ひとり旅にアート心も入れて by 塩見有紀子

第28回 浮世絵に描かれた筑前・博多を船上散歩(福岡県・福岡市)

以前、東京・日本橋にて、浮世絵に描かれた日本橋を舟から見た記事を書きましたが、今回は福岡・博多編です。

『東海道五拾三次』シリーズで知られる歌川広重は、『六十余州名所図会』シリーズで「筑前 筥崎海中の道」(ちくぜん はこざきかいちゅうのみち)も手がけました。「六十余州名所図会」とは、広重が晩年に描いた、東海道、北陸道、山陰道など68カ所の名所と江戸、目録を加えた70図で構成された揃物。海や陸の交通が整備された江戸中期以降、庶民の旅行が増え、今のガイドブックのような旅行案内記や名所図絵も多く作られました。『六十余州名所図会』は、実際には諸国を訪れないまま広重は描いたとされますがとてもリアル。きっと多くの人の旅心を誘ったことでしょう。

六十余州名所図会「筑前 筥崎海中の道」ボストン美術館蔵

博多湾を臨む筥崎、玄界灘、陸繋砂州の「海の中道」や「志賀島(しかのしま)」、埋め立てのために現在は陸地になった「名島」など、博多湾の様子がありありと描かれています。江戸時代後期、松林広がる筥崎が既に筑前を代表する名所だったことがよくわかります。

 クルーズ船が発着するのが、九州一の繁華街とも呼ばれる中州近くの「天神中央公園」。天神中央公園には、明治43年(1910)開催の博覧会「九州沖縄八県連合共進会」で、来賓の接客のために建てられた「旧福岡県公会堂貴賓館」があります。

橋のたもとにあるクルーズ船の発着場。中央が旧福岡県公会堂貴賓館

明治時代のフレンチルネッサンスを基調とする木造公共建物として大変貴重なため、国の重要文化財に指定されました。館内にはカフェがあるので、クルーズ船の待ち時間に利用するのもいいですよ。

 旧福岡県公会堂貴賓館。夜にはライトアップも

発着場から出た舟は、那珂川を通って博多湾へ。途中には、明治42 (1909)年に日本生命九州支店として竣工した「福岡市赤煉瓦文化館」も見えます。東京駅を設計した辰野金吾と大阪市中央公会堂を手掛けた片岡安による近代遺産です。内部の見学もできますので、ぜひ立ち寄ってみてください。

クルーズ船帰り、右手に見える福岡市赤煉瓦文化館

この日は夕方に乗船したため、彼方に沈む夕日が大変美しく見えました。左手に先頭が尖った福岡タワー、正面には能古島(のこのしま)や志賀島を遠望します。広重が描いた鳥観図「筑前 筥崎海中の道」の光景が広がります。

タイミングが合えば、こんな景色を見られるかも?

キャナルシティ博多、マリンメッセ福岡、博多ポートタワーのほか、中州の屋台街を巡る約45分の博多湾クルーズ。観光案内してくれるガイドさんの生演奏付きです。ちなみに、2023年1月9日(月)まで中州エリア周辺ではイルミネーションイベントを開催中。クリスマスイルミで彩られた中州の街を船から眺めてみてはいかがでしょう。江戸から現代へ、人工的な光もまた美しいものです。

 福博であい橋。かつて城下町だった福岡と商人の町だった博多を
結んだことにちなんで名づけられたとか

福岡市公式シティガイド「よかなび」https://yokanavi.com/

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