東北の温泉宿に行くと、ほぼほぼ必ずこけしが飾られています。先日訪れた山形県肘折温泉の宿は最たるもので、700本ものこけしがずらりと並んでいました。コレクション主は、今年90歳を迎えたお宿のご隠居。引退する前は、全国を飛び回っていたそうで、出張先でこけしの工房があれば、必ず立ち寄って工人さんからこけしを買い求めていたそう。第3次こけしブームが続くなか、WEBなどでも気軽にこけしを購入できるようになりましたが、私もやはり現地で買う派。こけしは1本1本手作りなので(本当に微妙にですが)それぞれ表情が異なり、さらにその顔は作っている工人さんにどことなく似ています。どんな方が作っているのか知りたい、たくさん並ぶ中、自分の目で見て連れて帰る「娘」を選びたい!と強く思うわけです。
写真提供:白石市・蔵王町
白石の市街地から車で15分ほどの山あいに、東北に12系統あるこけしの産地のひとつ、弥治郎系のこけしの里があります。この集落の起源は江戸時代初期、山形県から移住してきた弥治郎という人物が、山林を開墾したのがはじまりといわれています。江戸時代半ばには春から秋にかけて農業を行い、冬には木地を生産して暮らしていたそう。すぐ近くにある伊達家の殿様も利用した鎌先温泉が木地の主な売り先で、幕末には温泉客の土産物としてこけしが作られていました。
弥治郎こけしは、頭のてっぺんにまるでベレー帽のように見えるろくろ線を描くのが特徴。顔の両脇にはベレー帽から垂れ下がっているように黒々とした「びん」と髪飾りの「手絡」が描かれます。
弥治郎集落には、「弥治郎こけし村」があり、弥治郎こけしの歴史などを知ることができる資料館、ショップ・食事処があります。敷地内にこけし工人の工房が点在し、週末を中心に作業風景を見学することができます。
(写真左上)弥治郎こけし村の入り口ポストにもこけしの絵が!
(写真右上)トイレの入り口もこけしのシルエットでお知らせ。
(写真下)お子様コーナーに置かれたこけしのはめ絵。館内はどこまでもこけし尽くしです。
こけし村内に立つ小野宮惟喬親王神社。平安時代、文徳天皇の皇子として生まれた小野宮惟喬親王がろくろを考案したと伝わることから、木地業の神様として祀られています。社殿はこけしで飾られ、もちろん絵馬もこけしの形!
訪れた日は、「工房きぼこ」の新山吉紀工人・真由美工人ご夫妻がいらっしゃいました。吉紀さんは旅行好きとのことで、こけしのことより全国の温泉巡りのお話でついつい盛り上がってしまいました。
工房内の棚にずらり並ぶ作品たち
お二人の作るこけしは、並べてみるとそれぞれの個性が光ります。吉紀さんのこけしは力強さを感じるしっかりとしたロクロ線で、表情もくっきりしている印象。一方、真由美さんのこけしは、たおやかな線でやさしげな表情。どちらもとっても魅力的です。
写真上が新山吉紀工人・下が真由美工人の作品
残念ながらこの日は不在でしたが、工房はほかに、新山実工人の「工房こげす」、新山民夫工人の「工房ぺっけ」があります。芝生の広場を囲むように点々と並んでいるので、ドアが開いていたら、ぜひご挨拶を。
帰り際、駐車場から振り返れば蔵王連邦の山容が。ここまで来たらせっかくですから、蔵王のこけしにも会いにいこうかな。遠刈田温泉へちょっと足を延ばすことにしました。