「界 出雲」を満喫した翌日。車窓に広がる宍道湖のパノラマを眺め、一路、玉造温泉にある「界 玉造」へ向かいます。車でおよそ1時間、館内からも爽快な海景色を楽しめるオーシャンリゾートの「界 出雲」と好対照をなし、山あいに佇む「界 玉造」は、伝統の“ザ・温泉旅館”といった様相。全く異なる世界観が広がります。
旅恋でも2021年2月に「縁結びの地へご利益旅。」と題してご紹介しています。今回は、2022年11月16日にリニューアルオープンしたばかりの「界 玉造」をレポートします。
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前編「第60回縁結びの地へご利益旅。「星野リゾート 界玉造」で美肌の湯、伝統工芸、茶文化に出会う」
後編「縁結びの地へご利益旅。「星野リゾート 界玉造」で松葉がに、日本酒、アマテラスオオミカミに出会う」
生まれ変わった客室。“日本酒発祥の地、島根”ならではの設えも
今回のリニューアルで大きく変わったのが客室で、全室ご当地部屋「玉湯の間」として生まれ変わりました。島根にちなんだ意匠がお部屋を彩ります。
メインルームのベッドヘッドを飾る印象的なアートワークは、雲の切れ間から太陽の光がさす薄明光線、いわゆる“天使のはしご”をイメージしたもの。訪れた日は晴天に恵まれたのですが、出雲エリアの特に冬は曇りの日が多く、雨や雪が降りやすいため宍道湖上空でこの天使のはしごがよく見られるのだそう。かの神々しい風景が藍の濃淡で見事に表現され、長さの異なる木を組み合わせた出雲格子が、その両端を引き締めています。
オリジナルマットレス「ふわくもスリープ」を配したベッドスペース。アートワークの“天使のはしご”に見守られて夢の世界へ。
メインルームの一画にあるデスクコーナー。壁に飾られているのは湯町窯(後述)のタイル。
Wi-Fi完備なので、ここで仕事を片付けることも可能。
日本最古の歴史書『古事記』の出雲神話や、『出雲国風土記』に酒にまつわる記述があることから、島根は“日本酒発祥の地”といわれています。その歴史にちなんだ次の間は、なんと酒蔵の麹室をイメージしており、サイドテーブルは酒樽をモチーフにしているという徹底ぶり。お酒にまつわる本や、イラストがかわいらしい島根の酒蔵マップも置かれています。日本酒が好きな方はもちろん、あまり馴染みがない方も楽しめる設えです。
麹室をイメージした次の間。壁に飾られたアートワークは、玉造温泉を流れる玉湯川をイメージ。出雲石や鏡石のモザイクの中に、勾玉が隠れています。
次の間に置かれていた書籍と酒蔵マップ。酒蔵が描かれているのですが、いずれも特徴的な建物ばかり。建築好きの方も必見です。
次の間の奥へ進むと、そこには露天風呂が。「界 玉造」は全室露天風呂付きで、檜または信楽焼の湯船で名湯を独り占めできます。宿泊したのは、1階に位置する檜造りの湯船のお部屋。灯籠は「界 玉造」スタッフが奥出雲の棚田やたたら製鉄の炎をイメージしてデザインし、鍛冶工房弘光が製作しました。
太鼓橋を渡った先、ライブラリーもより快適な空間に
「界 玉造」のシンボルともいえる太鼓橋を渡った先にあるライブラリーも、この度のリニューアルで刷新されました。
ここでぜひ注目してほしいのが、ティーバックを入れた小さな壺や、サイドテーブル。これは玉造温泉駅前に工房を構える、大正時代創業の湯町窯のもの。「民藝運動」で知られる河井寛次郎や浜田庄司、イギリス人陶芸家バーナード・リーチらともゆかりが深く、島根県ふるさと伝統工芸品にも指定されている窯元です。小さな壺のぽってりとしたフォルムや、深みのある色あいが魅力的。客室のデスクコーナーを彩っていたタイルは、ライブラリーではサイドテーブルの天板になっています。
こちらのライブラリーは中庭の竹林に面しており、特に陽光が差し込む朝の時間帯が気持ちいいと「界 玉造」スタッフ・鈴木さんが教えてくれました。朝食の後、穏やかな日差しを浴びてモーニングコーヒーをゆっくりいただくひと時。気候の良い時季なら、ライブラリーのすぐそばに入り口がある、中庭に面したテラス席ものんびり過ごせそうです。
お茶壷として利用されている湯町窯の壺たち。早朝の中庭のテラスは、さながら高原リゾートのよう!
この冬も開催中!日本海の冬の味覚・活松葉蟹食べ尽くしプラン
冬の日本海側を旅するなら、新鮮な蟹をたっぷり食べたい!そんな旅人の願いを叶えるプランが今年も始まっています。
毎年11月6日〜3月20日までの期間限定で行われるズワイガニ漁。「界 玉造」では、2名様から予約できる「タグ付き活松葉蟹会席」「タグ付き活松葉蟹づくし会席」、そしておひとり様で堪能できる「ひとり蟹会席」の3つのプランを2023年3月10日までご用意しています。
今回、「タグ付き活松葉蟹づくし会席」を満喫したのですが、そのお品書きがこちら。
箸休めのお浸しにいたるまで、全てが蟹料理ではないですか!蟹が入っていないのは甘味のみというこちらのコース、2名様あたりタグ付き活松葉蟹を3杯も贅沢に使用しています。生で、蒸して、焼いて、煮て。調理方法によって様々に変化する蟹の味わいを堪能できます。
例えば、「生蟹の杉板奉書蒸し」。
城下町・松江の郷土料理に「スズキの奉書焼き」があります。藩政時代、漁師が焚き火の灰でスズキを蒸し焼きにしていたところ、松江藩7代藩主・松平治郷(はるさと)公がこれを所望。しかし、灰をつけたまま献上するのは忍びないと奉書に包んだのが始まりとされます。この名物料理の技法を界流にアレンジしたのが、「蟹の奉書蒸し」です。松葉蟹を杉板とともに奉書で包み、高温で一気に蒸し上げる一品。身のみずみずしさが保たれ、ふっくらとした食感が生きています。
生蟹の杉板奉書蒸しは調理した後、食べやすい状態で供されます。写真奥は蟹の絹糸揚げ 。
「蟹としじみの鍋」も、独創性が光る一品。石州瓦で作られた鍋はオリジナル品で、「界 玉造」のスタッフも意見を出し合い誕生したものだそう。瓦の遠赤外線効果で、火を止めた後も煮えたつほど、熱々の状態を維持することができます。
鍋のダシには、宍道湖特産のしじみ(※仕入状況により、日によって異なる場合があります。)を使用しており、テーブルで供される際、さらにしじみを追加投入します。しじみから染み出した滋養たっぷりのスープは、奥行きを感じる味わい。一味やミニョネット(粗挽きこしょう)などの薬味が用意されているのですが、鍋のシメの雑炊も、何も入れずありのままの味わいを楽しんでほしい、そう思わせるほど深みがありました。
このタグ付き活松葉蟹プランでは、日本酒やワインのマリアージュも楽しめます。日本酒なら島根県の酒蔵のものを、ワインは島根県産を中心にした日本ワインをそれぞれの料理に合わせて提案しているので、ぜひお試しあれ。しじみをふんだんに使用した鍋のお陰か、たっぷりお酒を嗜んでも、翌日快調ですよ。
「界 玉造」で体験したい6つのこと。
「界 玉造」では、さまざまなおもてなしがあります。旅の体験リストに、どうぞ。
1・心からリラックスできる茶湯の時間
日本庭園に望む茶室「蛙瞑庵(あめいあん)」にて、15時30分〜18時30分の間、お抹茶のふるまいがあります(1組20分・無料、予約制)。亭主を務めるのは、三斎流の師範・影山勉さん。椅子とテーブルが用意された立礼式で、和菓子とお抹茶をいただきます。茶道初心者の方には手ほどきがあるので、肩肘はらずに楽しめますよ。
庭園は昭和13年に造られた朱塗りの太鼓橋と時を同じくして作庭されたもの。影山さんは、お手前だけでなく、茶室に掛けられた掛け軸に始まり、茶室の名前の由来や松江の茶道の歴史など、実にさまざまなお話を披露してくださいました。20分があっという間!リラックスした雰囲気に、旅の疲れもほぐれます。
季節の生菓子は、この日は玉造温泉らしい勾玉をかたどったものでした。お茶室までのアプローチには、かわいいカエルの石像も。
2・日本酒風呂や、日本酒・源泉パックでお肌ぷるぷるに
奈良時代の昔から、美肌の名湯として名を馳せる玉造温泉。さらに日本酒を組み合わせてお肌に磨きをかけましょう。大浴場の入り口には日本酒フェイスパックのセットを、さらに大浴場の源泉処には、フェイスマスクを浸せるよう枡を用意。温泉に浸かりながら、お好みで日本酒や源泉でのフェイスパックができるようになっています。
また、ショップには入浴用の日本酒が。客室の露天風呂に注ぐと、ほのかに日本酒の香りが漂い、リラックス効果も高まります。酒造りをしている杜氏の手がキレイなことからも分かる通り、日本酒は美肌効果が期待できます。日本酒フェイスパックに日本酒風呂と、日本酒づくしの湯浴みの後、驚くほど素肌がなめらかになり、効果のほどを実感しました。
内風呂の中央に社があります。
内風呂内にフェイスマスクをするための源泉処があります。日本酒パックのセットは大浴場の入り口に22時まで用意されています。
岩造りの露天風呂は開放感たっぷり。
界オリジナルのお風呂専用日本酒
3・フォトジェニックな夕暮れ時の風景を満喫
温泉を浴び、夕食までまだ時間がある黄昏れ時、フォトジェニックな風景に出会えます。
明かりが灯された純和風の宿の建物は、昼間とまた趣を異にする風情をまとい、茶室へと続く小道から望む太鼓橋は、より艶やかに。中庭には竹燈籠が灯され、幻想的な雰囲気になります。
中庭から望む太鼓橋もいい雰囲気。
夕暮れ時には、中庭に竹灯篭が灯されます。
黄昏時の温泉街で、出雲神話に基づくモニュメントをめぐるのも楽しい。
4・日本酒BARで、島根の名酒に出合う
“日本酒発祥の地”である島根には、約30の酒蔵があります。「日本酒BAR」(20時〜、予約制)では、県内の酒蔵をほぼ網羅し、代表的なお酒を用意しています。どれにするか迷った時には、辛口・甘口といった味わいの違いや、純米大吟醸・原酒のセットなど、「界 玉造」スタッフがおすすめする3種組み合わせを選ぶことができます。お部屋出しも可能なので、麹室をイメージした次の間で、ゆったり日本酒をいただくのも一興です。
日本酒3種(90ml)+おつまみ1種(1,000円)。アルコール度数が低めの日本酒もあるので、普段日本酒を嗜まない方でも
お試しハードルがグッと下がります。お猪口も島根県内の窯元のもの用意。
5・ダイナミックな動きに圧倒!石見神楽を間近に見る
夕食後、21時15分から始まる「ご当地楽」。伝統芸能「石見神楽」の演目の一つで、「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)伝説」を題材にした「大蛇(オロチ)」が披露されます。
冬期はロビーで神楽を披露。演者と客席が近く、迫力満点です。温かい時期になると、舞台は中庭に変わります。
およそ16メートルもある大蛇は和紙でできているそうですが、総重量が20kgもあるのだとか。くるくるとトグロを巻いたり、目まぐるしく動き回り須佐之男命と闘います。
神楽は「界 玉造」スタッフが練習を重ねて披露しています。この日演じていたのは新人スタッフたち。演目を演じ切った後、口上を述べる際に須佐之男命の面をはずすと、なんと女性のスタッフ。見事な立ち回りに、心から拍手を送りました。
上演時間はおよそ15分。席は先着です。ぜひ、前方で見ていただきたい!
6・ご当地体操で、身体をスッキリ目覚めさせて
朝風呂で身体を温めた後、朝7時から始まる「現代湯治体操」へ。各地の「界」共通の呼吸法やストレッチに加えて、ご当地にちなんだ動きを取り入れた体操を行います。島根は“相撲発祥の地”であることから、「界 玉造」では相撲のすり足や四股の動きで体操を締め括ります。お相撲さんが高々と足を上げ軽々と四股を行っているので、甘く見ていましたが、四股を踏むのは意外と大変!適度に身体を動かすことで、自然と食欲も湧いてきます。
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新規開業の「界 出雲」、リニューアルした「界 玉造」と、2泊3日の界めぐり。島根県内の同じ出雲エリアにありながら、海や山と異なる立地も相まって濃厚な3日間となりました。玉造温泉街に流れる玉湯川沿いには、桜並木が続き、例年3月下旬ごろから見頃を迎えるのだとか。異なる季節の風景も愛でたい。そして、窯元や酒蔵めぐりもしたい。そんな欲求がふつふつと湧いてくる、出雲エリア界めぐりの旅でした。
【界 玉造】
電話: 050-3134-8092(界 予約センター)
料金:1泊38,000円〜(2名1室利用の1名あたり、税・サ込、夕・朝食付き)
URL: https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaitamatsukuri/
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【取材こぼれ話】
湯町窯の代表作は、油なしでおいしい目玉焼きを作ることができる「エッグベーカー」だと「界 玉造」スタッフの鈴木さんから伺い、窯元へ立ち寄りました。「エッグベーカー」は大・小2サイズあり、大でも大人の手のひらにおさまる片手鍋様の形。蓋と受け皿がついています。私は大を買い求めたのですが、朝食の卵料理として、ワインのお供のアヒージョにと、取材以来毎日のように、拙宅の台所で活躍しています。
取材・文/川崎久子