VOL.17 星のや軽井沢 関口健一さん

足元の草花から伝える星のや軽井沢の魅力

VOL.17 関口健一さん 1976年生まれ、47歳 (星のや軽井沢 庭師)

 

星のや軽井沢で、庭師と呼ばれる関口健一さん。この施設を彩る草花の手入れをしています。私もご一緒に庭を散策し、いろいろ教えていただきました→こちら 

美しき庭の魅力を語ってもらいました。

―――入社のきっかけを教えてください。

 私は大学で林学の勉強をしていました。卒業後、長野県内の林業関係の会社に入り、その後、造園と林業の仕事をしたいと思い独立しました。ちょうどその頃、星野リゾートからお声がけをいただき、2004年から、星のや軽井沢のオープンにあたりデザイナーさんが設計したこの施設の庭を、管理・統括する仕事を任されました。今年で18年になります。

施設ができた当初は、建物と植生の間にきっちり線が引かれていたという感じでしたが、建物に苔が生えるようになり、建物と植生がなじんできて、いい具合にあいまいになってきました。

 

―――18年の間に仕事の仕方も変わってきましたか。

最初は、この広さの庭をどうやって維持・管理していこうかというが念頭にあり、12年はそのことばかり考えていました。この場所にはこの植物を植えたほうがいいのではないか、というように、庭をもっとよくしようという意識になりました。デザイナーさんと相談しながら試行錯誤をしていたのですが、67年ほど前のことです、あるとき、庭を眺めたときに自分の意図が透けて見えるようになってしまったのです。つまり、この庭の形は自分が作り上げたもので、自然な形ではないと。庭に魅力を感じることができず、楽しめなくなってしまったのです。

星のや軽井沢の庭は、作為のある嘘くさいものではだめだと思い、自然に生えてくる植物を大切に育てようと思うようになりました。水辺に生えてくる植物は、その場所が気に入って生きている。であえば、それを見つけて、育てて、見守っていこうと思うようになりました。それからは自分から能動的なことはせずに、自然の魅力を引き出すことに専念しています。

ですから私の最初の仕事は観察です。たとえば、なにか植物が生えてきたときに、葉だけでは何の植物かわかりません。まず花を咲かせてみて、どのような植物か確認し、ここで魅力的に見えるようにします。星のや軽井沢では、植物は在来種であるというルールがあるので、外来種の場合は、取り除きます。

 

―――一日の仕事の流れを教えてください。

まず朝、敷地を一周することから始まります。そのときに庭の状況を確認します。夏であれば草刈りなどをしなければいけませんから、今日はこのエリアから始めようと段取りを付けます。春の芽吹きとともに仕事が始まり、夏の草刈り、秋は枯れ葉拾い、雪が積もる冬はやっとシーズンオフです。秋は、落ち葉の掃除は大変なのですが、そろそろ一年の仕事が終わると、気が軽くなります(笑)。星野リゾートのどの施設とも異なり、ここは自然の中にホテルや温泉、レストランなどの施設が点在していますので、私のような仕事をする人間が必要なのだと思います。

 

―――やりがいを感じるときはどのような時ですか。

星のや軽井沢に初めていらっしゃるお客様は、水辺を囲み客室が集落のように点在する、この施設のランドスケープに驚かれます。滞在のなかで、やがて足元の植物に気づいていただけるようになると、とても嬉しいですね。草花の写真を撮ってらっしゃる姿を見ると、やった!と思います。リピーターの方で、花の咲いている時期を目指してきてくださるということもあり、励みになります。

軽井沢は春・夏・秋が凝縮されていますので、季節の花が同居しているのも面白いですよ。またムササビが食べた葉が落ちているということもあり、足もとを見ながら散策していただくと楽しいと思います。庭もまだ完成形ではないので、どんどんこれからも進化していくと思います。ぜひ、足元からこの施設の魅力を発見してみてください。

 

―――オープンからのスタッフということで、頼りにされるのでは。

そうですね、軽井沢にずっといるのは私くらいではないでしょうか。庭のことはわかっていますので、いろいろと若いスタッフから相談されることもあります。私が20代で林業の仕事をしていたときに、60歳くらいの方に全くかなわなかったです、歩く速さも、仕事の量も。危険と隣り合わせの山林のなかで駆けずり回っていたわけですが、そのときにその方に「お前は体力で仕事をしている、おれは技術で仕事をしている」といわれました。まったくその通りなのですが、今思えば、若いうちは体力で仕事をして自分の限界を知ることも大切なことだと。そのうち自分なりに知恵を使い技術を使い仕事ができるようになると思います。私自身、あの頃、体力だけでがむしゃらに仕事をしながら、いろいろなことを吸収できたから、今があると思っています。

 

関屋メモ

「男の顔は履歴書だ」という言葉がありますが、男女問わず、齢を重ねると顔にその人の歴史が見える?ものです。関口さんもまさに、いい顔をしていらっしゃる。高校生の時に「砂漠の緑化を成し遂げる」という壮大な夢を持って林学の道へ。腰まで埋まる雪山で仕事をしたり、熊に遭遇したりと、なかなか味わえない経験を重ね、今は草花を愛おしく育てています。オフの日は超インドア派だそうで、推理小説の世界に浸っているとか。1日数万歩も歩けば、それは家に籠っていたくもなるものです。一般の接客業とはちょっと異なる、植物と相対する仕事。そんな仕事があるのも星野リゾートらしい。創業の地・軽井沢で働くピュアな佇まいの方です。

  

取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)

 

 

 

 

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