山岳温泉に目覚めたら、おしゃべりになっていました!
VOL.25 三上周摩さん 1999年生まれ、25歳 界 奥飛騨
2024年9月に開業した「界 奥飛騨」。一面の雪景色に包まれる旅情あふれる滞在(→記事はこちら)を堪能し、効能豊かな湯に寛ぎました。宿で温泉愛を熱く語ってくれたのがスタッフの三上周摩さん。寡黙な男が変貌したとか?
―――2022年4⽉⼊社とうかがいました。
新卒採用で、「界 ⻤怒川」の勤務などを経て、2024年6月に「界 奥⾶騨」へ移動しました。「界 アンジン」のコンセプトや海の近くという環境も好きで、希望していましたが、「界 奥飛騨」の新規開業を機にチャレンジしてみようという形になりました。大学では経済学部で観光に携わっていたわけではなく、もともと接客に興味があったわけではないのですが、人とのコミュニケーションの技術を上げたいということと、マルチタスクという働き方に興味があり、入社しました。
人事の方の話にとても興味があり、この人と一緒に働きたいと思いました。入社したときは、コミュニケーションというかおしゃべりも苦手なほうで、ずっと黙っていましたが、今では施設の中でも”おしゃべり”の分野に属しています。実家に帰るとあまりにもよくしゃべるので、家族に驚かれるほど、変わりました。
―――新規開業に当たり、意気込みはありましたか?
入社時もそうですが、自分がやったことがないことにチャレンジすることにわくわくしていました。ここでは「現代湯治」の担当になったのですが、じつは温泉の「お」の字もわからないほど、何も知らなかったんです。そこで、温泉とは、現代湯治とは、という基本から勉強し直しました。知らないことを探求していくことが好きで、今では温泉のことは何でも聞いてください!というところまできました。
「温泉いろは」も何もないところから構築しました。なにせ当初は奥飛騨温泉郷ってどこ?という程度だったので、配属が決まってからはこの辺りがどういう場所なのかを探索して、足湯や日帰り温泉、平湯大滝や自然散策路などをじっくり見て回りました。
―――奥飛騨温泉郷の魅力はなんでしょうか。
いたるところから湯けむりが上がり、温泉の力を感じるところです。中部山岳国立公園に位置しますので、自然が豊かなのはもちろんなのですが、整えられていない自然というか、より自然の力強さを感じます。東京出身で、それほど自然に親しんだということがなかったのですが、ここではちょっと移動するだけでアウトドア全開です。自分自身アクティブになったなと思います。
現代湯治も施設のコンセプトも山岳温泉に目覚めるということなのですが、そもそも山岳温泉という言葉に定義がなく、山岳温泉の定義づけから始めました。私がここに来てから見て、感じて、歩いて、山々に囲まれる素晴らしい温泉に目覚めたという一連の流れが、まさに山岳温泉に目覚めたということではないかと、同僚スタッフに指摘されました。なるほど、その通りだ!と思ったのですが、この想いを1泊2日の滞在の中でお客様にどう伝え、どのように山岳温泉に目覚めていただくかという、落とし込む作業が難しかったです。
―――「温泉いろは」は20分ほどでしたね。
冬は湯上がり処で開催しますが、夏は中庭で足湯に入りながらの開催となります。足湯もあまり長時間は無理なので、「温泉いろは」も10分ほどと短くなります。ですのでとにかく情報を精査し、削って削って、それでもわかりやすくお伝えできるようにまとめました。平湯温泉には源泉が40以上あり、施設の源泉は薬師の湯、おばこ原の湯、富貴の湯の3本をミックスしています。大浴場の「あつ湯」は3本の源泉がすべて入っています。当初は施設の温泉の機械も全く分からなかったのですが、今はその仕組みも理解できるようになりました。
源泉の温度は70℃ほどと高いのですが、温泉の配管の近くに水の配管を置くことで適温になるようにしています。「温泉いろは」の開催の時に、温泉に詳しい方からいろいろ聞かれる際には、深くお伝えできるようにしています。できる限り分かりやすく、それでいて薄っぺらい説明にならないように、温泉初心者の方にも温泉通の方にも、新しい発見があるようにと務めています。
朝の「現代湯治体操」や、チェックインの時の温泉のワンフレーズの説明など、温泉をより知ってもらうための工夫を考えています。例えば上高地を散策されたお客様には足湯で疲れが取れますよという説明をして、足湯を促したり。温泉に興味を持ってもらえるようにしたいと、スタッフにもその想いを伝えています。
―――平湯温泉のおすすめの場所を教えてください。
私自身が最初に行った日帰り温泉の「平湯の湯」がおすすめです。「界 奥飛騨」から歩いて5分ほどの平湯民俗館に併設されています。静かでゆっくりのんびり入ることができますし、地元の方とも触れ合えます。これからの季節は新緑に包まれて清々しい入浴ができます。これからも温泉の魅力を最大限に伝えていきたいと思っています。
関屋メモ
当初は支配人になりたいと思っていた三上さん、仕事をするうちにトップを支える右腕になりたいと思うようになったと言います。研究熱心で知らないことを調べて自分のものにすることに喜びを感じるタイプのよう。東京出身で自然に触れてこなかった分、今は奥飛騨という一見過酷な自然環境も苦ではなく楽しんでいるそうで、除雪機の免許も取り、この雪国でなければできない経験を積んでいます。何にでも前向きでいる好青年です。また料理を作るのが好きということで、こちらも探求の鬼と化し、一日中、坦々と料理を作るそう。体得するまで同じ料理を繰り返し作って練習するらしく、得意料理は出汁巻き玉子だそうです。無心で野菜を切っているときが好きという、料理そのものにのめり込んでいる姿をちょっと想像してみました。え、修験者⁈ 現在、彼の料理を食べてきちんと意見を言える彼女を募集中だそうです(笑)
三上さん渾身の出汁巻き玉子(本人提供)
取材・文/関屋淳子 写真/yOU(河崎夕子)
↓三上さんお気に入りの温泉・平湯の湯(おまけ)