京都には深い井戸が幾つもある by 小林禎弘

第2回 街から30分の秘境・鞍馬で山の幸を満喫(京都市)

京都市内から車や叡山電車で、30分で行くことができる鞍馬は洛北とされていますが、人里離れた山村感がたっぷりです。中心は天狗伝説や牛若丸修業の地で有名な鞍馬寺で、770年創建とされていますからほぼ平安京の歴史と重なります。 

鞍馬の町並み

鞍馬の里に残る伝統的な京佃煮店、「くらま辻井」のご主人、辻井浩志氏に木の芽煮の歴史について取材しました。木の芽煮とは鞍馬の名産品で、現在5軒の店があります。

くらま辻井

くらま辻井ご主人の辻井浩志さん

集落は鞍馬寺の門前町として発展しましたが、交通機関がない時代はとても日帰りできなかったので、宿屋も何軒かありました。また鞍馬街道は若狭からの鯖街道の最短ルートにあたり、その交易ポイントとして持ち込まれた利尻の昆布と、地産の山椒を醤油で炊き合わせたのが木の芽煮です。

商品(左:葉唐辛子、中央:木の芽煮、右:蕗しぐれ) 

かつては林業を生業とした家が多く、山仕事の傍ら集めた山菜などの山の幸や、鞍馬の酸性色が強い土壌によって味が良くなった山椒を塩漬けや醤油で煮て各家庭で保存食としていました。冬は炭を焼いて都に売りに行き、これらの保存食も一緒に売っていました。辻井家の歴史は過去帳によると少なくとも250年前からの炭問屋で、炭農家から納品された炭を、炭俵に梱包して馬引きの大八車で市内に売りに行き、ついでに出町柳にあった食糧問屋に木の芽煮を含む佃煮を卸していました。

その問屋では大原女のような紺絣を着た女性が、家々を「こうていな」と声をかけて売り歩いていました。木の芽煮は、山椒炊や鞍馬煮と呼ばれ、たいそう評判が良かったそうです。 

鞍馬街道

木の芽煮の工程は5月・6月に採取して塩漬けにしておいた青い山椒の実と、8月まで大きく育てた繊維が硬い土用葉と呼ばれる乾燥させた山椒の葉、利尻昆布を濃口と薄口をブレンドした醤油で3時間炊きます。火を止め余熱で2~3時間置いた後、煮汁を除き、全体を細かくみじん切りにして煮汁を適量戻せば完成です。 

木の芽煮工程

味はご飯のおかずなので濃いのですが、他店よりも薄いのが特徴で、柔らかくなり過ぎない昆布に柔らかい山椒葉がまとわり、山椒の実が香りを立てて上品な一品に仕上がっています。 

鞍馬の水道水は花背峠の共同井戸のもので、同店ではさらに自家井戸の水も使っているため味に大きく影響していると思われます。 山椒の実だけや山蕗、葉唐辛子、わらび、しその実など多種多様な山の幸の佃煮がそろっています。 

くらま辻井 http://www.kuramatsujii.jp/

京都市左京区鞍馬本町447 

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