星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」の15施設目となる「星野リゾート 界 仙石原」が2018年7月27日にグランドオープンしました。箱根・仙石原の自然に抱かれた全室露天風呂付の温泉旅館を、関屋と塩見がご紹介します。
界 仙石原で創作された新作アート
星野リゾート 界 仙石原のコンセプトは、「アトリエ温泉旅館」。宿がある仙石原は、ポーラ美術館や箱根ラリック美術館など多くのミュージアムが集まるエリア。この特徴を生かし、アートを鑑賞するだけでなく、アートを体験することで滞在客自らがアートを感じて表現する宿となることを目指しています。
本館ロビーのアトリエライブラリー
実は開業前、「アーティスト イン レジデンス 箱根仙石原」と称し、日本、スペイン、中国、スロベニアなど国内外のアーティスト12名が「星野リゾート 界 仙石原」に実際に宿泊し新作アートを制作しました。箱根の自然や文化を感じられる観光地を巡り、滞在した客室に作品を飾ることを念頭に置き、箱根で受けたインスピレーションを元に創作活動が行われました。かつて数多くのアーティストたちが自分の感性に向き合う場所であった仙石原ならではの考えです。
左:久住有生氏の土壁 右上:アトリエライブラリーの作品
日本を代表する左官職人のひとりである久住有生(くすみなおき)氏による仙石原の自然を表現した土壁は、エントランスを入ってすぐの場所にさりげなく飾られています。エスカレーターを上がった本館ロビーも美しい空間となっています。まず目に入るのは、杉の原木の下に苔むした溶岩が置かれた、中村康宏氏による大きな作品。火山を擁する箱根という土地をあらわしています。アートや建築に関わる本が多数並べられたアトリエ仕立ての「アトリエライブラリー」のあざやかな色彩にも驚かされます。約2,000本もの色鉛筆、日本画の顔料、さまざまな種類の筆が一面に展示されています。キャンパスの背表紙や側面に描いた絵をずらりと並べることで仙石原の自然を描いたひとつの絵が完成する作品など、さまざまな材料や手法によってアートを表現した空間となっています。
ここには、アーティストたちが実際に使った筆も置かれているそうです。うれしいのは、これらの色鉛筆は滞在中、自由に使えるということ。用意されたスケッチブックに思い思いに絵を描いたり、旅先から絵手紙を書くのもいいかもしれませんね。
時間を忘れて夢中になるアートなご当地楽
界ブランドのお楽しみ「ご当地楽(ごとうちがく)」ももちろんアートがテーマ。毎日アトリエライブラリーで開催されるのは「彩り手ぬぐい」(チェックイン時に要予約/参加費不要)です。型染作家の小倉充子(おぐらみつこ)氏による線画が下絵に書かれたオリジナルの手ぬぐいに絵付けや色付けをするという体験ができます。手ぬぐいには宿場町や花鳥画、箱根グルメなどが書かれた下絵付きデザインのほか、下絵のない手ぬぐいなど6種類が用意されています。好みのデザインを選び、布クレヨンやカラフルなサインペンで好きな色やデザインを描き、自分だけのオリジナル手ぬぐいを作り上げていきます。
下絵に絵付け
これがとっても楽しいのです! 関屋も私も夢中。箱根グルメ手ぬぐいを選んだ私は、本物の食べ物の色通りに塗るか、それとも現代アートのように斬新な色遣いをするか、グラデーションはどうする?など迷ったり。試行錯誤しながらも、2人とも取材を忘れてほぼ無言で約40分の制作時間を少しオーバーして完成させました。何時間でも没頭してしまいそうなほどの楽しさでした。
下絵の完成度が高いので、アート素人でも好きな色をつけていけば、それなりに見栄えのよいお気に入りの手ぬぐいが完成するのもとてもうれしいです。もちろん持ち帰りできます。上から布をあててアイロンをかけて色を定着させれば、通常の手ぬぐいのように使えるとのこと。ぜひチャレンジしてみてくださいね!
夢中になって塗っていき、完成!
アーティスト自らが講師となるワークショップ
また、毎週日曜の午前中には、アーティストによる特別なワークショップも開催されます。会場は、ワークショップ限定で使用できる別館のサロン。今回私たちが参加したのはデッサンの教室でした。この日の講師の方は「アーティスト イン レジデンス 箱根仙石原」の中心メンバーであるアーティストの朝比奈賢(あさひなけん)さんと、朝比奈さんと『大磯アートハウス』というアトリエハウス兼ワークショップを開催されている菜穂子さん。実は関屋も私も絵を書くのは学生以来というほどの素人。クラスが始まる前まではデッサンを描けるかと心配でしたが、朝比奈さんのやさしく丁寧な口調と、「手ざわり」というこの日のデッサンテーマに一気に引き込まれていきました。
楽しかったデッサンのワークショップ。額に入れると、それなりの作品に見える!?
デッサンは、発泡スチロールで作った朝比奈さんの作品、箱根の火山石や仏像を、目をつぶって手ざわりだけで画用紙に書いていきます。目を閉じたままなので自分がどの部分を描いているのか、どこを触っているのかさえ、まったくわかりません。ですが、目で見ようとしない分、五感が研ぎ澄まされます。目を閉じたまま描いたり、利き手の反対で描いたりと何度か鉛筆画を描いていくと、今までなんとなく思い込んでいた堅苦しい“デッサン”というイメージがすっーと消えていきます。お互いに感想を言い合ったりするのも、新たな発見がありました。
ワークショップは、デッサンの他にも、盆栽、写真、書道、リースなど週替わりとなっています。事前に予約してこちらも参加してみてくださいね(有料)。今まではアートは“見るもの”という意識が大半でしたが、これらのアート体験を通して、新たなアートの楽しみを発見できました。
箱根の山々を見渡す露天風呂付き客室
客室も広々とした心地よい空間です。本館には全室露天風呂付きの客室が13室、今年11月に完成予定の木立に囲まれた別館に3室あります。
本館の客室に入った途端に目に飛び込んでくるのは山々が連なる仙石原の大自然。すべての客室は、大きな窓から山々を見渡せる、琉球畳にソファを配した和洋室となっています。そして13室のゲストルームはすべてご当地部屋「仙石原アトリエの間」として、それぞれのアーティストたちによる作品が飾られており、一室ずつ異なる個性ある空間となっています。どのアート部屋になるかは、宿泊当日のお楽しみ。
居心地のいい客室
客室からの景色は大変素晴らしく、日がな一日自然を見ているだけでも満足できます。テラスに配された露天風呂から空や雲の景色が刻一刻と変わっていく様子を眺めるのも楽しいですよ。ガラスのシェードやルームキーもアーティストによる作品なので、チェックしてみてくださいね。
大きなテラスと客室の露天風呂
また、界 仙石原では、国家資格者によるマッサージを客室で受けられます。温泉につかって身体をあたためてからマッサージを受ければ、筋肉がほぐれリラックス効果も高まります。施術後には普段の生活で気を付けておきたいことなどを簡単に教えてくれます。施術を受けた後、そのまま客室で就寝につけるというのも、とても贅沢です。
客室内のさまざまな作品がステキ 右下:客室でマッサージ
手足を広げてゆったりつかれる大浴場
客室の露天風呂以外にも、本館にも露天風呂付き大浴場があります。客室の露天風呂と同じく、大浴場の「あつ湯」に引かれているのは大涌谷からの硫酸塩・塩化物温泉。pH2.0の酸性の湯なので、肌はなめらかになり、身体がしっかりとあたたまります。露天風呂の外側には、昼間に太陽光をたくわえた蓄光石が、夜になると星空のように輝くという水庭があります。琉球畳が敷かれたゆったりとした広さの湯上がり処も用意されています。
夜の大浴場
アートな演出が楽しい滋味豊かな夕食
アートの楽しみは食事にも続きます。美しい器、素敵な演出と、アトリエ温泉旅館らしい、目にも舌にもおいしい会席料理を半個室の食事処でいただきます。この日のお料理をいくつかご紹介。
<先付け:サーモンの瞬間燻製 旬のフルーツと小野菜>
サーモンと相性のいいフルーツや野菜などが入ったガラスの器を開けると、大涌谷の噴煙のように煙が立ち上り、燻製のいい香りが漂います。
<宝楽盛り:八寸、お造り、酢の物>
八寸は、鶏と干し葡萄の松風、雲丹と白玉のみたらし、鮭の幽庵焼きなどが、大胆に盛られています。形を自在に変えられるという、富山県高岡市の『能作』の錫の容器を使うなど器もとても凝っています。お造りは、絵筆箱に見立てた器で供されます。
<台のもの:山海石焼>
夕食のメインは山海石焼料理。海と山が近いという箱根の土地柄から発想を得たという一品。溶岩に見立てた石に、合鴨の山の幸、アワビや帆立などの海の幸を、2種類の石の上で焼いて味わいます。肉と魚介と石が異なるのは、焼き上げる温度の違いから。火をしっかり通したい肉は信楽焼の石で、さっと焼くだけでよい魚介は伊賀焼の石で焼き上げます。
器とともに、大胆で繊細な趣向を凝らした料理の数々は、星野リゾート 界 仙石原でのアートな夜を印象付けてくれました。自然薯ステーキや蒲鉾取り合わせなどが並ぶ翌朝の朝食もお楽しみに。
-- -- -- -- -- -- -- -- -- --
仙石原の大自然に抱かれた「星野リゾート 界 仙石原」は、スタッフやアーティストだけでなく、ゲスト自身もアートを表現するというまったく新しい温泉旅館でした。日々の忙しさをひと時忘れ、アートと温泉に癒される滞在を楽しんでみてはいかがでしょうか。
星野リゾート 界 仙石原
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原817-359
料金:1泊2食付き、2名1室利用時 1名37,000円~(税サ込み)
https://kai-ryokan.jp/sengokuhara/
取材・文:塩見有紀子