2019年4月15日、世界中に衝撃が走りました。今から800年以上前に建てられたゴシック建築の代表作のひとつであるフランス・パリのシテ島にあるノートルダム大聖堂が火災により大きな被害を受けました。
1991年にユネスコの世界遺産に登録されたローマ・カトリック教会のノートルダム大聖堂は、1163年にパリ司教シュリーによって着工され、1320年に完成しました。ルイ14世の絶対王政やフランス革命など、パリの歴史を見つめてきたシンボルなのです。
火災で被害を被りましたが、懸命な修復工事の末、約5年8ヶ月ぶりに2024年12月8日に一般公開が再開されました。
再開を迎えるタイミングに合わせ、東京・お台場の日本科学未来館にて特別展「パリ・ノートルダム大聖堂展 タブレットを手に巡る時空の旅」が2025年2月24日(月・休)まで開催中です。文化財保護の大切さを伝えることを目的としたこの展覧会は、2021年のドバイ万博で初開催され、パリ、上海、ワシントンDC、ロンドンなど世界16の都市に巡回し、今回待望の東京開催となります。
鑑賞に際してゲストが手にするのは、1人1台の専用タブレット端末「HistoPad(ヒストパッド)」。会場内はノートルダム大聖堂の創建時から現代までをタイムトラベルできる「タイムポータル(時空の扉)」が広がり、HistoPadをかざすとディスプレイに当時の様子が映し出されるようになっています。
HistoPadを通して、創建時から一般公開再開までの道のりがわかる
最初のタイムポータルは、まさに2019年の火災の日。ディスプレイに映し出される大聖堂が火災に包まれる光景や消防車のサイレンが鳴り響く様子に胸が痛みます。
ここから先は20のタイムポータルが続きます。特に興味深いのは、約860年前の創建時の様子。鍛冶職人や石工職人などによって手作業で建築されていく様子が映し出され、史料などの文字情報では伝わらないリアルな光景がディスプレイに広がっているのです。
HistoPadの◎をタップすると、より詳しい情報が表示される
そして圧巻は、1804年のナポレオンの戴冠式。ルーヴル美術館でも人気の巨大な絵画ですが、戴冠式には総勢2万人が招待され、ノートルダム大聖堂で豪華絢爛に行われました。
ジャック=ルイ・ダヴィッド
≪ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョセフィーヌの戴冠≫
HistoPadを通してこの場面を見てみると、絵画には描かれていない当時の大聖堂や招待客の様子などが映し出されます。さらに、皇妃ジョゼフィーヌの化粧箱や宝石などの解説を読むこともできます。絵画では描ききれない360度見回せる視点は、まるで自分自身がその時代にタイムトリップしたような感覚に包まれます。HistoPadのコンテンツは、歴史家、美術史家らの監修の元、イラストレーター、3Dデザイナー、エンジニアらによる技術が組み合わされてアプリ開発された確かなもの。戴冠式という歴史的な瞬間にぜひ立ち会いましょう。
HistoPadでは絵画には描かれていない場面や人物さえ見られる
火災で大きな被害を受けたノートルダム大聖堂ですが、修復にあたっては3Dモデルやスキャン、シミュレーションといった最新のIT技術のほか、熟練工による建築や美術品修復の技が駆使されています。これらの新しい技術もHistoPadで動画や図解で解説されていますので、どのような最新技術が修復に用いられているのか理解できるでしょう。
解説は、英語やフランス語など世界各国の言語のほか、「やさしい日本語」の選択も可能
今年のパリ旅行の際、修復工事中のノートルダム大聖堂を見てきました。一般公開後もさまざまな修復は続くそうですが、いつかまたパリを再訪し、重厚で華やかな大聖堂を訪れたいと思います。
セーヌ川から見た工事中のノートルダム大聖堂(2024年5月)
特別展「パリ・ノートルダム大聖堂展 タブレットを手に巡る時空の旅」
https://notredame-ar.jp/
◇おひとり様ポイント◇
HistoPadに没頭すること間違いないので、会場ではひとりでじっくり廻って、鑑賞後に同行者と感想を話し合うのが楽しいですよ。