再訪したいと願いつつ、なかなか訪ねられないところがあります。熊本県宇城市にある三角(みすみ)西港もそのひとつ。平成27年(2015)に明治日本の産業革命遺産として長崎の軍艦島や大分・熊本の三池炭鉱関連施設などとともに、世界遺産となっています。
三角西駅へはJR熊本駅から観光列車「A列車で行こう」に揺られて三角駅まで約40分、ここから車で約5分。この観光列車、まるでジャズバーのようなお洒落な雰囲気なのでぜひ、このアプローチがおすすめです。
三角西港はいわゆる旧港。単に三角港というときは東港を指すそうです。三角西港は明治20年(1887)に開港。三池炭鉱の石炭の積み出し港だった長崎県南島原市の口之津港が、海底が浅く大型船の出入りができなかったため、天下の良港であった三角西港に白羽の矢が立ちました。国の特別輸出港(米、麦、麦粉、石炭、硫黄)に指定され、増産される石炭は中国・上海へと運ばれました。
今も変わらないはず(2012年撮影)
街に造られた排水路(2012年撮影)
最大の特徴は、山を削り石を切り出し、海面を埋め立てて近代的な港湾都市を造ったことです。オランダ人技師ムルドルの設計のもと、天草の石工たちが建設にあたりました。九州を旅すると、とくに大分や熊本は石の文化であることを目の当たりにします。ここもまさに、緻密で惚れ惚れするような石の文化を実感できます。756mにも及ぶ石積みの埠頭や、排水路、石橋、整然とした道路など、3年の歳月をかけた一大事業、完成の喜びはひとしおだったようです。港周辺には倉庫群や旅館など和洋様々な建物が立ち並びます。そして、今もその明治の繁栄の面影が色濃く残っているのです。
コロニアルスタイルの旅館、浦島屋
旧高田回漕店
以前、私が訪ねたのは2012年、世界遺産になる前でした。明治3大築港といわれる宮城県の野蒜築港、福井県の三国港と並ぶこの貴重な港は、土木のロマンあふれる、美しい近代化遺産でした。そして今もそれは変わらず、レトロな雰囲気が観光客をひきつけています。
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)も立ち寄った洋風旅館・浦島屋、回漕問屋の高田回漕店、旧宇土郡役所庁舎、旧三角簡易裁判所、そしてカフェレストランとして利用されている海岸沿いにある三角海運倉庫など、散策にうってつけの港町です。