国内外の観光客から人気を博す沖縄では、“世界から選ばれる持続可能な観光地”をめざし、旅の“質”に着目したプログラムを進めています。昨年、新しい旅のカタチとして紹介した「エシカルトラベルオキナワ」もその一環。2021年にスタートしたこの取り組みも今年で4年目を迎え、ますます内容を充実させています。そこで、再び沖縄を訪問。新たに体験したエシカルな旅をレポートします。
「エシカルトラベル」とは?
エシカルトラベルオキナワは、沖縄の自然・伝統・産業を尊重しながら地域の人々と旅行者がともに“沖縄らしさ”を育み、発展させていく、未来に向けた旅のスタイル。地域の人々は沖縄の魅力を伝えるためのコンテンツを積極的に発信し、旅行者はその思いに触れながら旅を楽しみ、地域への思いやりをもつきっかけとします。
沖縄県では、離島を含めた約60の事業者によるコンテンツを8つのテーマに分けて提案しています。なかでも今回はそのうちの4つを体験。前編ではやんばるエリア(沖縄本島北部)にある「飲食」「環境を守る」をテーマにしたスポットをご紹介します。
##スポット1
~飲食~
Cookhal(クックハル)
Cookhalはやんばるエリアの中心地・名護市にある農家カフェ。自社農園や提携農家から直送で仕入れる野菜をはじめ、肉や魚、卵、調味料、皿にいたるまで、やんばる産のものをふんだんに取り入れた地産地消メニューを提供しています。
「FARM & CRAFT」をコンセプトにした食のテーマパーク「なごアグリパーク」内にある店
自社農園から店までは車で15分ほど。毎日、店には朝摘みのフレッシュな野菜が届きます。
いち押しのメニューは「畑のランチプレート」。内容は日替わりで、キッチンスタッフは“畑の声が聞こえるメニュー”をめざし、届いた野菜をチェックしてからその日のアレンジを決めていきます。
自社農園の広さは約1ヘクタール。1年間に延べ40~50種類の野菜を栽培 画像提供:OCVB
私が訪れた日は、地元名護産のお米「ミルキーサマー」と古代米のごはん、やんばる若どりのブロッコリークリームソースがけ、旬野菜の天ぷら、キッシュ、野菜のデリ3品、ハイビスカスの花をあしらった葉野菜のサラダと自家製ドレッシング、スープといった具合。彩りも味わいも多彩で、どれも食感、香り、旨みといった食材の滋味をしっかりと堪能できるものばかり。もう畑の声どころか、大合唱が聞こえてきました(笑)!
また、肉や炒め物、スープなどには沖縄伝統の島コショウ「ヒハツ」をはじめとしたスパイスが使われており、こちらもまた絶妙な風味を醸しています。
やんばる豚100%のハーブ入りソーセージをサンドしたホットドッグも人気。
ソーセージは長さ20cm!
芝生広場を望むオープンエア席は開放感たっぷりでリフレッシュに最適
訪れるたびに変化に富んだ味に出合える同店は、観光客だけでなく、地元の人々にも好評だそう。オーナーの芳野幸雄さんは、「やんばるの食の美味しさは地元の人にこそ知ってもらい、誇りに感じてほしいんです。それをきっかけにほかの地域や県外にも魅力が広まっていけば、『食べてみたい』という人がやんばるに集まってきて地域が盛り上がります」と話します。
また、こうした反応はお店の方々の自信にもつながるとのこと。同店は意図してエシカルを謳ってきたわけではないといいますが、今ややんばるにエシカルの輪を広げる原動力になっているようですね。
ピクルスやちんすこうなどの手作り商品、スパイス茶などの販売も。
ローカルには地場産の島野菜が人気
芳野さんは畑仕事に精を出す一方、新規就農者たちからなる出荷グループ「沖縄畑人(はるさー)くらぶ」を発足し、農家が希望価格で野菜を販売できるよう流通一体型の生産体制を整えています。さらに農家・加工業者・飲食店・宿泊施設・消費者など巻き込み、「やんばる畑人プロジェクト」をスタート。互いの連携を図り、交流会やイベントを通して農業ややんばるの食の魅力を伝える活動に取り組んでいます。
オーナーの芳野さんは2003年に農業を志して東京から移住。
やんばるを元気にするべく奮闘中
目下、このプロジェクトの最大の目標は「名護市を“スパイスの街”にすること」。やんばるでは肉や魚、米、野菜、そして塩や砂糖などの調味料にいたるまで、あらゆる食材が自給できるのに対し、国内に流通するスパイスの原料はほぼすべて輸入に頼っているそう。「沖縄はスパイス栽培の北限地域なので県外では苗が育ちません。ここで日本唯一のスパイスをつくり、オールやんばる産の料理を実現したい」と、芳野さんは目を輝かせます。
左は「やんばるスパイス」。ブレンドしたスパイス9種類のうち4種類がやんばる産。
右はやんばる産スパイス「やんばるパウダー」各種 画像提供:OCVB(左)
2025年3月時点では島唐辛子やヒハツ、カラキ(沖縄シナモン)など約20品種の試験栽培にこぎつけ一部製品化もされていますが、安定供給まではあと一歩だそう。ただし、1、2年後にはワークショップなどでオールやんばる産の本格スパイスカレーを振る舞えそうとの朗報も! 「参加者自身による収穫体験やカレー作りもできればと考えています。今後は、こうした現地でしか体験できない企画を少しずつ増やしていきたいですね」と、芳野さんは話します。
大型レジャー施設が集まるやんばるエリアですが、地域に触れるワクワク体験も旅の醍醐味。ぜひ美味しいグルメとともに楽しんでみてくださいね。
左は国産コショウの実。コショウは店頭で苗木を販売しているほか、
毎週水曜に栽培法を伝授するワークショップも開催
##スポット2
~環境を守る~
やんばるアドベンチャーフィールド
2021年7月にユネスコ世界自然遺産に登録されたやんばるは、1億年以上も前からあるといわれる亜熱帯の森。世界屈指の生物多様性を誇り、「奇跡の森」とも呼ばれています。
沖縄県北部の東村にあるやんばるアドベンチャーフィールドでは、ジップラインやバギーを利用しながら森を巡り、独特の生態系を体感したり、自然保護の取り組みについて学んだりできます。
園内には太古の森を彷彿とさせるダイナミックな自然が広がる 画像提供:OCVB
今回、挑戦したのは、空中から森の絶景を堪能できるジップライン。5本あるコースは、いずれも周囲の生態系を壊さないように設置されています。
同行するガイドさんから講習を受けたら、いざ出発! 「Go! Go! やんばるー!!!」のかけ声とともに森へ飛び立ちます。初めこそ怖さが勝って景色を楽しむ余裕がなかったものの、2本目以降は大人気ないほどワンパク心が全開になりました(笑)。みるみる開ける視界の先では、豊かな緑に包まれた森を一望でき気分爽快! ガイドさんからの「次はワイヤーから手を離し、両手を広げて飛んでみましょう」とのミッションも楽々クリアです。
気持ちはターザン! 自然の雄大さを改めて実感 画像提供:OCVB(上)
亜熱帯に属するやんばるの森はまるでジュラシックパークの世界で、コース間を歩いて移動するのも楽しみのひとつ。道中で出合った動植物の説明や外来種が及ぼす自然への影響のことなど、森についてのガイドも聞けるので興味深く散策できます。
例えば、「ヒカゲヘゴ」は名前通りに日陰を好み、高さ10mほどに成長する日本最大級のシダ植物だそう。幹にある無数の葉痕が小判のように見えることから「触るとお金持ちになれる」と言われているのだとか!
ヒカゲヘゴの新芽は食べられるそう。巨大なゼンマイ形でまるで魔女のステッキ
絶滅危惧種や固有種など貴重な小動物に遭遇することも。
写真は日本一美しいといわれるカタツムリのアオミオカタニシ 画像提供:OCVB
遊びながらにして自然への理解や愛着が深められるこのツアー。楽しい思い出がつくれるだけでなく、やんばるの森の奥深さや課題も知ることができ、森への思いやりをもつきっかけにもなります。その気持ちを一人ひとりが日常に持ち帰り、少しでも生活のなかに取り入れていくこと、それが森の未来を救うための大切な一歩になるのではないでしょうか。
さて、自然の中でリフレッシュした後は、併設の又吉コーヒー園で小休止。農薬を使用せずに栽培した沖縄産コーヒーを味わえるほか、コーヒー豆の収穫体験や焙煎体験もできますよ。
収穫&焙煎体験の様子は昨年公開したエシカルトラベルオキナワ~地域とすごす旅~ No.3で
前編では「飲食」「環境を守る」をテーマに自然豊かなやんばるのスポットへ。後編では「アートと伝統文化」「宿泊」をテーマに県中部のスポットを巡ります。
(取材協力:沖縄県/(一財)沖縄観光コンベンションビューロー)
文・取材:田喜知 久美