鳴子でこけし工房を訪れて以来、すっかりその魅力にはまっている私。昭和初期、高度成長期につづく、
第三次こけしブーム中の今。しっかり流行りに乗っかっております。東京でもこけしにまつわるイベントが
多数行われておりますが、現地に足を運んで工人さんの顔を拝見し、たくさんあるなかからお気に入りを選びたい。
こけしにかかわらず、大量生産されたものではない手作りの工芸品は、やはり産地で手に入れたいと思うわけです。
ということで、〝こけ旅″第二弾の今回は、仙台の温泉地にあるこけし工房をレンタカーでめぐります。
秋保温泉の丘の上にある秋保工芸の里へ
秋保温泉は古墳時代にまでルーツをさかのぼれるほどの古湯。「古今和歌集」や「新古今和歌集」でも「秋保の里」と
歌われているほど長い歴史を誇ります。そんな秋保温泉の街を見下ろす高台に秋保工芸の里があります。
↑仙台箪笥の工房。店先の箪笥をかたどった看板もキュート
伝統こけしのほか、仙台箪笥や木工品、染織など里に点在する9つの工房は住居併設。職人さんがこの地に住みながら
伝統の技を継承しています。
工芸の里の入り口近くにあるのが玩具庵こけし屋。祖父、父と続く3代目・鈴木明工人の工房で、予約をすればこけしの
絵付け体験もできます(絵心がない私は、絵付けはパスで、苦笑)。胴体がくびれているのが特徴的な作並系の伝統こけし
に加え、大人の親指程度の小さなこけしなど、創作こけしも並びます。工房の作業場でこけしづくりに没頭する明工人は、
髪を剃り上げ、髭を蓄えた偉丈夫。一見こわもてですが(失礼!)、実はつくるこけしによく似てらして、眼差しがやさしい。
こちらの工房には明さんの息子で、4代目の敬工人の作品も並びます。
↑明工人の伝統こけし。写真左は店内に飾られていた古いこけし。ちょうどぴったりだったというザルが意外とお似合い!
私が訪れた時は、東京でのイベントを終えた直後だったとのことで、伝統こけしの数がぐっと少なく、創作こけしが
やや多めという状況でした。対応してくださった奥さんが、「今、一生懸命つくっているところなの」と説明して
くださいました。これもひとつひとつ手作りしているからこそ。伝統こけしは、次回また訪れたときの宿題にし、
創作こけしから連れて帰りました。
8代目がのれんを守る作並温泉こけし工房
次に向かったのが、秋保工芸の里から車でおよそ30分、作並温泉にある平賀こけし店です。江戸時代末期に南條
徳右得門がつくりはじめた作並こけし。初代の思いを8代目の平賀輝幸工人が受け継いでいます。昭和47年生まれ
の平賀工人は、祖父と父の技を継承し、ふたりがご健在のときは、三代そろってこけしをつくっていたのだそう。
訪れたときはちょうど、薪ストーブが燃える工房で、ロクロに向かっての作業中でした。こけしにはつくり手の
雰囲気が投影されています。平賀工人のこけしは、ほのぼのとした柔和な表情。胴体には生き生きと花が描かれ、
美しく引かれた線が目を引きます。
私がこけしを選ぶとき、まず表情を見て、それから木目の出方をチェック。同じ表情でも背景の木目の出方で驚くほど
雰囲気が変わります。工房によっては伝統こけしだけでなく、創意工夫をこらした創作こけしもあるので、こけしを
ひとつひとつ見比べて、じっくり選びます。遠目にはみんな同じ顔に見えますが、例えば目の角度がほんのわずか異なる
だけでも、表情の温度が変わってきます。「にっこり」だったり「にやり」に見えたり、これぞ手仕事の味わいです。
ログハウスで野菜たっぷりランチを満喫
平賀こけし店を出るとき、ちょうどお昼どきだったので、女将さんに近隣のランチスポットを尋ねたところ、「この道
(国道48号)の先にあるログハウスのお店かしらねぇ」と教えていただきました。それ、来る途中気になったお店だ!
ということで、迷わず女将さんおすすめのお店へ。
平賀こけし店から出てすぐの国道48号を仙台方面へ向かってしばらく走ると左手に見えてくるログハウスのお店
「カフェ レ・コパン・ドゥ・カンパーニュ」。20数年前にレストランとしてオープンしましたが、2018年4月から
カフェとして再スタートしたお店です。木のぬくもりを感じる店内は、外観からはこじんまりして見えましたが、
テーブル席と小上がり席があり、意外と広々。隅で薪ストーブが赤々と燃えており、居心地のよい空間です。
この日のランチメニューは、「キッシュとたっぷりサラダセット」「ハンバーグプレートセット」「揚げ野菜付き
ビーフカレーセット」「シーフードドリアセット」で、いずれもスープとコーヒーか紅茶が付きます。先にカウンター
で注文とお会計を済ませてから席に着く流れです。キッシュ好きの私としては、メニューは一択(笑)。ここも迷わず
キッシュセットをオーダーしました。ポタージュスープのあとに供されたキッシュは、まわりに文字通りたっぷりの野菜
が盛り付けられ、見た目にも華やか。レタスや紫いも、ブロッコリー、人参のラペなど彩りも豊かなサラダと、スモーク
サーモンのキッシュとのハーモニーを楽しみました。
こちらのお店から歩いて10分ほどのところにニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所があります。緑豊かな森のなかにレンガ
造りの建物が点在する実に美しい工場で、見学も可能(要事前予約)。ゲストホールのショップを覗くだけでも
雰囲気が味わえるので、ぜひ立ち寄ってみて。
秋保・作並温泉のこけし工房を駆け足でめぐりましたが、次回はぜひ名湯も味わいたい!と思いつつ、
仙台を後にしたのでした。
(文・写真 川崎 久子)