青白いお湯が注がれている露天風呂。
3ヵ所ある浴室は30分ごとに貸切りで利用。空いていれば何度でも入れる
なだらかな稜線を描く乗鞍岳中腹に広がる乗鞍高原。各施設に温泉が引かれたのは45年ほど前。歴史が浅いため、温泉地としてのイメージは薄いけれども、「山と自然と温泉が大好き」な人にとって本当に魅力のある高原です。
そんな乗鞍に魅せられたお一人・藤江祐馬さんがオーナーを務めているのが「温泉の宿Raicho」。コロナ前より外国人に人気の宿として知られていましたが、ここ数年、環境に負荷をかけない宿づくり、地域づくりに取り組んでいます。
乗鞍観光センターから徒歩6分、ゆるやかな坂道をのぼった木立の中にRaichoは立っています。外観は昭和な二階建ての宿ですが、中に入ると様子は一変。1階はラウンジやキッチンなどのパブリックスペース。なかでも大きな面積をしめているのがワーキングスペース&ダイニング。10室すべてが満室だったとしても十分な余裕があります。多くのゲストハウスに泊まってきたけれども、パブリックにこれだけの空間をさいているところは珍しい。
吹き抜けラウンジ。丸テーブルは信州の材を使ったやまとわ製。温泉本や旅本もたくさん揃っている
運営にも工夫があります。鍵は暗証番号方式、客室内アメニティはバスタオル1枚。歯ブラシや浴衣などは別料金となります。ゴミは自分で分別し、使用後のシーツもフロント横のボックスに自分で入れる。素泊まりが基本ですが、レトルト食品やお米1合、一部野菜などを販売。前日までに予約すればベーグルの朝食を冷蔵庫内に用意してくれ、好きな時間に取り出していただけます。この朝食がとってもおいしい。
客室は1泊4500円〜のドミトリーのほかトイレ付きの和室、長期滞在しやすそうなベッドの部屋など様々。連泊をしやすい料金設定です。
今回宿泊したクイーンルームは1名1泊7000
円ほど。聞こえてくるのは野鳥の声と風の音だけ。連泊したかった〜
スープ&ベーグル&野菜の朝食(800円)。ベーグルはもちもち!
テーブルや家具はリサイクルやアップサイクルできるものを利用しており、洗剤や浴室のアメニティはエコストア製。電力も、パネル処理まで見据えた太陽光発電を取り入れ、自然エネルギーを活用した電力会社と契約しています。今の時代を少しだけ先取りした取り組みを、オシャレにさりげなく取り入れているのも、泊まっていて心地良く感じる理由の一つ。でもこの宿の一番の魅力は、運営するメンバーさんたちにありそうです。
お話を聞かせてくださったマネージャーの山本拓郎さん。
自然体で楽しそうに働いているメンバーの皆さん、ステキでした
こちらの宿の採用条件はかなり個性的。「コンビニのない生活に喜びを感じられる」「2000メートル以上の山に一人でテント泊できるまたはできるようになりたい」。そしてまずは「この宿の理念に共感できる」こととあります。
そんな思いで集まってきたメンバーの皆さん、「乗鞍とこの宿が大好き」な方々ばかり。館内に入ったときに感じた居心地のいいあたたかいムードは、こうした運営メンバーや多くの常連さんたちの、愛情のようなものから醸し出されているように思われました。
温泉の魅力も大きく、乗鞍の中腹から自然湧出しているこちらの温泉、動力を使わず自然流下で浴槽に注がれています。泉温は46.8度、遊離硫化水素が35mgも含まれるpH3.3の酸性の硫黄泉で殺菌力もある上、加温も加水もなし。温泉香に包まれながらお肌を磨くような浴感が楽しめます。また毎日3か所の浴槽すべてのお湯を抜いて掃除をしています。それでも露天風呂には木の葉や虫が入ってしまうけれども、それも風情と考えれば、自然との一体感に包まれながら極上の入浴体験が。温泉が大好きというオーナーさんの宿、湯質も管理も申し分ありません。
乗鞍高原温泉
温泉の宿 Raicho
電話:0263-93-2746 住所:長野県松本市安曇4306
https://ghraicho.com