星野リゾート代表 星野佳路(よしはる)さん 63歳
1960年長野県生まれ。1983年慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院にて修士課程を修了。1991年星野リゾートの代表取締役社長に就任。
星野佳路さんを丸裸にする 第2段も10問の〇✕質問に答えていただきました!
その様子は→旅恋公式チャンネルで
①自分はおしゃべりだと思う 〇
これを×とすると、皆さんがどう思うか(笑)。たぶんスタッフみんなが〇だと思っているでしょう。経営者として、私はコミュニケーション能力が得意だと思っています。話すことは大切なので、おしゃべりなのでしょう。毎年、世界中から一流の起業家たちが集う祭典「EY ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」があり、2023年のアントレプレナー(起業家)の日本代表としてモナコに行ってきました。日本代表として送り出してくれた皆さんに対して、全力で臨みました。グループディスカッションやジャッジとのコミュニケーションなど、かなりいい線までいったと思ったのですが、台湾の女性に負けてしまいました。刺激的な体験でしたね。
②テレビよりYouTubeをよく見る ×
YouTubeはあまり見ないですね。テレビはスポーツ番組をよく見ます。とくにラグビーのワールドカップは、ニュージーランドに多くの友人がいますので、応援していました。テレビやインターネットなどで積極的に情報収集をする方ではありません。ビジネスで得たい情報があれば、きちんと調査します。インターネットなどの断片的な情報だけですとミスリードされてしまいますので、判断を誤る可能性があります。あと、情報収集といえば、私に必要なのは雪の情報です。新雪の様子や雪質などはアプリを駆使して調べます。それ以外は情報収集を能動的には行っていないですね。
③ご飯よりパンが好きだ ×
ご飯、おいしいなと思います。両方食べますが、どちらかが極端に好きということはないです。まんべんなく食べますね。朝ごはんはヨーグルトです。
④ひとり旅より家族や友人との旅行が好きだ 〇
この10年ほど、スキー以外の旅はしたことがないので、圧倒的にスキー仲間との旅ばかりです。スキーでひとり旅は危険ですので、考えたことはないですね。ただ、ひとり旅ニーズはもちろん高いと思いますので、「界」では2023年12月1日~2024年2月29日の期間、冬限定「はじめての温泉ひとり旅」を打ち出しました。
⑤日本は安い、旨いの国ではいけない ×
安いというのは価値に対して安いか高いかということですから、絶対的なことではないのです。美味しいことは大切ですし、価値に対してコスパがいいことは重要です。日本は安くておいしい、価値に対して安い。もちろんそれだけではよくないですが、高くてまずいは困ります。星野リゾートの施設は富裕層向けと思われる方もいるかもしれませんが、決してそのようなことを想定したことは一度もありません。
「BEB」は若年層向けですし、「リゾナーレ」も「青森屋」も、「星のや」でさえも富裕層のお客様だけをターゲットにしていません。じつは富裕層ターゲットというのは危うさがあると思っています。富裕層は買えないものはない方々ですから、選択肢がたくさんありすぎて、競争の優位性を高めるのは難しいと思っています。
⑥私にはオーバー・ツーリズムへの秘策がある 〇
オーバー・ツーリズムというのは日帰り観光地で起きます。宿泊の場合、宿泊客・部屋数が限定されていますから、それ以上は増えません。世界的な流れとして、日帰りで楽しむ施設は事前予約、事前決済になってきています。今夏のニュージーランドのスキー場は完全にそうで、前日までに事前予約と決済でした。事前に人数を制限して、オーバー・ツーリズムを防いでいました。当日、予約なしでは遊べないですし、事業者側もコントロールができます。美術館や博物館でも同様のシステムが増えています。例えば京都の寺院もそのようにしたらいいですね。よってIT後進国は、観光立国にはなれないと考えています。スマホやDXの活用、ITを進めなければ観光立国にはなりえません。
⑦休日分散化が進まない理由は明白だ 〇
私は2004年から休日の分散化・需要の平準化を唱え続けています。たとえば5月の1週目はA地区、2週目はB地区というように、代わる代わる休みを取ることで大型連休を地域別に取得し、休日を分散化し、観光需要を平準化するという提案です。しかしなかなか議論が進まないのは、多くの観光事業者の反対があり、政治的決断が進まないからです。
ただ今年初めて、私が唱えてきた形とは全く違う形で、一部、実現しそうなのです。それが愛知県が取り組む休み方改革プロジェクトの「あいちウィーク」です。これは県民の日の11月27日(月)の直前1週間(11月21日~27日)を「あいちウィーク」として、家族と一緒に過ごしやすい環境にするため、期間中の1日を「県民の日学校ホリデー」として公立小中学校が休みになりました。例えば名古屋市は11月24日(金)で、11月23日の祝日から26日の日曜日まで連休になりました。企業や団体にも働きかけ、休み方改革を進めていくことで、愛知県民は安い価格で平日に休みが取れるようになります。
これを大村愛知県知事は周辺の県とも連携しようとしています。つまり静岡ウィーク、長野ウィークと広がり、この政策の成果が確認され47都道府県が賛同すると、自ずと休日分散化になる。地方からこのような休み方改革が始まるということはとても良いことだと思います。10年後、20年後を振り返った時に、日本人の休み方の大変革になるかもしれません。
ライドシェアも突破口ができましたが、これについてはちょっと不満があります。東京でタクシーの運転手さんが少なくなり、急に盛り上がりました。地方ではもともとタクシーが少ないにもかかわらず、です。本来は地方に対して、まずは緩和が始まるべきですが、今回は東京で不足し始めたことで急に変革の動きになりました。
もちろん、地方からも声を上げるべきでした。地方から問題提起がなされないと、様々な取り組みが東京発で始まります。ですが、それができていません。何事も変革をするということは、反対がつきもので敵をつくります。それを地方の政治のリーダーたちがやりたがらないことなのかもしれません。大きな変革には反対も伴います。しかしそれを覚悟して声を上げることが重要なのです。
⑧考えすぎて眠れなくなることがある ✕
眠れないことはないですね。雪が降って、早く滑りたくて気持ちが急いて眠れなくなることはありますが(笑) 私は一日7時間の睡眠をとるようにしています。自分にとって最適な睡眠時間を知ることも大切ですね。ただ最近は時差の調整が昔より大変になってきました。それだけは気をつけるようにしています。
⑨そろそろ引退の時期を考えるようになった 〇
私は50歳のときから引退のことを考えています。私の家系はみな80代まで生きていまして、50歳のときに残り30年、人生最後の日は後悔をしないようにしたい……それは仕事ではなくスキーですが(笑)。年間50日滑走から今は70日滑走へと目標を高くしました。ガンガン滑ることができるのは50~60代頃までですから。仕事に関してはいろいろとスタッフに任せたり、今後のことを考える時間に当てたりしています。70歳までにはすべてのことから解放されるように引退への準備をしています。
スキーの仲間内では年間100日を超えないと一人前ではないと言われています。早くそちら側に行かないと、新しい後悔が生まれる(笑)。今年はこのままいくと80日滑走、早く100日滑走設定にしたいです。どのようなことでも数値目標があることは素晴らしいと思っています。滑ることで自身の老化現象に気づきやすくなりますので、オフシーズンは筋トレや食事制限などをしています。駅で新幹線を待ってるときもひとりでストレッチしていますよ。
⑩〇×質問は嫌いだ ✕
嫌いではないですよ。楽しいです。今度はスキーの質問をひとつくらい入れてください。
関屋メモ
公私の話をと思うと、“私”はすべてスキーにつながる。星野さんの頭の中は真っ白に輝くゲレンデでいっぱいのよう。今回は、「IT後進国は観光立国になれない」という言葉が印象に残りました。では、IT弱者は観光ができなくなるのか?そんな疑問もぶつけたかったのですが、時間が足りませんでした。海外取材が増えて、海外から帰ってくると日本の安い・旨い・安全・キレイが身に沁みます。インバウンドが増えるのは当たり前です。2024年4月からベネチアの歴史的地区で入場制限・入場料徴収が始まります。日本でも様々な形で対策が講じられるようになるでしょう。
今回個人的に嬉しかったのは、星野さんがラグビーワールドカップを見ていらっしゃったこと。ニュージーランド・オールブラックス、わたしも大好きなチームです。今度はスキー以外で盛り上がれると嬉しいです(笑)。
取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)