エシカルトラベルオキナワ~地域とすごす旅~ No.2

「エシカルトラベルオキナワ」という新しい旅の楽しみ方。1に続き、第2回は、ネイチャーツアー、琉球料理教室など沖縄を身近に感じられる体験プログラムをリポートします。

「エシカルトラベル」とは?

マリンブルーの海に白砂のビーチ、紅型(びんがた)をはじめとした伝統工芸、琉球グルメほか、沖縄の魅力は尽きませんよね。「エシカルトラベルオキナワ」は、この沖縄の自然、伝統、産業を守り、未来につなげていこうとする取り組み。旅行者に沖縄を身近に感じてほしいと、ネイチャーツアーや郷土料理教室、エコ活動など地域の営みや思いを肌で感じられる様々な情報を発信しています。

世界に誇る奇跡の森へ

EVバスで巡る「やんばるの森ネイチャーガイドツアー」

沖縄県北部は、古くから「やんばる(山原)」の名で親しまれてきた自然豊かなエリア。亜熱帯に属しており、年間を通して暖かく、一帯にはイタジイ(スダジイ)を中心とした国内最大級の照葉樹林が広がっています。

森の半分をイタジイが占める。その見た目から“ブロッコリーの森”の呼び名も

 

なかでも最北に位置する国頭村、大宜味村、東村は「やんばる3村」と呼ばれ、固有種や絶滅危惧種をはじめとした希少な動植物の宝庫として知られています。3村の総面積は国土の0.1%にすら及びませんが、国内で確認されている陸上生物の約4分の1の種が、鳥類にいたってはおよそ半数の種が生息しているといいます。この生物の多様性と独特な自然環境から“奇跡の森”と称され、20217月には奄美大島、徳之島、西表島とともに日本で5番目となるユネスコ世界自然遺産に登録されています。

国立公園の指定も。やんばるとは「山々が連なり、森が広がる地域」の意。

“奇跡の森”をめざし、今回参加したのが「EVバスで巡る『やんばるの森ネイチャーガイドツアー』」です。このツアーは国頭村をスタートし、ネイチャーガイドとともに「やんばる国立公園」や世界自然遺産エリアを訪ねる、所要約2時間の行程。移動には、二酸化炭素を排出しない電動式のEVバスを採用しています。出発後も、森の生き物たちとの衝突事故“ロードキル”を起こさないように時速20km以下でバスを走行させるなど環境に優しい取り組みをしています。

左)EVバスは走行音も静か。車体にはやんばるの動植物をデザイン  右)バスに乗る際は、靴底の汚れを落として外来種の侵入を防止

ツアー中は車窓からの景色を眺めるだけでなく、要所要所でバスを降りて林道ウォークを楽しみます。澄んだ空気をたっぷりと吸い、森の息吹を感じると、やんばるの森を訪れた実感がグンッとアップします。道中は平坦で、長くても300m程度の距離ですが、巨大な木生シダをはじめとした豊かな植生を観察でき、見ごたえ十分です。「やんばるの森の魅力は中身の豊かさにあります」というネイチャーガイドさんの言葉に大きく頷けます。

木生シダのヒカゲヘゴ。幹に無数の葉痕が見られ、まるで巨大なプリッツのよう

 

また、やんばるの固有種で、日本一美しい鳴き声に選ばれたこともある野鳥のホントウアカヒゲ、天然記念物のリュウキュウヤマガメなど珍しい生き物も多彩に生息しているそう。そうした生き物たちは隠れ上手でなかなか姿を現さないとのことですが、当日は「キュキュキュキュキュキュッ」というヤンバルクイナの甲高い鳴き声を聞くことができました! さらにネイチャーガイドさんから、「ヤンバルクイナは生涯同じ相手と添い遂げます。今の鳴き声は夫婦のデュエットですよ」という説明も。仲睦まじい姿を思い浮かべると、より愛おしく感じますね。

左)琉球列島の固有種シリケンイモリにも遭遇。フグと同じ毒をもち、鮮やかな体色で毒をもつことを敵にアピール  右)リュウキュウウラジロガシのドングリは日本最大

出合った動植物の解説に加え、この森の成り立ち、人々の暮らしとの関わり、外来種対策や密猟のことなど、ネイチャーガイドさんは幅広い内容に触れ、やんばるの魅力をたっぷりと伝えてくれます。そして、最後に「自然を守るためには、自然に対しての『管理、責任、付き合い方』を考えていくことが大切です。今回の体験が、皆さん自身の暮らす環境を見直すきっかけになれば」とのメッセージも伝えられました。

「やんばるは手つかずの自然ではなく、人の暮らしと密接に関わってきた」とガイドさん

このツアーでは、自然の奥深さや魅力に改めて気づきました。また、自然に接するときのマナーやこの森が抱えている課題など、新たに知ることも多々ありました。一人ひとりのこうした気づきが自然を思いやる意識や行動につながっていけば、きっと大きな力になるのではないでしょうか。ともすると、それは100年後、200年後の未来を変えていくことになるかもしれませんね。

ロードキル防止の標識。レンタカーなどで通る際は小動物にも注意を

 

夜のやんばるの森で環境パトロール

「保全体験型ナイトツアー AKISAMIYO

昼間とはひと味違ったネイチャーツアーを体験ができるのが、「保全体験型ナイトツアー AKISAMIYO」です。参加者は環境省のレンジャー(自然保護官)のごとくGPSを持って夜のやんばるの森に潜入し、地元が行う環境モニタリング調査に参加します。移動にはおもに車を利用しますが、野生生物の密猟や盗掘を防止するため車を降りて林道パトロールも行います。そして希少な野生動植物や外来生物、違法なトラップ、希少種のロードキルなどを発見したら、GPS情報や写真で記録。専属ガイドの指導の下、調査活動の一連の作業を体験します。

希少生物は姿だけでなく、鳴き声や食事の痕跡などもチェック

森には夜行性の生き物も多く棲み、稀に見かけることもありますが、このツアーの目的は動植物の観察ではなく、あくまで調査。また、漆黒の森で行う地道な作業のため、小さな子ども連れの方には向かないかもしれません。ただ、この調査活動はやんばるの森を守るためにひじょうに重要で、今年3月には「第19回エコツーリズム大賞」(主催:環境省など)で特別賞も受賞しています。その大切な活動を実際に体験できるので、「自然の保全活動に興味がある」「通常の自然観察ツアーから一歩踏み込んだ体験がしたい」という人はぜひ挑戦してみてくださいね。

※このツアーは、「やんばるホテル南溟森室」(下記参照)のアクティビティのひとつにもなっています。

沖縄の母、アンマーが家庭料理をレクチャー

「やんばるホテル南溟森室」の「郷土料理体験」

やんばるホテル南溟森室」は、やんばる地域にある一棟貸しの宿。空き地や古民家をモダンに蘇らせたゲストハウスを構えています。

この宿は地域と旅行者をつなぐ場にもなっており、宿泊者へのもてなしのひとつにオリジナルのアクティビティを用意しています。その内容は、船大工が同行するサバニ(帆掛け船)クルーズ、琉球王家の装いに身を包む琉装体験、神秘的なユタ文化体験など20種類以上。どれも沖縄の昔ながらの暮らしや自然をテーマにしており、集落の人々から直接手ほどきを受けられるので地域への親しみが湧いてきます。

右は料理を教えてくれた仲本美智子さん、左は宿の水先案内人「シェルパ」の上原里沙さん

 

今回トライしたのは、地域のアンマー(お母さん)による「郷土料理体験」です。レッスンでは、行事食など季節感を取り入れた島の家庭料理を教えてもらえます。当日は興味津々で臨み、葉の裏が紅色の野菜「ハンダマ」を一緒に炊き込んだご飯、沖縄の県魚「グルクン」のムニエルなど島の食材をふんだんに使ったメニュー6品を伝授していただきました。

左)アンマーの優しい指導と沖縄のアクセントにほっこり 右)右手前から時計回りに、ハンダマご飯、白和え、パパイヤや鶏肉の煮物など。椀物はモズク汁

 

特に印象的だったのは、島豆腐に苦みのある葉野菜のニガナやレッドドラゴンフルーツを加えて作る白和えです。食材のチョイスも、「白」和えとは名ばかりの鮮やかなピンク色も斬新で、南国らしさ満点。一方、その味わいは、島豆腐の滑らかさが個性的な各素材の持ち味を上手に調和し、とてもマイルドな風味でした。また、調理後の試食会では4名の参加者全員が滋味あふれる品々に感動し、「おいしい!」の連発。厄除けや健康・長寿を願って食べられる伝統的な餅菓子「ムーチー」もふるまわれ、大満足のひとときでした。

最終回となる次回は、沖縄の伝統芸術から農園体験、星空観察までバラエティに富んだ体験プログラムを紹介します。ぜひお楽しみに!

取材協力:沖縄県/(一財)沖縄観光コンベンションビューロー

取材・文:田喜知 久美

 

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