大浴場の露天からの雄大な眺め。3階以上の客室や食事処、中庭の足湯からも同じ景色が楽しめます
温泉に関わって幾年月、最も数多く聞かれたのは「どこの温泉が一番好きですか?」という質問です。時と場合、体調などにもよるので、これは答えようがないのですが、一番数多く泊まった温泉宿ならば答えられるかもしれません。おそらくそれは霧島温泉の高台に立つ「旅行人山荘」だろうと思います。
初めて泊まったのは10年ぐらい前。以来、ロビーギャラリーで猫の写真展を開いたり、友達を連れていったりと、10泊以上はしています。2度目にうかがったとき、「この居心地の良さはどこから来るんだろう?」と宿のHPをチェックしたところ、トップページの最初に「エコロジーへのアプローチ」という項目が載っていて驚いたのを覚えています。当時、そんな内容をトップに載せている宿はほとんどなかったように記憶しています。
貸し切り露天風呂「赤松の湯」。硫黄の香りと樹木の香りが溶け合っているような露天風呂
ここも敷地内。露天風呂へ向かう途中で出会った鹿さんと目線が合ってびっくり
旅行人山荘は泉質の異なる2本の源泉を持っており、うち1本は貴重な自然湧出泉。「この源泉を守るため毎日モニタリングをして、周辺環境の整備も行っています」と、3年前、社長業を引き継いだ蔵前仁宣さんが話してくれました。こうした温泉への眼差しが自然環境を守る「エコロジーへのアプローチ」へと繋がっているのだろうと思われます。
こちらのお宿は50000坪という広大な敷地を持ち、そのほとんどが樹林です。庭というより森といった方がふさわしい樹林の中に、貸し切り露天風呂が3ヵ所点在しています。さらに奥へ、ふかふかとした小径を歩いていると、かなりの頻度で鹿と出会います。「野鳥の声が聞こえないとか、動物がいないとか、そんな環境はサミシイですものね」と蔵前さんは言います。この森を守るため、スタッフみんなで樹林の整備を行っています。台風などで倒れた木は、本棚にしたり木製看板にしているのだそうです。
「久しぶりに本を読めた」と好評な図書室。
手前の小さな本棚は、敷地内の倒木を使ってスタッフさんが手作りしたもの
そうした本棚などを活用し、昨年、1万冊の寄贈本を揃えた図書室も新設されました。ほかにも、歯ブラシやシェーバーを使わなかった人には100円の割引があったり、ゴミを10種類に分別してリサイクルできるものはできる限りリサイクルしたり、館内の暖房や給湯、シャワーのほとんどに温泉熱を利用したりと、環境負荷の少ない取り組みを進めています。こうした取り組みは、ゲストの目にはほぼ見えません。ですが、館内にただよう清々しい空気や、スタッフさんのいきいきとした対応など、居心地の良さに繋がっているように思えてなりません。
名物料理「大隅鍋」と揚げたてのさつま揚げ。量がほどよく残さず食べられるのも嬉しい。
肉抜き、魚抜きの料理にも対応
旅行人山荘 電話:0995-78-2831 住所:鹿児島県霧島市牧園町高千穂3865