青森県の真ん中に位置する黒石市。この町には、青荷(あおに)温泉や温湯(ぬるゆ)温泉など多くの温泉地が点在しています。板留(いたどめ)温泉もそのひとつ。全国区での知名度はありませんが、400年以上前からお湯が湧いている歴史の古い温泉地です。道路に沿って5軒の宿が一列に並んでおり、その左端に立つのが、今回紹介する旅館「斉川」です。
女性用浴室。色ガラスなどがはめ込んでありステキなムード。
温泉は源泉100%かけ流しの硫酸塩泉・塩化物泉。しっくりと肌になじむ湯質です。
この宿を知ったのは、「卵のケージフリー宣言をした」という小さな投稿記事を見たことがきっかけでした。バタリーケージに閉じ込めた鶏の卵ではなく、マヨネーズなどの製品も含めて平飼い卵だけを使う、と決めたお宿なのです。こうした食への安全や動物への配慮は、徐々に広がっていますが、高級ラインの宿が多い印象です。斉川は1万円前半から泊まれる価格帯。一度、出かけてみたいと考えていました。
養鶏場から届いたばかりの平飼い卵。
産みたてをひとつずつ、手で拾っているのだそうです。
「斉川」はこの地で代々暮らしてきた斉川さんご家族が営む全10室のお宿。3年前、4代目の蘭子さんが跡継ぎとなり、新しい宿作りをはじめました。美容師でもある蘭子さんは、宿を継ぐ前の5年間、ニューヨークでサロンの手伝いやアートの勉強をしていました。その間、多彩な考え方に触れたと言います。「洗濯や髪を洗うのにも気を配っている方もいましたし、革製品を使わない人もいました」。ご自身も、動物性のものをほとんど口にしないため、宿をリニューアルする際、環境にやさしく健康にも役立ち、そして自分もやっていてハッピーになれるような宿にしたいと考えました。
4代目の経営者となった斉川蘭子さん。思いを形にした宿作りをすすめています。
子どもの頃から大の動物好きだった蘭子さんは、ほどなくして近くにある養鶏場から平飼いの卵を取り寄せることにしました。同じ頃、動物性のものを使わないビーガン料理の提供も始めます。コロナ前には、海外から、肉抜きや卵だけはOKなど、様々な食文化の方が泊まりに来ていました。そんな折、黒石市でビーガン料理講習会が催され、すぐれた先生と出会えたこともあって提供をはじめることに。
取材日にいただいた通常メニューの中から、ビーガン対応のお料理を撮影。
トマトにあえられた玉ねぎソース、ゴボウの薄切りにかかっているねぎソースなど
工夫のある味わい。おいしい!
通常メニューには青森ガーリックポークや陸奥湾のホタテが登場しますが、小鉢には様々なビーガン対応料理が盛り込まれています。このようにちょっとだけビーガンも可能ですし、夕食だけあるいは一人だけビーガンなど臨機応変に食事をアレンジしてくれます。お米は45年間、無農薬栽培を続けている地元農家のお米。通常メニューの朝ごはんには平飼い卵を使った温泉玉子も登場します。すべてにトコトンこだわるというよりは、無理なく楽しく気軽に、ビーガン料理に親しめます。さらに、環境や動物に負担が少ない栽培・飼育方法の食材は、健やかな味わいです。
館内には、1席のみの美容室(要予約)も設けられていて、昼間、蘭子さんは美容師としての仕事もしています。動物実験をしていないヘアカラーを用いるなど、こちらでも環境や動物へ配慮をしています。アメニティや洗剤などは今のところ通常品。できるところから一つずつ取り組んでいこうという、程のいい力の抜け具合もこの宿の魅力。「もう1泊したいなぁ」と思える居心地のいいお宿です。
昭和ムードのお宿に、オシャレなセンスが加わって独特の個性を醸し出している館内。
好きな人にはたまらないくつろげる雰囲気です。
旅の宿斉川 電話:0172-54-8308 住所:青森県黒石市板留字宮下8-1