実践することで伝える、グランピングマスター
VOL.14 青木輝(ひかる)さん 1995年生まれ、28歳 (星のや富士 サービスチーム)
開業から8年、グランピングという言葉を世に広めた「星のや富士」。冬の楽しみはこちらの記事をどうぞ。
グランピングマスターとして活躍する青木輝さんに、狩猟やキャンプの魅力を大いに語っていただきました。
―――地元、富士河口湖ご出身とうかがいました。
2018年に入社し、リゾナーレ熱海で勤務ののち、この施設のアクティビティの責任者などを担当しました。地元出身で、子どもの頃から父親と一緒にキャンプなどをしてアウトドアに親しんでいましたが、その本当の楽しさを感じるようになったのは大人になってからです。さらに、世界に誇るワインやジビエの美味しさも、地元にいても体験する機会がありませんでしたから、地元山梨が持つ観光のポテンシャルの高さを全く知らなかったのです。
星のや富士で仕事をするうちに、地元の魅力に目覚めていきました。仕事の延長線上で、自分のキャンプ用品を揃えたり、焚き火の、火の起こし方を工夫したりと、どんどんアウトドアの沼にはまっていきました。
キャンプの魅力は何もないところから自分でデザインし、自分の好きなようにスタイリングできることです。森の中、川の近く、高原など、どのようなフィールドでどのようにテントを張るか、食材は何にするかなど、妄想が広がり、いつも考えています。
ひとりでキャンプをするのが好きですし、仲間ともできる。火をぼーと見て、自分の好きなつまみとお酒を楽しんで何にも邪魔されないひとときが持てることも魅力です。キャンプ場で他人のキャンプを見学するのも好きですね。十人十色、小さな住宅展示場のようです。
---入社のきっかけを教えてください。
2013年の富士山の世界遺産登録で、富士山が日本人だけでなく世界中に知れ渡り、海外からの観光客が増えたこと。これは地元民が肌で感じたことです。また私の祖父が富士山五合目で観光業をしていたこともあり、お客様をもてなすということに興味を持っていたことも入社のきっかけになりました。私の好きな河口湖周辺をもっと多くの方に知ってもらいたいと思っています。そのためには、自分で何でもやってみることが大切だと思い、狩猟免許を取りました。
―――え、狩猟免許ですか。
やるからにはとことん突き詰めて、ゲストの方にお伝えできればと。山梨県は狩猟が盛んな地域で、ジビエの美味しさをお伝えするために、猟友会に所属し、3年前に狩猟免許を取り、2年前から狩猟を始めました。罠を出社前に見て回り、鹿がかかっていたらすぐに解体し、肉を保存します。また、鹿の革をなめしたりしています。
ジビエは森林問題に大きく関わっていて、鹿が増えすぎると、旺盛な食欲で山や畑が荒らされてしまう。すると森が弱くなってしまい林業の衰退に拍車がかかってしまうのです。未来の山梨を考えたときに、自分がそこに少しでも関わって、環境を守るために地域で発信していきたいと思っています。獣と向き合っていることの背景を理解していただきたいですし、人間が山を切り開いてしまい鹿の生息環境を壊してしまったということもお伝えしたいと思っています。それにしても、まさかここまではまるとは、自分でも思ってみませんでした。学生時代の友人には今の自分の姿にびっくりされますね。
青木さんがなめした鹿革と、狩猟の際のジャケットとキャップ
―――星のや富士での仕事は天職のようですね。
そうですね。施設のスタッフの中には私のようにキャンプが好きという者ばかりではありません。そこでスタッフ向けに「シッテルケ手帳」というのを作っています。シッテルケは山梨の方言で、知っていますか?という意味です。グランピングの様々な知識をスタッフに伝え、この施設の魅力を語れるスタッフ作りにも積極的に関わっています。
またお客様には狩猟を通して、命の尊さや食べ尽すことで命のありがたみをお伝えできればと。秋には狩猟体験ツアーも行なっています。また、料理だけではなく鹿革を使ったアクティビティも今後できるといいなと、思案中です。青木=山梨のアウトドア達人という認知度を上げたいですね。
関屋メモ
自宅では猪のベーコン作りなどもしているという青木さん。私生活もアウトドアまみれです。学生時代は消防士を目指していたそうですが、今は火を消す方ではなく、火を育てて炎を作る方に徹しています。星野リゾートのスタッフは楽しんで仕事をする方が多いのですが、ここまで徹底して個性を発揮している方も稀なのでは。薪の種類や火の色、燃え方など、焚き火だけで何時間でも話ができるというのですから、キャンプ好きの方はぜひ、青木さんと朝まで語り合ってみてください。冬のキャンプが好きだという青木さんのおかげで、私もその魅力の一端を知ることができました。年齢を重ねるごとにいい男になりそうな予感がします笑。
取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)