福島県の焼き物の一つ、大堀相馬焼には紆余曲折の歴史があります。
誕生は300年以上前の元禄年間(1688〜1704年)。相馬藩の統治下にあった大堀村、現在の浪江町大堀地区で発祥した大堀相馬焼は、藩の支援もあって江戸時代末期には100戸以上の窯元があったのだとか。明治時代に入り藩の後ろ楯がなくなると窯元が激減し、その後も第一世界大戦後の世界的な不況や第二次世界大戦中の徴兵など、大堀相馬焼は数々の存続の危機に襲われます。戦後、復員者や引揚者が戻ってくると存続の危機を乗り越え、1978年には国の伝統工芸品に指定。毎年開催される「大せとまつり」には数万人が訪れるほど人気を博します。
浪江町がある双葉郡から相馬市などを含む地域を「相双」と呼ぶのですが、このエリアの家庭に訪れると必ずと言って良いほど、大堀相馬焼があります。富岡町にあった私の家にも、神棚に飾る榊立てや湯呑み、梅干しなどを入れられる小ぶりの蓋付き壺などなど、大堀相馬焼を日常で使っていました。
地域にとけ込んでいた大堀相馬焼でしたが、更なる危機が訪れます。2011年3月11日、東日本大震災とその後の原発事故により、20軒以上あった窯元は避難を余儀なくされてしまうのです。
2020年8月、浪江町の復興のシンボルとして「道の駅なみえ」が誕生。浪江町の地元グルメを味わえるレストランや、野菜・加工食品などの直売所と並び、2021年3月には浪江の地場産品を見て・ふれて・体験できる施設「なみえの技・なりわい館」が開設されました。大堀相馬焼が地場産品の一つとして紹介されてしており、県内の各地で作陶を続けている窯元の作品に地元で出合える貴重な場となっています。
なみえの技・なりわい館の大堀相馬焼コーナー。白木を基調とした明るい館内
大堀相馬焼の特徴は3つあります。
1つ目は「走り駒」。後ろ脚を蹴り上げた躍動的な馬の姿が描かれているのですが、モチーフは相馬藩の御神馬なのだそう。
2つ目は青釉薬の器にひび割れのような模様が入った「青ひび」。素材と釉薬の収縮度が違うことから、焼成後の冷却時に釉薬がヒビのような状態で固まる現象「貫入」によって生まれる模様で、貫入を際立たせるために墨汁がすり込まれています。以前、大堀相馬焼の窯元に訪れた際、窯を開く作業に立ち合あったのですが、その際、ピンッピンッと何ともいえないいい音がしていました。このヒビが入る時に鳴る繊細な貫入音は、「うつくしまの音30景」にも選ばれています。
3つ目は「二重焼き」で、特に湯飲みに使用されている大堀相馬焼独特の技法です。器の中にもう一つ器を重ねる二重構造にすることで、中に入れるものを冷めにくくし、さらに器を手にした時に熱くないという利点があります。
製作過程の説明もある。土曜日には陶芸体験も可能(要事前予約)
昔ながらの伝統的な大堀相馬焼と並んで、窯元によっては作り手の創意工夫を凝らした器もあります。お気に入りの器を見つけて、毎日の食卓に彩りを添えてみてはいかがでしょう。
なりわい館で紹介されるもう一つの地場産品は地酒「磐城壽」