるとは!3点が揃うこの機会を絶対逃してはなりません!

アンリ・マティス《リュート》1943年
油彩/カンヴァス 60.0×81.5cm ポーラ美術館蔵

それにしても、2人とも自身を写真に撮ることも多かったようなので(カメラも近代化のひとつですね)、セルフプロデュース力も見事なものです(笑)

モネ(右上)とマティス(右下)と一緒に撮れる写真スポットがあります

モネとマティス もうひとつの楽園
開催中~11月3日(火・祝)まで。会期中無休(臨時休館あり)
https://www.polamuseum.or.jp/exhibition/20200423s01/
「ケリス・ウィン・エヴァンス展」「LÉGER&ART DÉCO 100年前の未来」「ポーラ美術館の名作絵画」同時開催中

 

 晴れた日は遊歩道へ

また、天気がよければぜひ寄って欲しいのが、敷地内の「森の遊歩道」です。ポーラ美術館はプライベート含めて何度も訪れていますが、雨だったり雪だったりと歩く機会を逃していましたが、今回ようやく念願の遊歩道を歩くことができました!

美術館の建物自体は、仙石原のゆるやかな傾斜地にすり鉢状のコンクリートの土台を設け、そこに免震ゴムが設置された上に建てられており、森の木々の中にすっぽり埋もれるようになっています。免震構造の様子は遊歩道からも見ることができます。

建物の様子がわかる

そして、歩きやすいように木道が設置された遊歩道には、ヒメシャラ、ブナ、ヤマボウシなどなど常緑樹が中心となり、全長約1kmの森林の中を歩けるようになっています。そこかしこに彫刻などがあり、それらを眺めながら歩くと40分ほどの森の散策を楽しめます。

 

そして11月30日まで、国際的に活躍するアーティスト、スーザン・フィリップス(Susan Philipsz)による“アートの森で耳を澄ます”サウンド・インスタレーションが遊歩道で公開されています。

作品制作にあたって、アーティスト本人が箱根に滞在し、ポーラ美術館を包む自然の美しさと、美術館のコレクションの中核をなす印象派の画家の作品から着想を得たそうです。豊かな緑の中、どこからか聞こえてくる深く美しい幻想的な音色に耳を傾けてみませんか。

ポーラ美術館 https://www.polamuseum.or.jp/

<次回展>Connections-海を越える憧れ、日本とフランスの150年
会期:2020年11月14日(土)~2021年4月4日 会期中無休 ※展示替えのための休館あり

取材・文/塩見有紀子

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