このところ仕事の都合で頻繁に京都や奈良に通っています。その合間に、以前から行ってみたかった施設や偶然知った施設などの近代化遺産を楽しむ機会を得ています。今回は、まったく知らなかった未完成の五新線関連施設についてです。
五新線とは、奈良県の五條市と和歌山県新宮市を結ぶ鉄道として明治時代末に構想されたもので、大正11年(1922)に予定線となりました。奈良県南部の吉野川・熊野川流域は日本屈指の木材の産地、その輸送を目的として紀伊山地を貫くように南下するという計画でした。昭和12年(1937)五條側から着工されました。しかし輸入外材の需要が拡大するとともに林業は衰退、戦後に工事が再開されるも、モータリゼーションの普及もあり、未完成のまま列車が走ることなく断念された未成線なのです。
利用価値が多々ある高架下
ぷっつり終わります
五條新町という伝統的な建造物が立ち並ぶ風情ある町並みを抜けると、それは突然現れます。高架橋です。ここを列車が走るはずだったのです。そして高架はぷっつり途切れ、その先には吉野川が流れています。高架橋はまるで本来の働きを忘れたように町に溶け込んでいます。洗濯竿や自転車が置かれていたり、車庫代わりにも使われているようです。「幻の五新線」の一端を垣間見ました。
五條新町は国の重要伝統的建造物群保存地区
道の奥は重伝建地区
さらに五條市にある丹生川の下流沿いの谷へ行くと、なんと、ここにも五新線の廃線跡があったのです。ここは五新線の旧バス専用道だったところ。鉄道開通までの暫定措置としてバス専用道路に変更され、2014年ついにバス路線も廃止になってしまいました。現在は廃線跡をたどる五新線ウォークが楽しめます。
歩いて楽しめる廃線跡
ちなみにこれらの施設は「旧国鉄五新線(未成線)鉄道構造物群」として土木学会推奨土木遺産であり、また鉄道用の長さ5㎞のトンネルが大阪大学の「大塔コスモ観測所」として利用されています。映画ファンであれば、奈良県出身の映画監督・河瀬直美さんの「萌の朱雀」が、五新鉄道建設が物語に織り込まれていることを御存じでしょう。