2015年、日本初のグランピングリゾートとして開業した「星のや富士」。当時、グランピング(グラマラス・キャンピング)は目新しく、それがいったいどのようなものなのかを体験できる唯一の施設でした。現在、雨後の筍のように日本各地にあるグランピング。果たして本来の、高級リゾートと同等の快適な滞在を自然の中で楽しむというコンセプトに沿っているのかどうか……という疑問はひとまず置いておいて、ふだんキャンプに親しんでいない私にとって、真冬のキャンプと聞いただけで拒絶反応を起こしそう。しかし、グランピングは違いました、冬が断然おすすめなのです。
夜のキャビンはちょっと近未来的
圧倒的非日常を提供する「星のや」の4施設目として誕生した「星のや富士」は河口湖を見下ろす約6haの広大な森の中にあります。レセプションに到着し、(自家用車の方は車をここに置く)、双眼鏡やヘッドライトなどのグランピングアイテムが入ったリュックを受け取り、ジープで敷地へ移動します。キャビン(客室)はモダンなコンクリート造り、内装も白を基調に実にシンプルです。そして窓の外には晴れた日には素晴らしい景色が望めます。
シンプルなキャビン
キャビンのテラスには炬燵があり、これがとてもいい演出をしてくれるのです。冷たい空気の中、ぬくぬくと炬燵に入ると、まるで露天風呂に入っているよう! 夜にはファイヤープレイスに炎が灯され、身体がほぐれてそのまま眠りそうに。こんな体験できないよなと、アウトドア炬燵を満喫できます。
そして朝食もぜひこちらで。出来立てが運ばれてくるモーニングボックス。運んでいただいたスタッフさん、ありがとう!
キャビンエリアから階段を上り、ああちょっと休みたいと思う位置にフロントとレストランがあり、そしてさらに上に木漏れ日デッキや焚き火ラウンジなどがあるクラウドテラスがあります。そう、施設は丘陵地にあるので、森の中を登ったり降りたりを繰り返します。日常を離れたちょっといい運動ですので、ハイヒールではなく歩きやすい靴でどうぞ。
ショップもあるフロント棟。ここでひと休み
アウトドアを満喫する手軽なアクティビティも用意されています。そのひとつが、薪割り体験。グランピングマスターの指導のもと、スクワットの要領で、斧を真っ直ぐおろして薪を割ります。綺麗に薪が割れる爽快感、初体験を楽しみました。
正しい薪割りのスタイル
施設のメインエリアであるクラウドテラスはウッドデッキが階層状に配されています。木漏れ日デッキにも炬燵が配され、ここでボードゲームなどが楽しめます。そしてなんといっても焚き火ラウンジ。炎を囲んで思い思いに寛ぎ、1/fゆらぎを感じます。隣接するライブラリーカフェにはドリンク類が用意。寒さを忘れていつまででも居られる心地よい場所です。
クラウドテラスはゲストが集い寛ぐ場
焚き火の炎の揺らめきを前に「冬の森 焚き火瞑想」も体験しました。ラベンダーなどのハーブを焚き、香りに包まれ、焚き火のはぜる音を聞きながら、深呼吸と瞑想を行ないます。凛とした空気の中、心と体が浄化されていくようです。
夕食は1日1組の「山麓の狩猟肉すき焼き」。焚き火を囲むプライベートな特別席で楽しみます。旬を迎えるジビエを洋風のすき焼きで。まずは鹿の骨と香味野菜を煮詰めて取ったコンソメから。奥行きのある滋味がゆっくりと体を駆け巡ります。前菜はシャルキュトリーの盛り合わせ。猪肉と鹿肉を使ったビアシンケン(ハムとソーセージの中間)や、シンケンアスピック(コンソメ寄せのハム)、鹿のパストラミなど。ジビエそれぞれの風味が味わえます。
コンソメとシャルキュトリー
そしてメインの鹿肉と猪肉のすき焼き。割り下は、ヤマソーヴィニヨンの赤ワインとドライフルーツのピューレなどを合わせたものです。焚き火でぐつぐつ火を通したら、卵と山芋の2種類のつけだれで。赤ワインの風味と際立つ肉の旨み、山芋に潜らせるとこれが絶品! 合わせるのはもちろん、ヤマソーヴィニヨンの赤、山梨市の「カンティーナヒロ」のパルテンツァです。合わないわけないのです。次に食事の猪肉のボロネーゼ、デザートと続きます。
グランピングならではのワイルドで上質な料理
スタッフの方が調理やサーブをしてくださり、私はただ座って食べて飲んでいるだけ(笑) 静かに暮れていく夜、焚き火の温もりを感じながら豪華なディナー。見上げれば満天の星が広がり、森の静寂が一層深まります。これが冬のグランピングの醍醐味か、と実感です。
一日一組の特別席
3月1日から始まる新しいアクティビティ「コーヒーディスカバリー」を一足先に体験。焚き火を使い、コーヒーの焙煎から抽出までを楽しみます。用いるコーヒー豆はエチオピアのシングルオリジンで、マスカットベーリーAのワイン樽で寝かせたもの。ウイスキー樽でのエイジングが主流なので、これは珍しい試み。さすがワイン王国・山梨県。生豆は確かに葡萄の香りがしました。
生豆を焙煎器に入れて、焚き火にかざし、シャカシャカ振ります。12~15分経過すると、音が軽やかになり緑色だった豆がオレンジ色に変わります。さらにパチパチという音が出てくると、水分がだいぶ少なくなった証。褐色のコーヒーの色と香ばしさが出てきたら、火からおろして冷まします。グランピングマスターのサポートを受けて、ハンドドリップで丁寧に抽出し、完成。ワイン樽の風味なのか、独特の味わいが口に広がります。苺のタルトや赤ワインのジュレ入りチョコレートなどのお菓子と合わせ、その相性の良さも実感。浅煎りや深煎りなど、焙煎を体験することでコーヒーの面白さや深さを知ることができます。
グランピングは豊かな自然環境の中にある優雅なリゾート。ゆえにどの季節もグラマラスに過ごせる滞在がマスト。寒さに躊躇せず寒さを存分に利用し、冬を五感で感じ自然と対話するグランピングの楽しみ。ちょっと高級なキャンプではない、本物のグランピングがここにはあります。
1泊10万1000円~(1室あたり、税・サービス料込み、食事別)
「山麓の狩猟肉すき焼き」 ~2023年2月28日 1名2万6620円(税・サービス料込)
取材・文/関屋淳子 撮影/yOU(河崎夕子)