「純温泉」という言葉をご存じですか?新しく定義された温泉のことで、源泉をそのまま利用している温泉(源泉が高温で適温にするための適度な加水・源泉が低温で適温にするための加温はOKなど)で、循環ろ過装置や塩素系薬剤等の添加による温泉水の消毒や入浴剤添加をしていない温泉のことです。純温泉協会により、現在(2020年8月)全国の115施設が認定され、「恩湯」は最新施設です。 その純温泉のなかでも飛び切りの温泉施設が山口県長門温泉にある「恩湯(おんとう)」です。何が飛び切りかというと、岩の割れ目から自然に湧出する温泉を見ながら、浴槽の真下、足元から湧く温泉に入浴できるのです。 つまり温泉という自然の神秘を目で楽しみ、空気に触れることなく湧き出す鮮度の高い温泉水に浸れるという、公衆浴場のなかでも最高レベルの温泉なのです。温泉の質を落とさないために湧出量に合わせて、浴槽の広さは男女それぞれ8㎡という狭さ(笑)。しかしこれが、ほんものの温泉を守るということなのです。
恩湯(長門湯守㈱提供)
ごぼごぼと溢れ出す源泉の岩盤の頂には住吉神の石像が神座しています。何と神々しいこと! 温泉のパワースポットです。 無色透明の湯はほんのりと硫黄の香りがあり、肌になめらか。深さは1mあり、体にしっかりと水圧がかかる事で血行を促進させてくれます。温泉誕生の瞬間に立ち会った原始人のごとく、畏れと感動に包まれ、いつまでも入っていたかったのです。 「恩湯」は温泉街の魅力を次々と打ち出すプロジェクトの一環として、2020年3月にリニューアル。建物は実にスタイリッシュで、温泉街のランドマークとなっています。約600年の歴史ある温泉街を自分たちの手で再生したいと宿のご主人をはじめ有志らが集い「長門湯守株式会社」を設立。「恩湯」の運営をはじめ、温泉街の中央を流れる音信(おとずれ)川に親しむ広場やテラスをつくるなど様々な試みがされています。
長門湯守㈱のメンバー、中心人物の大谷和弘さん
リノベーションの第1号店として誕生した「café&pottary音」は、約350年以上の歴史を持つ萩焼・深川(ふかわ)窯の若手作家の作品を鑑賞しながらゆっくりコーヒーが楽しめます。川沿いにせり出すテラスもあり、観光客ばかりでなく地元の素敵な憩いの場です。 萩焼作家の坂倉正紘さんら素敵な作品を購入することもでき、器ファンにも嬉しい限り。
聴泉庵・坂倉新兵衛窯 坂倉正紘さん
地元の人々が関わり、伝統ある温泉街の新たなステージの完成形を目指し、驀進中。「長門湯本温泉、最高だよね」と知れ渡るほど温泉ファンの心をがっちりつかんでいくことでしょう。 恩湯 取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)