大自然を満喫する日本初のグランピングリゾートである「星のや富士」。旅恋では2017年にメンバーがお邪魔して、森の中で楽しむ食事や自然と触れ合うアクティビティをご紹介しています(過去記事は前編・後編)。
今回はwithコロナ時代の新提案である食のテーマ「明けの贅沢」を堪能してきました。秋めく森でのんびりしつつ、旬を迎えたジビエを味わうとともに、久しぶりの旅だからこそのちょっとした食の贅沢をリポートします。
キャビンとクラウドテラスを活用して、グランピングらしい滞在を
グランピングの楽しみは、チェックインの前から始まります。「星のや富士」は河口湖北畔の丘陵部に、東京ドーム12個分ほどの敷地を有し、施設全体の標高差は100mもあります。ゲストはまずレセプションを訪れ、滞在を楽しくする7つ道具の入ったリュックサックを受け取り、スタッフが運転する宿専用のSUV車に乗り換えてフロント棟に向かいます。
レセプションの壁面にディスプレイされた、リュックサック5種と、
斜め掛けバッグ3種から、好きな色・形をチョイスして滞在の相棒にします
中身は双眼鏡やヘッドライト、マイボトル、ビスコッティなど。このマイボトルには水やコーヒーを入れ、
ビスコッティと共に森の中で好きに楽しむことができ、そのままお土産として持ち帰れます
ヘッドライトなどの普段の生活ではなかなかお目にかからないアイテムを携えて、ちょっとワイルドな乗り心地のSUVに乗るだけで、「アウトドアを楽しむ人」に近づいた気がしてきます。
フロント棟より下はキャビン(客室)エリア、上は木漏れ日デッキや焚き火ラウンジなどを備えたパブリックエリアのクラウドテラスに分けられていて、ゲストは滞在中、上に下にと森の中を散策することになります。
フロント棟にはお土産コーナーも併設。リュックサックも販売しています
ゲストの多くが滞在の大半を過ごしにくるというクラウドテラスは、高低差を活かして森に巡らせた階段やデッキでつながれており、思い思いの場所で寛ぐことができます。チェックイン時から夕方まではウェルカムスイーツの振る舞いがあり、ライブラリーカフェではコーヒーや紅茶を提供しています。私が訪れたときは紅葉が真っ盛り。陽だまりに陣取り、スイーツを味わいながらエリアマップを広げて滞在の計画を練っていると、心がゆるゆると解けていくのを感じました。
森と一体になれるクラウドテラス。秋は紅葉が見事で、木々を眺めているだけで時を忘れることができます
ウェルカムスイーツはスキレットで提供されるバウムクーヘン。
フルーツとマスカルポーネを使った生クリームがよく合います
日が暮れていくと共に、焚き火のまわりに人が集まり出します。やっぱり炎の揺らぎには癒し効果がありますね
このクラウドテラスでは、17時から夕食前のアペリティフタイム「宵のひととき」、19時からは日暮れ後にはウィスキーやワイン、ビールなどが楽しめる「焚き火BAR」、そして21時からは地元の演奏家を招いた「森の演奏会」、また朝は8時〜10時まで、アウトドア用のオリジナルブレンドコーヒーを供する「森の珈琲店」が開かれています。ゲストはここで森に包まれながら、焚き火を囲んだ緩やかな輪の中で過ごすことができます。
日中は自由に、焚き火でマシュマロを焼いてスモアサンドを作ることができます。小腹が空いた時におすすめです
夕食後は「焚き火BAR」へ。「白州」を飲みつつ、演奏会を楽しみました。山梨の秋に乾杯!
翌朝は、落ち葉を拾いながら森を散策しました。冷えた体を温めに「森の珈琲店」に寄り道して、珈琲を一杯
グランピングリゾートですから、クラウドテラスやアクティビティに参加して時を過ごすのがおすすめではありますが、キャビンの居住性も魅力のひとつ。4タイプのキャビンにはグレードは無く、ツインとダブル、トリプルのファミリータイプ、薪ストーブ付きタイプが用意されています。私が滞在したのはツインタイプで、客室正面のガラスからは河口湖の絶景が広がります。この日は天気に恵まれて、素晴らしい景色! 一方で翌朝は曇り空だったのですが、湖面の水鳥やカヌー、湖畔や裾野など近景の紅葉を楽しんで過ごしました。
広ーい!というわけではありませんが、必要なものはすべて揃っていて、妙に落ち着く客室
部屋の3分の1ほどを占める大きなテラスは、グランピングらしさを存分に感じられるソファがあり、ここでコーヒーを入れて寛いだり、バードウォッチングをしたり、ファイアプレイスの炎(夜間のみ)を眺めたりして過ごすことができます。また、後述しますがディナーをここで食べることも可能。そして朝食もキャビンかクラウドテラス、ダイニングから選ぶことができます。
アウトドア気分が味わえる、スノーピークのコーヒーサーバー。初めて使いましたが、上手に煎れられました!
私も朝食をキャビンでいただきましたが、背負子姿で現れたスタッフにまずびっくり。そして釣具をいれるタックルボックスを模したモーニングBOXにさらにびっくり。朝からワクワクしながら箱を開けると、ダッチオーブンで焼いたパンや具材たっぷりのオムレツ、きのこたっぷりのスープなどが現れ、あっという間にオシャレなモーニングの完成です。プライベートスペースだから、御行儀が悪いけれどかたわらに双眼鏡をおき、鳥の声がするたびに、モグモグしながらバードウォッチングする朝食。「あぁ、私いまグランピングしてる」と一番実感したひとときでした。
「おはようございます!」と現れた姿にびっくり。かつて富士登山の道案内をした「強力(ごうりき)」
のスタイルにちなんで、背負子のなかに朝食を入れて持ってきてくれます。
コーヒーやスープはポットやジャーに入っているので熱々のまま。
4種のコンディメントで、パンやヨーグルトなどを楽しめます
その時々の気分に応じてクラウドテラスとキャビンを使い分けることで、アクティブグランピングからおこもりグランピングまで、様々に過ごすことができます。
ひとりでもジビエが味わえる! 四季の森の恵みを堪能するディナー
「秋だし、美味しいジビエを食べたい!」そう思って、日暮れとともに訪れたのは、木立の中に造られた「フォレストキッチン」。グランピングの醍醐味は自分で調理する楽しみ。星のや富士のスタッフ「グランピングマスター」のサポートを受けながら一皿ずつ仕上げていく、「明けの贅沢 〜おひとりさま美食〜」をいただきます。
これは、通常なら2名以上を対象にした贅沢食材を、1名から体験できるようにアレンジしたもので、まだまだ誰かと連れ立って旅をするのは、誘う方も誘われる方も気遣う現状の中、「でも旅に行きたい」「その土地ならではの美味しいものを食べたい」という、withコロナ時代の旅好きグルメさんのためのおひとりさま企画です。
本格的な調理道具もグランピングマスターが一緒だから失敗することなく使いこなせます
赤々と燃える焚き火の脇を抜け、席に着きます。ほかのゲストのテーブルとは十分に距離があり、しかも屋外。今まで旅を控えていた人でも、安心してディナーを楽しめる空間です。
ジビエとは寒い時期のものだと思っていた私に、「こちらでは一年中、シカやイノシシをお召し上がりいただいています」とグランピングマスター。生体数が増えすぎたシカやイノシシは森の恵みをたっぷりと身体に蓄えており、その肉を信頼のおける猟師の元から卸してもらっているため、オールシーズン、ジビエが味わえるのだそうです。春は山菜や新芽などを食べるのでヘルシーで旨味が乗り始める。夏はジビエらしい獣らしさが際立ち、通好みの味わい。秋は森の恵みを存分に食べてうまみが乗ってくる時期で、もっとも味わい深くなる。冬は木の皮やもみ殻などを食べているので脂身と赤身のバランスが良く、ジビエビギナー向け。季節ごとの森の移ろいそのままに、ジビエも味が変わるとは! 考えてみれば当たり前なのですが、目からウロコでした。
今回はシカとイノシシに、きのこや栗、柿、さつまいもなどを合わせた秋満載のメニュー。秋の味覚に目がない私は、本当に良い時に来たなとメニューを眺めただけでときめきが止まりません。しかも地元・山梨のワインなどアルコールのペアリング付き(ノンアルコールドリンクのペアリングもあり)です。
アミューズブーシュは、イノシシのパンチェッタときのこのマリネ、焼き栗、食べられる紅葉。大きな葉っぱをお皿代わりにした様子は、子供の頃の森でのおままごとを思い出すような可愛さです。ペアリングは、発酵の段階で焚き火の熱を通したドメーヌ・ヒデのスパークリングワイン「キャンパーニュ」。芳醇な香りと焚き火のスモーキーさで、今宵のディナーの始まりを盛り立ててくれます。
パンチェッタのイノシシ肉のコクと脂身の甘味、そしてきのこの香りとマリネの酸味が絶妙にマッチした一品
アペタイザーは、ウィスキーの白州樽のチップで燻製した鹿もものハムとピオーネ、柿のサラダ。目の前で燻製器を用いて香りを移していきます。まずはシカ肉らしく赤黒く照り映えたハムの野趣あふれる味わいを堪能し、それから白ワインビネガーとパルミジャーノ・レッジャーノを合わせてサラダとして楽しんでみました。
シカのハムの強い旨みをパルミジャーノ・レッジャーノがまろやかに包み込み、
ピオーネと柿の爽やかな甘味がアクセントになり、これも美味。お腹の準備は万全です
続くスープから調理に参戦です。ハナビラタケ、アシツキナメコ、キクラゲ、マイタケ、ダイコクホンシメジの5種のきのこをダッチオーブンで炒めて、シカとイノシシのブイヨンに香味野菜を加えたコンソメスープを注ぎ、イノシシのつみれを入れて煮込んでいきます。ダッチオーブンでの調理は初めてでしたが、グランピングマスターが火加減などを見てくれるので安心して取り組めます。初調理の出来は上々で(素材が良いから当然ですが)、きのこたちの競演が素晴らしく、さらにバックグラウンドにジビエの深いコクがあり、ずっと味わっていたい…と願う一品でした。ペアリングは穏やかな酸味でスープの味を邪魔しない、塩山の奥野田葡萄酒の「ハナミズキ・ブラン」というオレンジワインを。
きのこはこのボリュームで1人前。塩胡椒をプラスするとグッと味が締まり、きのこの旨味が際立ち、ワインも進みました
メインディッシュはシカ肉のコンフィです。手元に運ばれてきた一見スイーツのような瓶に赤ワイン、フォンドボーを使用したブルーベリーのソースに漬け込んだコンフィが入っています。これをダッチオーブンに開けて、仕上げの煮込みを加えます。付け合わせはクロアワビダケとさつまいも、ブロッコリーのグラタンで、こちらも火にかけて温めます。きのこの旨味が効いていて、見た目以上に大人な味わいです。ペアリングは、勝沼の白百合醸造シャトーロリアンの三重奏(TRIO)2018。3種のブドウの美味しいとこどりをした、スパイシーで果実味のある肉料理にあう一本です。
コンフィにすることで旨味とジューシーさが引き出されたシカ肉は、とっても柔らかく、しかし牛肉のような
しつこさや重さがなく、絶妙に絡むベリーのソースとともにコクの余韻を残しつつあっさりと食べられます
最後は締めのご飯料理。ダッチオーブンの中に溶岩を敷き込み、ギンナンとマツタケをジビエのコンソメで炊き込んだご飯を朴葉で包んで載せて温めます。このご飯を、①シカの大和煮、②小口ネギ、生姜、ミョウガ、ヘーゼルナッツ、③ジビエのコンソメ茶漬けのアレンジで楽しみます。そして締めのペアリングはなんと日本酒。大月の笹一酒造のプレミアム日本酒「旦」は、米のほんのりとした甘さと軽い口当たりの食中酒です。
アレンジ3品の妙に感服。特にヘーゼルナッツがこんなにご飯に合うなんて!と驚きました。
個人的には全部乗せがやっぱり一番美味しいように思いました
デザートはアップルパイです。リンゴをソテーしてキャラメリゼして、リーフパイとバニラアイスと共に盛り付けます。センスが問われる盛り付けに苦戦しつつ、なんとか完成。これなら家でもできるかもという、ようやく手が届きそうなデザートでディナーを締めくくりました。
グランピングマスター曰く、「きれいに作ったのにもったいないですが、全部をグズグズに
混ぜて食べるのが絶品です」とのこと。試してみたら、もうサイコー!
非日常がいっぱいのディナーは、ひとりでも楽しさと美味しさにあふれ、途中には間近に鹿の鳴き声が聞こえるという、サプライズ演出も。薄暗い中で自然に包まれて食事をすることで、視覚と聴覚が抑えられ、その分味覚が研ぎ澄まされて、いつもよりずっと真剣に食に向き合えた気がしました。むしろ、美食を味わうならこれくらいが良いのかもしれません。人との触れ合いが疎になった1年でしたが、離れたテーブルから楽しそうな笑い声が聞こえてくると、ふっと心が和みます。次は誰と来ようかな? と思いを巡らす楽しみも生まれました。
贅沢ってこういうこと! キャビアをたっぷりと乗せたダッチベイビーに舌鼓
「星のや富士」では、夕食を3つのスタイルから選ぶことができます。ひとつは前述したフォレストキッチンの「狩猟食ディナー」、そして杉林を望むダイニングでの「グリルディナー」、そしてキャビンに届けられる「山麓のしゃぶしゃぶ鍋」や「グランピングカレー」といったルームサービスです。withコロナ時代となった今、家族だけで安心して食べられるなら旅行にいきたい、という方も多いはず。食事スタイルの選択肢が多いのはとても嬉しいですね。
さて今回、もうひとつ体験させていただいたのが、ダイニングで供される「明けの贅沢 〜贅沢な一皿〜」。予約制ではなく、ダイニングでディナーをとるゲストにその場で提案するもので、旅の高揚感のなかで「ちょっとだけ贅沢しちゃおっか」という気持ちに合致する一皿です。
贅沢食材は、ジャパンキャビア株式会社の宮崎県産キャビア。星野リゾートのリゾナーレ3施設、星のや3施設、界17施設で、キャビアにそれぞれの土地の持ち味を生かした一品を考案し、11月1日から提供が始まりました。
この特別感ある一皿を目の前にしたら、日頃の疲れが吹き飛びました。今日はたっぷり贅沢を楽しみます!
「星のや富士」では、スキレットで焼き上げた外はカリカリ、中はモッチリとした食感のダッチベイビーをベースにした一皿。普段は山の食材を相手にしているため、キャビアという海のお題には試行錯誤を重ねたとのことですが、何度も試作した結果、ダッチベイビーに合わせた特注のサワークリームと、エシャロットの食感をアクセントにした口福の一皿が完成しました。
いろいろ試しましたが、キャビア、サワークリーム、パセリをのせて、軽くレモンを絞った
「全部乗せ」がやっぱり一番。ダッチベイビーに甘みがなく、サワークリームの酸味もあるので、
贅沢感はありつつも重くなく、程よい食前の一皿となりました
実は私、恥ずかしながらちゃんとキャビアをいただいたのはこれが初めて。感想から言うと、「今日が初めてでよかった!なんてキャビアって美味しいんでしょう!」今まで食べていたキャビアはしょっぱいイメージがあったのですが、国産生キャビアは魚卵の柔らかさと芳醇な海の香りとコクがあり、本当の美味しさを知ることができました。また、爽やかな柑橘のアロマがキャビアの風味を引き立てる甲州種のスパークリングワインをペアリングすることもできます。
ここ数年、お取り寄せの多様化が格段に進みましたが、こうした贅沢な一皿とそれを味わう至福のひとときは、旅に出ないと味わえないなぁとしみじみ。こちらはおひとりさま美食ではないので、お二人でシェアしてもOK。旅の思い出にぜひ試してほしい一皿です。
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「明けの贅沢」にジビエとキャビア、どちらにするか究極の選択ですが、2泊すれば問題解決(笑)! 飽きさせない食の魅力と自然の中でのアクティビティをゆっくりと満喫して、食べることの意味、生きることの楽しみに思いを向けるひとときを感じてほしいと思います。
【星のや富士】
1泊1室81,000円〜(食事別/税・サービス料込み)
https://hoshinoya.com/fuji/
取材・文 多田みのり