「やさしい温泉」人、動物、地球にも! by 西村理恵

第33回 緑能=グリーンエネルギーと河原の野趣を楽しむ紅葉温泉(台湾・台東県)

旅先で親切にしてもらうのって本当に嬉しい。久しぶりにそんな気持ちがこみあげてきたのが、今回訪ねた台湾の西海岸、紅葉温泉への旅でした。

自然との一体感が半端なく気持ちいい。手軽に行ける野湯「紅葉温泉」

東海岸は、新幹線が通る西海岸に比べるとローカル色が強く、のどかな風景や絶景の岩壁が続いています。日本との関係も深く、戦前に日本人が広めた稲作は、今やブランド米となり、台湾ではよく知られています。

リゾート感ただよう施設。紅葉村は少年野球の聖地で屋根はボール型

紅葉温泉の玄関口「鹿野駅」周辺もかつて日本人が入植した村。紅葉温泉は、鹿野駅から車で20分ほど西へと進んだ場所にあり、1928(昭和3)年の文献には温泉が記載、「温泉駐在所」が設けられていました。

パインやお茶が名産の鹿野集落。駅舎や神社など懐かしムード

温泉がある紅葉村は布農(ぶぬん)という台湾原住民族が暮らすエリア。元々山の民だった布農の人たちは、日本時代にこの地へ強制移住させられた歴史があります。今回、宿泊したB&B「ONE TAITUNE」オーナーの蔡さんも布農の方。高雄で知り合ったステキな奥方・王さん、そしてワンコとで宿を切り盛りしています。

全室バストイレ付き。放牧鶏が産む卵が朝食に。
インテリアもオシャレな「ONE TAITUNE」

紅葉村は温泉の湧く村ですが、温泉のある宿はありません。入浴施設に行くか、河原に湧く野渓温泉に浸かるかのどちらかになります。数多い台湾の温泉の中で今回、紅葉村へと出かけたのは、新しい温泉施設「紅葉谷緑能温泉」が誕生したため。「緑能」は「グリーンエネルギー」という意味。こちらの温泉は、地熱とセットで開発が進められています。

台湾は日本同様エネルギーをほぼ海外に依存しており、自然エネルギーへの転換が急ピッチで進められています。紅葉谷の地熱発電も2024年末の運用開始をめざして工事中です。

「日式」浴槽(写真左)とすぐ奥にある地熱井戸。地熱資料館も併設

温泉施設に注がれているお湯は、地熱井戸とは異なる昔からの源泉井戸からのもの。深さ81mで泉温は61℃以上。南国らしい開放的なプールが屋外に配置され、台湾ならではの多彩なジャグジー設備が設けられています。温度は、20度〜42度の4区分。一番温度が高い「日式鉱泉湯」は、日本人好みの40〜42度で泉質は炭酸水素塩泉系。新しい施設だけに清潔でデザインもしゃれており、まるでリゾートホテルのプールのような雰囲気です。世俗から遠く離れた山と清流に包まれた場所でお湯と遊ぶひととき、心の底からリラックスできました。

スープやフリードリンク、デザートも付くコース料理。
スタッフさんもとっても親切

併設のレストランでは、山ブドウの葉に盛られた布農スタイルで、豚肉や魚のグリルが食べられます。手の込んだ料理ではありませんが、野菜や芋、肉など素材そのものに力があり、食べ応えのある味わいでした。地域振興のためスタッフの半数以上は地元の人たち。布農の若者たちが数多く働いています。15年前の大水害により流失した温泉施設跡にできた「わが町の温泉」、地元の人たちも誇りに思っている様子で、皆さんほんと親切でした。

緑能温泉から徒歩すぐの河原へと下りると、ふつふつとお湯が湧き出しています。こちらが通称「紅葉温泉」。簡易的な脱衣場が設けられているので、水着に着替えて自由に入浴ができます。鉄の匂いがぷんとするすべすべとしたお湯で、周囲の河原石は赤く染まっています。

「紅葉橋」の下に湧く「紅葉温泉」

B&Bオーナーの蔡さんによると「欧米人はここが好きで、夜、星を眺めながら入浴していますよ」とのこと。蔡さんも、緑能温泉ができる前は河原湯に浸かっていたそうです(「今は毎日、緑能温泉!」)。設備の整った温泉施設と、ほぼ何もない野湯の両タイプに入れるのも嬉しいかぎり。紅葉村でお湯を巡ると、台湾西海岸の大きな自然と温かいハートに触れることができます。

「紅葉谷緑能温泉」https://www.vakangan.com

 「ONE TAITUNE」http://onetaitung.so-ez.com.tw

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