観光客でにぎわう京都・烏丸四条駅近くに、ゴッホやモネ、葛飾北斎や尾形光琳などの名画を西陣織で表現した「西陣織あさぎ美術館」があります。
尾形光琳《紅白梅図》。純金箔を織り込んだ黄金に輝く西陣織タペストリー
染色した糸を使って模様を織り出す西陣織。図案、複数の原糸を撚り合わせる撚糸、糸染、経糸(たていと)を準備する整経、管巻き、製織など、完成までに数十もの工程があり、それぞれに高度な技術が必要です。これらの工程は分業制で今も続けられ、それぞれ匠の技が繰り広げられる西陣織は「日本の美意識の原点」と称されます。
館内では、パネルや実物で西陣織や1800口織ジャガードを丁寧に解説
西陣織あさぎ美術館では、西陣織メーカーの「あさぎ」が有する、西陣の中でも最高の織技術である“1800口織ジャガード”織機による織物の数々を見られます。1800口とは、約30㎝の袋帯巾に経糸と緯糸(よこいと)の交差する点が1800あるということ。一般的な西陣織は経糸と緯糸の交差が400口、600口、900口なので、実にその4~9倍! テレビでいうところの4kや8kのようなもの。当然、マス目が多ければ多いほど細かく織れるので、立体的な表現や繊細な色合い、なめらかな曲線などを生めます。
館内では、日本で人気のある印象派や琳派、仏教画、浮世絵などの名画をモチーフにした西陣織の作品が次々に登場し、その美しさに目を奪われます。
遠目から見るとゴッホが描いた《ひまわり》の絵そのものに見えるが(上)
近づくと、西陣織で忠実に織られている(下)
※《ひまわり》に関する過去記事はこちら
葛飾北斎の富嶽三十六景《神奈川沖浪裏》も、波のしぶきひとつひとつを繊細な技術で表現
驚いたのはこれだけではありません。暗闇の中、光をためる微細な蓄光糸によって幻想的に浮かび上がるのは、モネの《睡蓮》の屏風。西陣織の18色の色糸を何十通りもの組み合わせで使用し、モネの筆のタッチそのままに再現されています。朝、昼、夕方それぞれの睡蓮が西陣織で表現されており、睡蓮の浮かぶ池の時間の移ろいを何十枚も描いたモネが込めた想いをも楽しめるようになっています。
西陣織のインスタレーション作品《睡蓮》
(画像提供:西陣織あさぎ美術館 ※画像の転載・コピー禁止)
着物も西陣織もなんだか敷居が高い、、と思う方にこそ訪れていただきたい西陣織あさぎ美術館。こぢんまりとしたスペースながらも、長い伝統を受け継ぎながら、高度で繊細な技術から生み出される新たな芸術品の数々に感嘆の連続となるでしょう。
西陣織の製造工程を見られる卵型の椅子に座って、ちょっと機場にいるような体験も
(画像提供:西陣織あさぎ美術館 ※画像の転載・コピー禁止)
特別展「王朝びとの美学」(後期)
2023年4月28日~2023年7月2日開催 ※4月10日~27日は展示替えのため休館
西陣織あさぎ美術館 https://asagi-museum.jp/
◇おひとり様ポイント◇
ミュージアムショップで購入できる西陣織の裂地は種類豊富。一人なら気にせずじっくり選べるでしょう。美術好きの方と一緒に訪れれば、あの名画が西陣織になるとこうなるのか!?と驚きも倍増です。基本的に撮影OKなのもうれしいポイント。